4-2 非緊急時のような振る舞いで
風呂に入っても、「今異性と風呂に入っている」みたいな事を少しは思ったが、そんないい雰囲気にはならなかった。
そうして、体を洗い、髪を洗い、顔を洗い、全身を拭いて着替えて自室へ戻ろうとした時、テレビからこんな音声が聞こえた。
『―――先程、千葉県船橋市にあるインターネット基地局が攻撃され、現在炎上中です。また、現在周辺の消防署などが消火に入っていますが、沈下した後インターネットに完全に接続することが出来るようになるのはまだ時間がかかりそうです』
ネットに接続「できない」……?
俺は、その単語を聞いた瞬間、目が一瞬で覚め、自身のスマートフォンを取りにリビングを越えようとした。……が、その時俺はスマートフォンを取りに行くという、ただそれだけのことに気を取られすぎたおかげで、裸のままリビングに出てきてしまった。
「……あ」
「うん。兄貴、服を着てね? 変態呼ばわりしてあげようか?」
「……遠慮します」
俺は、服を来て(当然下着もつけて)、再度スマートフォンを取りに行った。確かにスマートフォンの受信アンテナの表示は圏外となり、一切繋がらなくなっていた。
「嘘だろ……」
まるで、それがなかったかのように俺は考えたかった。だが、そうもいかないのだ。現実を受け入れなければいけない時は一回や二回じゃなくて、もっともっとあったのである。
「……大変なことになってきたね。……ろくのん」
玲香は俺に抱きついてきた。それくらいで俺が動じるというのは紛れもない事実なのだが今回は違う。抱きついたといっても、玲香は「裸」だ。大事なことだからもう一度言うが、玲香は「裸」なのだ。
つまり、俺が玲香と密着すればするほど、玲香のアレやアレが当たるのである。
「お前もまず服を着ろ」
「キャー。後ろ見てるぅー」
「ギャル化すんな。てか、今のは俺も見ようとしてみたわけじゃないし無罪でしょう」
「ノー。ノー。ユー・アー・ギルティーです!」
俺は、「ギルティ。ざけんな。俺がなんで有罪なんだよ」なんて心の中で思って、はぁ、と馬鹿馬鹿しいものを見る目で下を向きため息を付いた。
「さて、お前も服着たっぽいし寝るか」
「……二人の愛の時間を育むわけですね! 濃厚な愛を育んで愛の結晶を……」
「黙れ。それとお前いつの間に髪を銀色に染めた! てか、なんで右手にバール持ってんだよ! おかしいだろ! クトゥルフ神話俺分からねえよ!」
「……へえ。やっぱり気づいてくれたんですか。私のネタに」
「いや、俺これでも『元非リア』だし。一応アニメは好きだし。読書好きだし」
「日本人ならマンガやアニメ、小説もしっかり読むべきだよね」
俺は、玲香のその台詞に「だな」だとか、「そうか?」だとかいう返答はしないでおいた。ここまで、どうやって来たかというのを考え始めてしまったからな。
最初はニューヨークの地震、ついさっきの東京地震、東京大火。んでもって、俺は今玲香といちゃついている。こんなことしてたら確実に罰が何処かで俺に降り掛かってくるはずだ。
「でも、もう寝るの? まだ七時だよ? そんなに疲れたの?」
「いや、疲れたっていうのは間違ってはいないんだが、なんていうかこう、はやく横になりたい」
「疲れたってことだよね?」
「……確かにな」なんていう言葉をなかなか口にできない。でも、黙っていても「図星か」と言われるだけなので、もう告白してしまったほうが楽なのではないだろうかと思い、俺は玲香に「だな」と一言返しておいた。もしかしたら俺はプライドが相当強いのかもしれない。
「じゃあ寝るか。あ、美玲。一階の窓閉めは頼んだぞ。二階は俺が閉めとくから」
「わ、私の部屋に入ったら殺す」
「誰が入るか。じゃ、後峠、ゆっくりと」
「おう」
「玲香、行くぞ」
「おーんーぶー。おんぶがいい! 歩くの嫌だあ!」
こいつ、俺を誘っているのか……なんて、キモオタみたいに考えたくはないな。ギャルゲーならここで、「おんぶする」「おんぶしない」「手を繋ぐ」だとか、結構選択肢が出ているだろう。(「手を繋ぐ」に関しては選択肢にないかもしれないが)
「しゃーねーな、全く。今回だけなんだからな。感謝しろよ」
何時も店長として店を切り盛りしている玲香に感謝の意を込めたいところなのだが、実際俺は玲香からお礼やら何やらされていない気がする。どことなく、玲香にばかり振り回され、俺の貯蓄を使われている気がする―――気のせいか。
俺は、そんなこと考えても、逆におんぶした後に玲香にあんなことやこんなことをお仕置きとしてしてしまいそうだったので、心を落ち着かせて玲香をおんぶした。
「……結構、軽いんだな」
ここは「重い」なんて言ってはいけない。当然だ。この俺を舐めるな。後峠よりはギャルゲエロゲをしてはいないが、それ系を「一切」していないわけではないので、そういうような、「これをするとヒロインはキレる」みたいな知識はある。例として、「体重が『重い』というのは、大抵ヒロインが主人公に活を入れる、だから「禁句」なのだ。
「うぅ……。疲れたぁ」
こうしてみると、やっぱり可愛いよな。いい匂いするし。……ってこの件何回やってんだか。でも、それだけ玲香は俺から見ると本当、「運命の人」みたいな人なのだ。




