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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第三章 遊園地デート
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3-15 ハンドレッドタワー Ⅱ

 俺は玲香を連れて、反対側に回ってきた。そこにはしっかりと冷蔵庫が置かれていた。隣にはベンチもあった。なんとなく昭和の薫りがするような、そんなベンチだ。


「座るかな。ま、先に玲香座らせるか。……よいしょ」


 俺は、さり気なく玲香の背中と太ももの裏に手を回し、いわゆる「お姫様抱っこ」をしてあげた。その瞬間、身体が持ち上がったのを感じたのか、俺にお姫様抱っこされているのを見たからなのかよく分からないが、玲香は顔を真っ赤に染めていた。


「おいしょ……」


 そろそろ手も疲れてくるので、俺は即座にお姫様抱っこを止めて、玲香をベンチに座らした。その後、俺は玲香の隣に座って、足を少し伸ばした。戻してあくびをすると、今度は冷蔵庫を開き、中にある飲料を調べた。


「玲香、何飲む? ……て、オレンジジュースしかないじゃん。うわ……」

「じゃあ、いいよ。オレンジジュースもらうよ」

「でも俺の分は……。って、ちょ……」


 俺は玲香に押されてベンチの上で仰向けになった。玲香は、俺の両肩の隣に右左の手をそれぞれ置いて、俺の顔に自身の顔を近づけてきた。


「―――間接キス……しちゃおっか?」


 顔を真赤に染め上げた上で、俺の顔と玲香の顔がもうあと一センチ位しかない所で、玲香はそう言った。俺は当然、女性経験も豊富ではないから、その瞬間に「ズキューン」と頭の中に何かが走って、心臓の鼓動が一気に早まった。


 俺は「お、おう……」と、身体を震えさせながらそっぽを向いて小さな声に出した。玲香は、俺がそっぽを向いたのを見て、俺の顔を目掛けて顔を近づけてくる。


「近っ……んむっ!」


 その瞬間、俺の唇に玲香の唇が触れた。一瞬の出来事だったが、触れたのには代わりはない。とても柔らかくて、弾力があった。さっき、奢るか奢らないかで玲香に迫られた時とは違っていた。どこかが違っていたのだ。


「(……何考えているんだ俺は! 俺は中学生じゃないんだ! そんなドデカイ妄想膨らましちゃダメだ! ……でも、すげえ柔らかかったな……。いやいや、こういう時は……)」


 本当に俺は妄想真っ盛りの男子中学生がするような妄想を膨らましていた。もしかしたら、俺は恋愛感情だけはまだ中学生なのかもしれない。友達と付き合うということは、一応美玲が友達という状況が一時期あったし、ネットで友達を作ったこともあった。


 だから俺は、友達と楽しむということに関しては、そこまで楽しめなかったというわけではない。 


 なにせ、友達というのは「量」ではなく、「質」が第一にその友達と楽しむためには必要不可欠なのだから。俺はそう思っている。


 俺が玲香の方を見ると、玲香の上唇と下唇の間から糸が垂れていた。それは途中で途切れていて、俺の方にもその糸は続いているようだ。その透明な透明な糸は。


「間接キスじゃなくて、フレンチキスじゃん。ろくのんのバーカ」

「ば、馬鹿いうな! 俺はそういうことのためにキスしたわけじゃないし、今のこのキスはお前が仕掛けたキスであって、俺は一切関係ないんじゃ……」


 俺がもう少し玲香に反論しようとすると、玲香が俺の肩に手をおいて、よっかかってきた。そうして、また上目遣いで「飲ませて」と言ってきた。


 「何を飲ませればいいんだよ」なんて言おうと思ったが、何となくオレンジジュースを飲ませればいいんだなと察して、オレンジジュースを冷蔵庫から取り出したあと、玲香の背中に手を回して起き上がった。


「飲ませれば、いいんだな? 俺力強いから一応手加減した方がいいよな?」

「と、当然でしょ! 私だって、一応、女性なんだし。そういうのは……」

「じゃ、行くぞ……?」


 俺は玲香の方に目を向ける。俺の視線が向いているということを察知したのか、玲香は直ぐに自分の目線を下に下げた。そうして「……うん」とささやいた。


 俺はオレンジジュースの入ったペットボトルを持ち、玲香の方に持っていった。と言っても、俺がオレンジジュースの入ったペットボトルを持っているわけだが。


「く、口開けて……」


 こんな体験俺も初めてだ。事故があって、その密室空間でイチャイチャするという体験だ。何度も言うが、俺はつい先日まで厨二病と騒がれ、友達もいなかった非リア充なのに、よくもまあ、こんな体験ができているもんだよ。


 玲香が口を開けるのを確認すると、俺はそこにペットボトルを差し込んだ。……この構図はやばくないか? 男が女にペットボトルを咥えさせている……。意味深長だぞ。


「つ、冷たいね……。キンキンに冷えてるっぽいよ。飲んでみなよ」

「お、おう」


 俺はオレンジジュースを口に入れた。この時、「間接キスをしている」という事実は、俺にとってどうでもいいようなことだった。それより俺からしてみれば、玲香の口にペットボトルを差し込んだりしたことのほうが、よっぽどどうでもよくないことだ。


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