3-7 ショッピングセンター-Ⅰ
午前一一時五〇分。園内を少し移動して、ショッピングセンターへ来た。ショッピングセンターはお土産から料理まで、幅広いジャンルの品物を取り扱う店だ。だから、ショッピングセンターだけに寄ってすぐ帰って行くという人もいるんだとか。
それと、玲香によるとこのショッピングセンター内の料理店は美味しい料理を振舞ってくれるんだとか。……でもそれって、色んな意味で料理店貶してないか。
「さて、それじゃ牛丼でも食っていくか」
「お、女の子に牛丼を進めるとは……! 別に私は嫌いというわけでもないけれど、どちらかと言うと、向かいのラーメン屋でラーメンを食いたいな」
「だが、値段的にはラーメン屋のほうが高い……って、痛っ!」
俺は突然髪の毛を引っ張られた。しかもほんの数十本の髪の毛だけ。なんだかんだ言って数十本の髪の毛を引っ張られるのと、数百本の髪の毛を引っ張られるより痛いと思うのは俺だけだろうか。
「女の子が『奢って』って言っている所でケチるな! それとさっきろくのんは、『奢ってやんよ』って言ったけど、『○円までな』なんて一言も言っていないし、いいじゃん!」
「ぐ、ぐぬぬ……。でも当然クソ高い品物は買わないんだよな?」
「普通じゃないか! そんなクソ高い品物買うわけ無いじゃん! せいぜい買うとしたら五万円以内だい! それが気遣いってやつじゃないか!」
「五万円とか、その時点で全く気使ってないじゃないか!」
「う、うるせえ! でもまぁ、奢るのはろくのんなんだし、別に私は『ろくのんの好きにしたらいいんじゃないか』と思ってるよ。無理にしなくていいよ」
「一つ言っておくが、食事は二人分一二〇〇円圏内で頼むぞ。ドリンク代がかさむからな」
「じゃ、じゃあこれ! これ食べたい!」
「これは、味噌ラーメンか。って、結局ラーメンを頼むことにしたんだね……」
「悪いか! 別にいいだろ。私は確かに『これが食いたい』といったが、『これを買わないとダメ』みたいに、そんな風に言っていないだろ」
「まあな。じゃ、俺はこっちのラーメン食べよっかな」
「待って! やっぱりこれにする!」
俺は玲香が指さしたラーメンを見た。値段は『六〇〇円』と安く、これで二人前なのだとか。でも、その隣に書かれていたのは、『カップルのみ』の文字だった。
「お前、まさか……」
「これ、買って……?」
値段的には、個々でラーメンを頼むよりもこの二人前のラーメンを頼んだほうが安上がりだし、そのお金でドリンク類やデザート類を頼む際の足しにも出来る。
だが、一方で、このラーメンには、箸一つ、れんげが一つ、丼が一つしかない。だからどうしても『間接キス』が生じてしまうのだ。俺は上目遣いで頼まれるだけでぐっと来る何かを感じた。
「ああもう、買ってやるよ!」
俺は、心の中で生まれたそのもやもやのような何かを解消するべく、そう言い放った。でも、それは値段を優先したというわけである。いや、間接キスを優先したとも言えるのか。だが、どっちにしろ、とてつもない恥ずかしさがあるというのは痛感できた。




