2-7 秘蔵本、そして風呂
自宅に戻ったのは夜九時半だった。洋食店でわんさか騒いで、結局夜遅くまでやっていたんだ。ま、楽しかったし迷惑かけていないし、いいか。
家に帰ると、美玲はそのまま自室へ戻っていった。どうやら、「寝る前に風呂に入るから風呂にはいるのは最後でいい」とのこと。なんて自分勝手な。
結局、最後にまた二人きりになった。だが、玄関前なので少し肌寒い。
「二人っきりだね……」
玲香、その台詞はエロゲのヒロインの言う台詞だ。三次元では通用しないはず……。と思っていたのだが、現実的にはそういうわけではなく、三次元でも通用するということを俺は思い知らされた。それと、抱きつかないでくれ。心臓が大変なことになる。
「そう、だな……」
「うんと、今日は英人の部屋に泊まっていけばいいのかな?」
「だ、だけどな……さすがに危ないだろ、男と女が同じベットの上なんて」
「へ、変なこと考えてない?」
「か、考えてなんてないから!」
「本当に?」
「うん。本当だ」
「じゃあ、変なこと考えないのなら、一緒のベットで寝ても問題ないよね」
「そ、それとこれとは別問題なんじゃ……」
これ以上追求しても無駄だな、と俺はこの時点で思い、自室へ行こうとした。なぜなら、もしかしたら俺の部屋で寝ることになるのかもしれないので、さすがにエロゲやエロ本が散乱している部屋に女を一人で入れる訳にはいかない。
「じゃ、先に風呂入っていてくれ!」
「風呂なんてまだ沸かされてないでしょ?」
「あ」
やばい。危険度リスクが高まった。これはやばい。
「じゃ、じゃあ俺が風呂沸かすから、くれぐれもこっから移動するなよ!」
「はーい」
そういう玲香になんの疑いもなく、俺は風呂を沸かしに台所へ向かった。
風呂を沸かす設定をして、また先程俺と玲香がいた場所、玄関へ向かった。だが、そこに玲香の姿は見当たらなかった。そして俺は、最悪の事態を脳裏に浮かばせて、二階へと向かった。
「玲香、どこに居るん……だ?」
自室の戸を開けると、玲香は俺の部屋の中で俺の秘蔵の本を読まれていた。
「あ……」
いつもの玲香のキャラクターと全然違う姿がそこにはあった。
「玲香……。読んじゃった……のか」
「こ、これを阻止する為に、私を風呂場へと誘導しようとしたの?」
「おっしゃるとおりです」
俺は、「何か言われるんだろうな」と思っていた。なにせ、俺はつい二日目まで非リア充だったんだ。友達はいなかったし、彼女は二次元という有様。
だから俺はエロゲやギャルゲ、ラノベの知識が豊富にある一方で、現実でその知識を使ったことはなかった。だけど、今俺はこうして三次元の女性と会話をしている。が、この会話は通常の会話ではない。
上目遣いで俺の方を見る玲香を見て、俺はまた心に衝動が走った。
「えっと、その、こういう本は読んじゃいけないだとか規制する気はないけど、人を部屋に入れさせるときにこういうのを出しておくのはどうかと思うんだけど……」
「いやいや、玲香は俺の部屋に勝手に入ったじゃんか。俺無罪でしょ?」
「有罪です! ギルティです!」
「無罪でしょ? イノセンスでしょ?」
そんなやり取りをしていくなかで、だんだんと声が大きくなっていた。そうして、それに苛立ちを見せた美玲がドアをトントンと叩いて俺の部屋に入ってきた。
「兄貴? ちょっとこっちに来てくれないかな? ……あ、すぐ終わるから、志熊さんはは心配しなくで大丈夫だよ」
「う、うん」
「ほら、お説教だ」
「痛いから!」
俺は美玲に腕を引っ張られ、自室から追い出された。
「な、なんだ、お説教なんて! 実の兄に向かってお説教など、何を考えているんだ?」
「うるせんだよ! ちょっとは隣で勉強している私の身にもなってみろや! これでも一流大目指してるんだから、ちょっとの喧嘩はいいけど、大声で喧嘩すんじゃねえよ!」
「はい……」
「ったく。なんで久しぶりに寮を出て家に帰ってきたらこの有様なんだか……」
そうだ。美玲は、寮で暮らしていた。だか、今日は俺を祝福するため自宅に戻ってきたのだという。まさか俺の妹ってブラコン……なわけないよね。そんなの二次元世界上での妄想にしか過ぎないし。現実にブラコンの妹がいたら、大変なんだろうな、色々と。
結局、妹からは「大声をだすな」と説教された。俺はそれを聞き終わると、すぐに開放された。さすが俺の妹だ。人のことを一応思いやれるんだよなぁ。だけれど、口が悪い。だから、普通に接していれば罵声を浴びることもないし、優しいんだよね。
ふと美玲のことを考えていると、それを感じたらしく、俺は美玲に髪を引っ張られた。
「痛っ!」
「変なこと考えたでしょ今。あんまりそういうこと考え過ぎないほうがいいよ。性欲魔神」
「せ、性欲魔神言うな!」
「じゃ、健闘を祈るぞ。明日の朝、『昨日はお楽しみでしたね』って私が言えるようにしときなさいよ、この兄貴が!」
「おいこら待て!」
美玲は、俺にそう言い残すと、部屋へと帰っていった。戸は開かない。鍵を閉められたらしい。兄に対しそんなことをするなど、「これはひどい」とでも言ってやりたいわ。
俺は自室へ戻った。自室には、制服を着た玲香の姿があった。
「……なんで制服なんか着ているんだ?」
「えっと、その、『こういうの好きなのかなぁ……?』って思って」
いや、確かにエロゲでもギャルゲでも、俺が知っている限りは、学園モノのものが多い。それに、俺はコスプレが好きというわけではないが、一応衣装を持っている。某ギャルゲーの男子用の制服と女子用の制服をそれぞれ一着ずつ。それと、メイドコスプレ用のグッズも一着持っている。だから、計三点持っているわけになる。
俺はもしかしたらコスプレ趣味の変態なのかもしれない。だが俺は、そう出会ってほしくないと自分自身で願う。
「いや、好きといってもだな、うーん。その、なんというかだな……」
「じゃあ、メイド服がいい?」
「着替えなくていいわ! てか、もうすぐ風呂沸くから先に入っちゃいな」
「わかった。じゃ、風呂入ってくるね」
「あ。ちょっと待て!」
「何? ま、まさかろくのん、私と一緒にお風呂に入りたいの? そういうことなの?」
「ち、違うよ! 俺はそういう考えじゃないし!」
「嘘つけ! 本当はそういうこと考えていたりするんだろ? おぉ?」
「違うから! とりあえず、風呂の使い方を教えてやっから、くれぐれも壊すなよ、いいか? くれぐれも壊すんじゃないぞ!」
「それなんて破壊フラグですか……?」
俺は、玲香の声など気にもせずに風呂場へと案内した。本当に壊すなよ、玲香。これは結構相当な値段がかかるんだから……。




