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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第四章 壊れゆく日常、生まれゆく文明と問われる兄妹の絆
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4-1 世界の中心と首都の壊滅

 その日は夕焼けがとても綺麗で、俺達四人は空を眺めながら夕飯を食うことにした。でもまあ、日が暮れるのは六時すぎ。そんなに長い時間夕飯を食うことは出来ないので、日が暮れた後は家の中で夕飯をとった。

夕飯の最中、玲香がテレビをつけた。


「……ねえ、ろくのん」


 玲香は俺に話しかけてきた。玲香の指はテレビの方を指している。テレビには、黒い煙がビルから上がっている映像が見てとれた。


「なんだ……これ……」

「わからない。テレビをつけたら偶然こうなったていたから……」


 画面右上には「ニューヨーク」「日本時間午後三時」という文字が出ている。画面の中央は、ビルから黒い煙が上がっている映像が映されていて、それはまるで今から十数年前に発生した「同時多発テロ事件」を思い出すかのようだった。


『――ええ、ニューヨークでは、日本時間午後一時すぎに地震を観測したそうです』


 テレビはそう伝えてきた。地震がこの黒い煙のあがる事件があった数時間前に起こったということをだ。でも、この時俺はまだ『地震とテロ』というこの謎の関係に、全く関心を持っておらず、テレビを見て「うわあ……」程度にしか思っていなかった。


 その時、俺のスマートフォンにメールが届いたらしく、着信音が鳴った。


「どれどれ……『最終警告だ。新潟を明日十六時に大地震、大津波が襲う。当然、君の働く洋食店も壊滅するだろう。だから、覚悟をしておきたまえ』、だと……?」


 また予言メールだ。今日は、なんだかんだでこの予言メールに助けられている。『観覧車でキス』とかも予言してくれたし、『玲香がさらわれた』ということもそうだ。……あれ? 観覧車の予言の時、なにか不吉なこと書いていなかったけ。いや、今はどうでもいいか。


「さて風呂はいるか」

「はーい」

「じゃ俺風呂行く……って、もしかして、玲香。お前も入ったりするんじゃ……」

「当然、でしょ?」


 玲香は笑顔で俺の方を向いて言った。なんだかんだ言って、本当に玲香は性格の変動が凄いな。ツンデレになったり、男口調になったり、敬語を使ったり……。そして今は。


「笑顔なのはいいんだが、包丁は持っちゃダメだ。それは怖いじゃないか。俺が殺されちゃうじゃないか。ヤンデレルート直行、最悪バッドエンドじゃないですか」

「いや、人のことを勝手に殺人鬼呼ばわりすんな! それに私はヤンデレなんかじゃないって! ……前にトラウマ抱えているけど」

「トラウマ……?」

「それは、あんまり触れないでほしいな」


 俺は、玲香がそう言ったので「ごめん」と素直に、直ぐ謝った。それを見て、玲香は「なに主人に仕えるような風に振舞ってんだよ」なんて言われて、誂われたような気分になった。その時だった。


 テレビに目を向けると独特のあの音と、音声が聞こえてきた。


『―――緊急地●速報です。強い揺れに警戒してください。緊急地●速報です強い揺れに警戒してください。関東、静岡、福島、新潟、山梨』


 緊急地●速報だった。今から少し前に開発され、運用が開始されたシステムだ。テレビの画面には、青バックに白色の文字、上の方には赤バックで『緊急地●速報』と書かれており、左の方には地図が出ていて、海が青、陸地は黄色で示されていた。


「東京湾で地震……だと?」


 地名が書かれて、その地域に警告を促す文の上に小さく『東京湾で地震』と書かれていた。しっかりと、それは記されていた。


 テレビの画面は、ニューヨークの映像から、東京にあるテレビの本社スタジオに切り替わった。そして、アナウンサーが現状況を伝えようとしていた。でも、あまりの揺れにアナウンサーは状況を伝えることが出来なかった。


「揺れ……てる」


 新潟市東区でも揺れを観測した。今思えば、この新潟空港近くのこのエリアは相当前、新潟地震の時に大きな津波が襲ったらしい。また、震度はその当時で五。現代の震度で言えば、震度六強くらいだ。今は東京で起こった話だが、神戸で起きた阪神淡路大震災の際、この新潟市(政令指定都市移行前のため、区については触れない)でも震度一を観測した。


 今回、東京で発生した地震は越後の山脈を乗り越え、太平洋側の反対側の日本海まで到達したのだ。でもまだ、震度に関しては情報が入っていない。


『―――えぇ。先程東京湾北部を震源とする、マグニチュード7.7……今震度が上がりました。地震の規模を示すマグニチュード8.1です。マグニチュードは8.1、最大震度は七、七です。深さは10キロです。この地震による津波の心配はありません。若干の海底変動が起こるかもしれませんが、津波の心配はありません。繰り返します―――』


