3-11 ウォータージェットコースター
ウォータージェットコースターのりばへ移動した俺と玲香は、受付の係員に「遊園地無料パス」を渡して前へと進んだ。
この遊園地の「ウォータージェットコースター」というものは、遊園地内でも相当な人気を誇るジェットコースターだ。人気なのはいくつか理由があって、そのうちの一つに、水の上を今から俺と玲香が乗るボートが動くのだが、そこに行くまでに一〇〇メートル以上のぼって、そこからぐるぐる回りながら急降下するのだ。
そしてこのこともあってか、このアトラクションは『ゴーグルは必ず付けなければいけない』と、のりばのところに大きく書かれているほど、ゴーグルを付けることが重要視されているのだ。
そして、ゴーグルを付ける以外に、ライフジャケットも着なければいけないのだ。だが、これに関しては過去に重大な事故があったことによって、ライフジャケット着用が絶対になったらしい。
「さてと、次は俺ららしいぞ、ろくのん」
「『俺ら』って言い方やめてくれ……。それに今の台詞、俺の台詞と似すぎて分かりにくいだろ……」
「そうかな? じゃ、今度はそれ言わないでおくよ。じゃあ、行こうか」
「お、押すな、危ないだろ!」
「全く、ろくのんは可愛いなぁ!」
うるせえ。俺は玲香に「可愛い」なんて言われる筋合いなんてないわ。……だがまあ「かっこいい」とは言われてもいいかもしれないが――と。そんなことを考えながら、俺は玲香とともにボートへと乗り込んだ。
ボートといっても、お客さん自身が運転するわけではないし、係員が運転するわけでもない。電気がボートを運んでくれる。だから無駄な人件費がでない……って、この遊園地の係員でもない俺がなんでこんなことを。
「ろくのん?」
「なんだ。なんか話でもあるのか」
「いや、特に話とかはないんだ。でもなんて言うか、ただ声を聞きたかったっていうかその……えと……」
おどおど戸惑う玲香。「お前が言ってきたくせに何自分を攻撃してんだよバーカ」とからかいはしなかったが、玲香の顔は真っ赤になっていて今直ぐにでも、言ってしっまいそうになりそうだった。
俺が玲香の方向を向いて数秒ほどで、ウォータージェットコースターは最高点へと到達し、そこから急降下が始まった。
急降下してゆく中で、玲香が俺の手をぎゅっと掴んで、俺の左肩に身を乗り出してきた。
「なっ……」
俺の心は急降下していくウォータージェットコースターの音さえも消してしまった。玲香が左肩に身を乗り出してきたおかげで。
それからというもの、俺は何も喋れないまま急降下していくのを楽しんでいた。
「あちゃぁ……。すごい濡れましたな……」
急降下して水面に落ちたからなのだろう。俺も玲香も服は相当濡れていて、乾くのにもまだまだ時間がかかりそうだった。だから俺と玲香は暇つぶしをするべく、飲食店が軒を連ねるあのショッピングセンターへとまた戻った。
「さて、戻ってきたわけですが」
「う、うん」
「アニメグッズでも見ていくか」
「……はい?」
玲香は俺に凄い疑いがかけられたような目で見てきた。その目はやめてくれ。周囲に引かれるから。最悪通報されて職務質問オチじゃんか。だからやめろ。やめてくれ。
「アニメグッズ? どうせなら喫茶にしようよ」
「喫茶ってつまり『メイド喫茶』や『執事喫茶』のことを指すということでいいのか……?」
「え? ろくのんそっち系で想像していたの? ……私もだけど」
「なんだ、おどろかすな」
俺が少し笑顔を見せて、心配させるなよ、という表情をすると玲香がポツリと小さな声で顔を少し赤く染めて言った。
「―――同じ事、考えていたみたい……だね」
俺はそれをしっかり聞き取った。だからといってそれを難聴のふりをすることもなく、俺は「だな」と一言つぶやいた。その後玲香が俺に聞こえてきたことに驚いたのか、「ええ!」と答えたので俺も「ええ!」と返してやることにした。




