3-5 小屋へ-Ⅱ
午前十時四五分。お化け屋敷裏の小屋にて。
俺は、玲香を助けに来た。でも、ここで怯えてはいけない。助けるんだ、俺は。玲香を、玲香に手を出した奴らをぶっ殺すんだ。でも、ぶっ殺すわけにも行かない。しかし、助けるのは『絶対だ』。
ここでチキンな一面を見せてどうするんだ、俺。俺はチキンじゃない。チキンなんかじゃないんだ……!
「―――てめえら、玲香を返せえええええええッ!」
俺は、小屋のドアを強引に開けた。そのドアには、鍵が掛かっていなかった。それは不幸中の幸いというところか。まだ不幸は訪れていないと思うがな。
「ああん? てめえはなんだ? こいつの彼女か?」
「兄貴、彼女じゃなくて、彼氏っしょ」
「そうですよね。常識的に考えて」
「で、何のようなんだ? ああん? 言ってみろやゴルア!」
「……ッ!」
俺は男達に怯えてしまった。もう怯えないって決めたのに。玲香を助けるって決めたのに。俺って奴は、本当に。本当に……。
「―――自分ばかりを責めるのはろくのんらしくないと思うよ」
声が聞こえた。きっと玲香の声だ。でも、何で俺の心の中が読めたんだ? もしかして玲香も超能力者……? だがしかし、断言できるまでには少し早い。
でも、なんだかその言葉で俺は勇気をもらった。励ましてくれる声を聞いたおかげで。それが助けなければいけない人の声だから余計に。
「玲香は、玲香は俺の彼女だ――――――――ッ!」
遂に俺は言ってしまった。本人の前でだ。玲香の居るこの小屋で。
「ああん? リア充は爆ぜろやゴルア! てめぇみたいなクソ童貞に言われる筋合いはねえんだよ! つうか、てめえマジ殺す……」
「望むとこだよ……ッ!」
「てめぇ、絶対に許さねえッ!」
俺は男達に中でも、『兄貴』と慕われていたあの男に顔面を殴られた。痛い。でも、それは俺を、俺の中の男気をどんどんどんどん震えさせていった。
やがて、俺は血を吐くようになった。顔面にも傷ができた。でも俺は、その血さえも汗の結晶として認識してしまった。そうして俺の中の固く閉ざされていた何かが壊れた。
「こっからは、逆襲させてもらうぞ……!」
兄貴と慕われていた男は、俺が拳を前に出した瞬間に、それを自身の顔面に当たらないように防御した。
「なに防御してんだよ、てめぇ!」
「むが……むご……っ!」
「ほらほら、首を絞められる感じはどうだい? ああん?」
「むごごご……」
「―――もうやめてよ」
俺が兄貴と慕われていた男の首を掴んでいた時、俺の後ろで誰かの声が聞こえた。そして、その声の主は俺に抱きついてきた。
「喧嘩は、良くないよ……」
「玲……香……」
俺は玲香の存在に気がついた瞬間、兄貴と慕われていた男の首に回していた手を離した。
「君は、なんでこんなことをしたんだ……」
「俺は、俺はお前を助けるために……」
「私はこんなふうに助かりたくはなかった……。人を殺すのは違法だよ? なんで人を殺さなくちゃいけなかったのさ!」
「違う……。違うんだ!」
「そう、だよね……。何考えていたんだろ、私。バカみたい……」
今までの玲香の言葉が嘘だったかのように、玲香は抱きつくのをやめた。