 震度、マグニチュード、その他諸々についての言及が入った。一方、テレビを通して、新潟市に居る俺は先程のメールを見返した。


「このメールは読み込めません……?」


 何かがおかしい。ついさっきまでは見れたんだ。俺はスマートフォンを弄る。もう、変人のような風になっていたが、読まないと。でも、俺の記憶の中ではさっきのメールには『新潟がどうたらこうたら』って書いてあった気が……。


「どうしたの、ろくのん?」

「いや、特に何もない……。なにもないんだ」


 その時、テレビではニュースの速報が入っていた。それに気がついたのは後峠だった。


「六宮、テレビを見ろ!」

「え?」


『―――犯人は、東京●ワー、東京スカ●ツリー、在京●レビ各社、もう一つの重要基地局を破壊すると国会にメールを送り付けました。また―――』


 脅迫らしい。でも、それは俺には関係ない。だって、テレビ局が破壊された所で、俺にはネットがあるのだから。そう、インターネットが。でも、インターネットが消えたとしたら俺は一体どうするんだ……? 新聞に頼る? こんな夜中に号外が配られるのか?


『新しい情報が入って来ました。先程、東京スカイツリーに航空機が突撃したとのことです。この航空機は羽田空港を出発、札幌へ向かう航空機だそうです。現在、スカイツリーは炎上しており、暗闇の中に赤く光っています。近隣の住民の方は、直ちに避難をしてください。危険です、火災から逃げてください。避難をしてください』


 火災。あれ? これさっきテレビで報道していなかったっけ…? ……そうだ。ニューヨーク。昼間、ニューヨークで火災が発生したんだ。あの時も地震が。……まさか。そんなこと……ないよな、何を考えているんだ俺は……。


『現在ご覧頂いている映像は、東京スカイツリーの方向を移しております。スカイツリー以外にも、火災で炎上している家屋、ビルが数多くあります。避難の際は火災にもご注意ください。カメラは方向を変え、こちらはお台場の方向です。こちら、お台場の方向でも、大きく燃えているのが見られます。続いて、こちらは横浜の方向です。いつもは夜景が綺麗な横浜みなとみらいですが、今日はその夜景を見ることができません。また、あれは川崎の方向でしょうか、火が大きく上がっているのがわかります。あれは工場でしょうか』


「大変なことになってきたぞ……」

「ろくのん……手、繋ごう?」

「今はまだ停電していないぞ。それに入浴は少し延ばす。まだ風呂には入らない」

「ねえ、ろくのん。テレビの画面が切り替わってる……」


 俺がテレビの方を向くと、画面に映されたアナウンサーは『大阪からお送りします』と一言言って、ニュースを放送し始めた。


『ご覧の映像は、現在の東京上空です。先程のニュースでもあったように、在京●レビ各社、東京スカイツリーは大炎上しております。また、先程の犯人からの脅迫にもあったように、東京タワーも現在炎上しており、元の原型を見せていません―――』


「嘘……だろ……」


 犯人の脅迫はほぼ当たった。東京は壊滅状態だ。地震で一般家屋は破壊され、耐震設備のある建物すら、ランドマークすら破壊された。そして残ったのはあとひとつだ。『―――もう一つの重要基地局を破壊する』というものだ。


 重要基地局。関東、東京もしくはその周辺にある重要基地局。まさか、羽●空港……? いや、その可能性はある。「空港」の一大拠点、基地だし、東京都にもある。それなら、日本●道館……? 東京ビッ●サイト……? どちらも可能性はある。でも、今のところ建物の高さも高いし、重要な所、つまり両方共電波を、つまり「情報を発信する場」というわけだ。つまり、情報を発信する場で、建物の高さが高い……。


「東●……都庁?」

「ろくのん。東京都●がどうかしたの?」

「……いや、特に何もない。無いのだが……」

 しかし、これ以上隠していてもバレるのは時間の問題だ。玲香はきっと俺が隠していることに気づいてくるだろう。そうなれば……俺は……。

「いや、本当に何もない。だから風呂に行こうか」

「うん!」


 俺は、玲香に俺が何を考えていたのかということを隠しておいた。玲香ももしかしたら、俺のために疑っていないのかもしれない。それ以上はいけない、そういう境界線を引いているんだ。でも、もしかしたら俺はその境界線上を踏み、境界線の向こうへ行ってしまうのかもしれない。


 普通の男(といっても俺ももう中高生というわけでもなく、二三歳だが)なら、「女の風呂」だとかいう単語を聞けば、暴走モード、象さんがパオーンしてしまうかもしれない。 


 でも、今俺はそんなことを考える余裕などなかった。なぜなら、「地震とビル」という、一見何の関わりもないような事同士が、関係性を持とうとしているからだ。


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