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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第三章 遊園地デート
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3-9 コーヒーカップ

 午後〇時二〇分すぎ。ショッピングセンター裏で、俺は大きな声を上げて叱った。自分が悪いように責める玲香に対して。それを連想させるような言葉を言ってしまった俺自身に対して。そして、場の空気を沈めさせようと、俺は頑張る。


「玲香! 落ち着け。お前は、大丈夫だ。俺はそういった玲香の個性も含めて、全部全部含めて、その、だな……す、す……」

「ほら、言えないんじゃん! どうせろくのんだって、私のことを見下して、バカだと思って、そうやって、そうやって……」

「違う! そんな訳じゃない! それに俺はお前を尊敬してるし、お前を、お前を、大事に思っている……。だから、だから……」

「じゃあ、何か態度で示してよ! 例えばその……キスとか?」

「なっ……」

「ほら出来ないんじゃん! キスなんて。ろくのんはチキンでヘタレな人間ですからねえ……。当然っちゃ当然ですよねえ……」

「ああもう! 何でお前はそうやってすぐキスに持って行くんだよ! 少しは自分の恋愛心に聞いて、キスを本当にするべきか確かめろよ!」

「……うるさい。私だって、そんなんわかってるよ。じゃあさ、手を繋ぐくらいいい……よね? チキンなろくのんでも、してくれるよね?」

「チキンチキン言うな! でもまあ、手を繋ぐとかはいいよ」

「分かった!」


 と、少し笑みを見せると、さっきまでのあの喧嘩のような会話が嘘だったかのように、また玲香は俺の方に身体を近づけてきて、俺の左手を玲香の右手がギュッと掴んだ。


「……おい」

「ねえ、ろくのん。コーヒカップ、乗ろう?」

「……お、おう」


 俺は照れていた。今まで以上に。昼にラーメンを食った時よりは和らいでいるかもしれないが、さっき喧嘩があったせいで、俺はまた照れてしまった。


「コーヒーカップに、お乗りでしょうか?」


 コーヒーカップアトラクション前の遊園地のガイドさんがそう聞いてきた。俺は照れていて答える間もなかったが、今回は玲香がリードしてくれて、玲香のあのハイテンション節がここでも炸裂した。


「遊園地無料パスをご利用されるのですね、有難うございます。そちらの方にまだ空きがございますので、今しばらくお待ち下さい」


 玲香がチケットを渡すと、ガイドさんは俺と玲香に笑顔で言い、一礼をした。


 コーヒーカップと言っても、遊具だから一応でかい。中に長椅子があってそこに座ることが出来た。と言っても、俺が座ると玲香もくっついて座ってきたので、長椅子の意味がなかったようにも思えた。


「お、回り始めたぞ」


 俺と玲香が乗って直ぐにコーヒーカップは回り始めた。それを感じて、俺は俺の左手をぎゅっと掴む玲香にこういった。


「通常の遊具ではないコーヒーカップにコーヒーを入れ、遊具のコーヒーカップのようにぐるぐる回したら大変なことになるんだろうな」

「そりゃそうでしょ。コーヒーこぼれたらまたお化け屋敷の時みたいに大惨事になるじゃん。そんなんだったら中にコーヒはなくていいだろう」


 徐々に徐々に回り始めたコーヒカップ。それを感じたのか、玲香が俺の手をまた強く握りながらまるで怖い何かに襲われた少女のようにブルブル震えながらこう俺に話してきた。


「下手したらジェットコースターより怖い気がする……」


 まあ、確かに人それぞれだが、なんだかんだ言ってコーヒーカップも回る遊具だからな。といっても、ジェットコースターは回るのか―――いや、回るように作られているのもあるか。


「あのさ、ちょっと手を握ってほし―――」


 少し回りだしたからなのかはわからないが、最後の言葉が聞き取れなかった。それは言うまでもない、玲香の言葉をだ。きっと何を言おうとしていたのかは、俺の脳内が過去のデータを元に判断し、それを元に俺は情報を整理することで、察することが出来た。


「もうちょっと、大きな声で言ってほしい。さっきの声だと聞こえない」

「もう難聴スキルはいい加減にしろ! わざとそうやって難聴のふりすんな!」

「違うよ! 今のは難聴じゃなくて、本当にさっきの言葉が聞こえなかったから……」

「うるさい! うるさい! うるさああああああいっ! 私はあんな言葉二度というかってんだ! どうせならコーヒーカップの中蹴ってやろうか!」

「おい馬鹿。コーヒーカップを蹴るというのは禁句だろ。さすがにそんなっこといっちゃいけないんじゃ……って、うわっ!」


 その時、俺が伝えようとしていた言葉をかき消そうとするかのように、コーヒーカップは回転しだした。さっきとは比べ物にならないスピードで。きっとさっきより三倍以上もスピードアップしていると言えるであろう。


 それからというもの、俺も玲香もコーヒーカップの回転速度が加速したおかげで、話すこともせず、ただふく風を自分の身体に当てて、それを感じていた。


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