4-4 謎の声と西海岸での発表
記憶が飛んだ。何があったのかは俺にはわからない。でも、俺の近くに少女がいることは目を開けて直ぐ分かった。
「ここは……」
ここがどの部屋か俺はすぐ分からなかったが、次第にこの部屋が何処にあり、誰の部屋なのかというのを鮮明に捉えていった。
「父さんの……部屋」
「そう、だね。ここはお父さんの部屋だね」
あれ。おかしいぞ。俺はこの少女を見たことがない。今までこの少女の姿を見たことがあるのか、俺は。しかも少女が何で父親の部屋を知っているんだ。
「お前は一体誰だ……? もしかして、俺を殺そうとか考えているんじゃないだろうな?」
「そんなわけ無いじゃん。お父さん」
「お父……さん?」
初耳だ。俺は自身の耳を疑った。まず俺は冷静さを保つため、今この状況が一体どういう状況なのかを考えた。次に俺は、この少女の声、体格、その他色々見た記憶を脳内にインプットしていった。
「お前、何人だ? 日本人か? 頭、大丈夫か―――?」
「何を言っているの、お父さん。私は純粋な日本人だよ。お父さんの、子供だよ?」
俺の子供? 俺はまだ玲香とはそういう関係は築いていないが……。もしかして俺は未来で俺を拾ってくれる女性に出会ったのか? ……いや、それ言ったら玲香が可哀想になるが。
「ん? 未来……?」
「どうしたの、お父さん」
「いや、なんかさ、考えていたらお前が『未来から来たんじゃないか』なんていうこと考えちゃってさ。そんなの、ないよな……」
「私、二〇二五年から来たんだよ。お父さんはその年ではまだ生きてるよ」
「……生きていないほうがおかしいだろ」
「おかしくなんかないよ? だって、自殺とか交通事故とか災害とか、予期せぬ事態に巻き込まれるかもしれないんだよ?」
「……」
俺はやはり自分が相手に対して論破、または相手に賛同してしまう時、あんまり自分から言えないんだな。おどおどしていて馬鹿みたいだ。
「あ、もう時間だ。じゃあ、帰るね」
「え? ちょ、待てよ……。もうちょっと話をしよう……」
「あと、今日はタイムマシンが生まれる日だから、テレビはしっかりとつけておきなさい」
「こ、こら待て……」
俺の呼び止めを無視したのか、その少女は消えていった。白い煙に包まれながら。それと同時に俺は「はっ!」という声を上げて目を覚ました。
「夢……か」
夢オチだった。外は日光は無いが少し明るくなっていて、徐々に明るくなっていたのが分かった。時計で現在時刻を確認すると、現在時刻は午前五時数分前だった。
「……おはよう」
玲香の声が、俺の耳元に聞こえる。玲香の右手が俺の頬をなぞって、俺の顔は真っ赤になる。それを見て「可愛い」と言われるのがオチなわけだが、まだ日光も入っていないし、そこまで見えないから、上手くいけば回避できるかもしれない。
「昨日、早く寝過ぎたせいでこんなに早く起きちゃって、だけれどすることが何も無い」
「確かにな。昨日はあんなに疲れてたのに、今日は本当に疲れていないよな」
その時、俺のスマートフォンにまたメールが届いたらしく、アラームが鳴った。まだ朝五時だ。着信音さえも騒音に聞こえてくる。……て、これは電話じゃん。
「もしもし?」
「テレビを付けて、お父さん」
そこで通話が切れた。ただそれだけだった。『テレビをつけろ』という、ただそれだけのメッセージだった。でも、何か俺はあの少女に操られている気がした。
俺は、自身の携帯電話でワンセグ放送を試聴することにした。まあ、たまには携帯電話も活用しないと携帯電話も可哀想だろうし。
そんな自分のどうでもいいような考えはさておき。俺はワンセグ放送を視聴しようとして、携帯電話を俺の目の前……でなく俺と玲香の中間、俺の目線の左側に置いた。
ようやく繋がった時、テレビは震災の報道もしていた。が、効果音とともにテロップで出てきたのは地震関連の情報じゃなかった。それはあの謎の少女が言った通りのことだった。『アメリカロサンゼルスにてタイムマシンが発表される』というものだったのだ。
「タイム……マシン」
