3-10 珈琲杯の後に
コーヒーカップから降りると、あまりの回転速度に俺も玲香もふらふらしていた。
「あぁ、目が回った……」
「だな。確かに俺も現在進行中でヤバイ。どうするべきだ?」
「コーヒーやコーラを飲もうか」
「なんでそうなった。でも、飲料を飲むのはいいかもな。結構疲れたし」
「でもフラフラで行けるのかよ……」
「大丈夫でしょ。何かあったらろくのんが助けてくれるだろうから」
「期待してくれるのは大いにありがたいのだが、生憎俺は今ふらふらしているんだ」
「ではどうしろと?」
「そこのベンチで休んでいればいいんじゃね?」
「うむ。確かにその案についてはいいかもしれないな。じゃ、あのベンチに座って雑談でもするか」
俺は「だな」と一言言ったあと、肩をぐるぐると回し「うーっ……」と、両手を頭の上で組んで、両手を上へ上へと導いていった。そのストレッチでなんとなく今までのフラフラがとれた気がした。だが完全にとれたわけではないと、俺は歩いてすぐにそれを思った。
ふと見たベンチには、俺と玲香以外にも家族連れの人や、恋人と戯れるリア充の姿が数多くあった。今までなら、その光景を見て「リア充爆発しろ」なんて使っていたのに、今日に限ってはそれを使っていないのだ。なぜならば、俺が玲香と歩いているからだ。
玲香が俺を「ただの友達、もしくは店員」だと思っていたとしても、俺が玲香と歩いている時点で、俺と玲香は周りから見れば「リア充」に見えるのだ。だから、「リア充爆発しろ」という言葉を使った時点で、俺と玲香が爆発しなければいけなくなるので、それは回避したかったのだ。
現実、「リア充爆発しろ」という言葉には「お幸せに」という意味もある。でも、大体の場合、「私(俺)も彼氏(彼女)または友達がほしい」という意味が強いのだと俺は思う。
「さて。これからどこいく?」
「うーん……。ダウンタワーとか、ウォータージェットコースターとかに行きたいかな。……でも、玲香は水掛かるの嫌だよな?」
俺は不覚にも玲香の方をちらりと見てしまった。それは動物のオスの本能である。確かに玲香は可愛いと思う。だから水が掛かったら余計に可愛いなんて思ってしまった。ああ、俺としたことが。玲香だって女だし、水が掛かれば恥ずかしくてたまらないだろう。
でも、玲香の答えは意外にも「別にいいよ」というものだった。俺はそれを聞いた瞬間、凄く驚いてしまったようで、俺の表情をみて玲香は笑ってきた。
「なんなのその態度。あはは」
「いやだって、普通なら『水掛かるの嫌!』って言うと思ったのに、玲香は『別にいいよ』って言うからさ……。あまりにもびっくりしちゃって」
「馬鹿でしょ。さっき私お化け屋敷で水掛けられたっての。それよりかはマシだよ」
「まあなあ……」
「それとその、私絶叫系嫌いだから、ジェットコースターはチャンスだし……」
「チャンス? どういうことだよ」
「ちょ、ろくのん、忘れてえええ!」
俺は、「冗談冗談」と笑って誤魔化したが、それでも誤魔化した代償として何か解決していない感が、強く残ってしまっていた。