そういえばさっきのあの少女は、「未来からきた」と言っていた気がする。でも、何で来たのかは語られていなかったため、俺はあの少女が何を使って、どういう風に現代へ来たのかは分からずにいた。
「なあ、玲香。もし、この世界にタイムマシンがあるとしたら、どうする?」
俺は、さっきこの現代にきたあの少女(もしかしたら俺の夢の中だけなのかもしれない)のように、玲香も「父に会いに行く」だとか、「夫に会いに行く」だとか言うのかと思い、聞いてみた。それ以外の意も有ったのは事実だが、今は大きく取り上げないでおく。
「そうだねぇ。やっぱり、結婚して幸せな生活を送っているのか見てみたいし、昔の黒歴史を消し去りたいかな」
黒歴史、つまり俺に例えれば俺の厨二病の時代によく言った、「我が魔力、解き放つ時が来たッ!」みたいな発言を撤回しにいくわけだ。でも俺は厨二病だからといってどうしたわけではない。友達がまずいなかったから、自身で魔王キャラ、悪役キャラになるため黒い服に身を包み、親にバレぬよう日々魔力練習をしたわけだ。
だけれど、当然「魔力」なんざ架空のものだし、それに気づくまでコスプレ用に出費した衣服の金は中学生の小遣いからすれば、大変な額になりそうだ。
自分の中で、今までの自分の経験を元に玲香の発言をその自分の経験に置き換え、俺は「だよなあ」なんて、「気が本当にあうな」と思いながらそう思っていた。
「黒歴史かぁ。俺も有ったわ」
「今朝五時だけどさ、何かしない? 暇」
「読書とかどうだ?」
俺はそう玲香に告げ、ベットの下の本棚からライトノベルを取り出す。俺自身、これとして読書したいわけでは無いのだが玲香のためだ。まだちょっと日が昇るには早くて、少し肌寒い時は本を布団の中で読むのが一番だ。
ゲームもしてもいいが、オンラインゲームをするには今から会員登録してやらなくちゃいけないし。本なら俺は大量に持っているから何冊でも貸してあげられるし、ライトノベルなら読みやすいし。なんたってライトノベルは、「軽く読める小説」っていうのが元の語源みたいなものだし。
一般の読書には当然、ミステリー、ホラー、推理など一般小説を読むべきだが、今は学習する時間ではないし、まず俺は年齢二三だし、大学卒業したし、まだ頭も冴えていない中で一般小説を読むのは少しハードルが高い。頭が冴えれば一般小説でもいいんだがな。
「これ読みたい」
玲香が取り出したのは、『消えた王妃と奪われた文明』というライトノベルだった。このライトノベルは、今は「一般書籍版」として発売されていて、ライトノベル版は市場価値が少し高い。それに、今俺の持っているのは「傷があまりない」ので、それだけ値段も上がる。中古で古本を買うなど、本を売って自分の金にするなど、作家からすれば言語道断。「ふざけるな」っていう話になるが。
この『消えた王妃と奪われた文明』というライトノベルの原作者はもう生きていない。数年前に天国へ旅立っていった。この作品の元ファンだった俺からすれば結構ショックだったし、「作者が生きているうちに買ってあげれば」なんて思ったりもした。
この作品は、主人公が俺と同じ二三歳で、第一巻は一七歳の時のことが、第二巻は一八歳……と、一巻イコール作中で一年間と同じである。
ヒロインは魔法使いの主人公の幼馴染。魔法使いになると決めた主人公は幼馴染超えを目指すが……待っていたのは王妃亡命事件! そんな、主人公と幼馴染、魔法使い同士の色々な関係、感情変化を描くストーリーで、過去に三回アニメ化された。
――おっと。さすが俺、元ファンの名は伊達じゃないな。
「読めばいいじゃないか。俺は自分で探すから気軽に読みな」
「……自分で探すって、まさかその、えっちい本?」
「違うわ! ライトノベルだよ! なんでそんな本選ばなきゃいけないんだよ!」
「……ごめん」
萎れた表情。下を向いている。顔が真っ赤かどうかはわからない(でも、責任を感じているから顔は真っ赤じゃないかもしれない)が。
俺は、ベットの下の本棚からライトノベルを適当に選び、二冊布団の上に上げた。一冊目の本を読み始めた時、もう起きてから十分くらい経過していた。




