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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第二章 形成されゆく恋愛感情
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2-5 パーティー会場

 パーティー会場は、厨房の奥の更衣室の隣にある部屋だった。


「こんな部屋があったんですか……」


 と、その時、俺は数少ない親しい人と会ってしまった。そう、俺の妹に。


「なんでお前がここに……」

「えへへ、来ちゃいました! なんかうちの兄が洋食店で働くらしいので」

「俺はお前にメールや電話で伝えた覚えなどないんだが……」

「え?」


 いや、本当に俺はお前にメールを送った覚えも、電話をかけた覚えもない。


 だがそれは俺だけが感じていたことであった。なぜなら妹には、俺のメールアドレスから送信されたメールが送られたのだという。


 俺はそれを聞いた瞬間ゾッとした。


「まさか、俺のスマホはウイルスに感染していたり……?」

「だが、それはないと思う。最近一つも拡張機能を入れていないし、ウイルスチェックもしっかりやっているし、特に変わった様子はないと思うんだ」

「ということは、まさか……」

「―――誰かが、仲介してメールを送っているということか?」


 その可能性は十分ありえる。なにせ、たとえウイルス対策ソフトの拡張機能を入れた所で、すべてのウイルスが対処できるわけではないし、どうしてもウイルス対策ソフトの場合は、『対処』なので、そのウイルスを発見しなければ、対処や対策は不可能だ。


 だから、今回俺ではない誰かが妹にメールを送ったということは、俺の情報が何かの拡張機能で漏れていて、そのウイルスによって俺の登録してあるいろいろな人のメールアドレスが漏れ、そこへメールが流れているというわけか。


 それに、ウイルス以外にも、自分が見ず知らずな人へメールを送ることは可能である。だが、それは必ずそのメールアドレスを知っている『仲介者』が存在するはずであり、その仲介者に俺がメールを送り、その仲介者から目標人物へ送るというのが理想的であると思う。


 しかし、今回の件は俺が妹や仲介者へ一切メールを送った覚えはない。それにウイルス対策もほぼ万全なはずだ。なのに、なぜ……?


「後でもう一度メールを送ったのかを履歴を見て確かめることにするよ」

「頼むぞ、兄貴」

「おうよ!」

「あの……」


 勝手に推理を始めてしまったために、志熊と後峠が話について来れなくなってしまったようだ。機嫌悪くさせたかな?


「早く、パーティー始めませんか?」

「ごめんごめん。じゃ、始めようか。あ、美奈はまだ高校生だから酒はNGだわ」

「そのろくのんの妹、『美奈』って言うんだ。いい名前だね」

「……ありがとうございます。私、自分の名前をそういう風に言われるのって初めてなんですよ……」

「……そっか。でも、ろくのんの妹だけあって、優しそうだね」

「優しくなんかねえよ。家に帰れば、こいつゲームだの、漫画だの、勉強なんてそうそうしねえからな、俺の妹はよ」

「ふうん。兄と似てるんだね」

「どこがだ、こら! 俺の正確と美奈の性格のどこが似てるんじゃボケ!」

「結構似てる所あるよね、例えば、優しいところとか」

「だから優しくなんかないとあれほど……」

「そうなの? 優しそうだと思ったのだけれど……」


 そこに後峠が割り込んでくる。


「このパーティーを開催したのは、貴様らがイチャコラ出来る場所を提供しようと思ったわけではなく、この場所で洋食店員になったろくのんを祝うためじゃなかったのか、志熊」

「別にいいじゃん? やっぱりパーティーは楽しくなきゃね」


 まあ、志熊の言うことは一理あるが、人に迷惑をかけてまで楽しむのは可笑しいと俺は思う。が、まだ誰もそれをしていないので言わなくてもいいか。


「さてさて、乾杯……の前に、クラッカー用意して……」

「お?」


 そうして、志熊、後峠、妹、三人がクラッカーを準備した所で、志熊の掛け声とともに、クラッカーの後ろの方にあるあの紐を引っ張り、クラッカーを鳴らした。


「いえーいいえーい!」


 皆テンションが上がってゆく。クラッカーを鳴らした後、後峠が一旦席を外し、鍋を持ってきた。鍋の中身は、そう『トマトチーズ鍋』。


「……これまさか後峠が作ったのか?」

「ああ。俺、これでも料理は一応出来るんだぜ」


 『一応』の範囲超えてるだろ。―――常識的に考えて。


 後峠は、用意していた皿に、はじめにスープを入れて、具を入れて、最後にもう一回スープを入れた。そうして、皆に配布していった。


 だが、ここで皿がひとつ足りないという事態に直面した。


「おい、鍋がひとつ足りないんだが……」

「うーん……。誰か二人で共用して使えば?」

「誰と誰が共用して使うんだよ」

「そりゃあ、ろくのんとれいにゃんに決まっているじゃないか」


 後峠の台詞をきいた瞬間、俺は即時に「は?」と言い返した。そりゃあ、突然リア充みたいに間接キスしろなんて、『それなんてエロゲ』状態だわ。


「だ、だがしかし!」

「いいから、いいから。やっちゃえって。やっちゃえ!」

「ああもう! やればいいんだろ? いいのか、志熊」

「……」

「あ、あーん」


 志熊は顔を看病していた時よりも赤くして、俺はレンゲを顔を真っ赤に染める志熊の口へ挿入した。


「お、おいしい?」

「う、うん……」


 やばいな、俺も今相当顔真っ赤にしてるんだろうな。これ、絶対後で言われるよね、「リア充爆発しろ」だとかそういうのを。


「リア充め……憎いッ! 私もあんな風になりたいッ! 彼氏が欲しいッ!」

「リア充だからと自慢するれいちゃんとろくのん……そこにシビれる!あこがれるゥ!」

「う、うるさいな! お前がこうしろって指示したくせになんなんだよ、もう!」


 俺は一度ため息を付いた。それを見ていた志熊が、俺の顔を、自身の方へ向けようとして、俺は首を動かされた。


「わ、私のこと嫌い、なの?」


 これ、恋人同士の会話じゃないですか。なんで俺と志熊でやっているんですかねぇ……。まさかの夫婦漫才ですか? おっと、俺は何を考えているんだ……。


 なんだか勝手に自分自身で今起こったことにツッコミのようなものを入れていたようだ。


「嫌い、ではないかな」

「じゃあ、好き?」


 おまえは『普通』という言葉がわからないのか? ……だけれど、確かにどこか俺は、志熊に何かが奪われている気がする。でもまだ、俺は何が奪われてしまったのかはわからない。でもきっと、いつかそれを見つける日が来るんだと俺は思う。


「それを恋の病と言うんですよ」


 その時、ふとそんな声がした。いや、もしかしたらただの俺の妄想の暴走した何かの最終形態なのかもしれない。でも、確かにその言葉を聞いたのだ。はっきりと。


「好き……ではないかもしれない。でも嫌いでもない」

「それって、『一緒にいたら楽しい』とかそういうふうなこと?」


 いや、それはもうプロポーズじゃん。「それどこのエロゲですか? 何円で売ってますか?」なんて言えるはずもない。そりゃあ、志熊にエロゲのことを言った所で、ただの変人にしか見えないだろうからな。


「一緒にいたら……楽しいかな。でも、今日みたいに振り回されるのはあんまり好きじゃないや」

「やっぱり、もうちょっと静かで、清楚な感じが好きなの?」

「ストーップ!」


 そこで玲香が話を止めに入る。


「なんだ? 君は巨乳の女性に手を出している兄に嫉妬しているのか?」

「てめえは黙ってろ!」

「は、はいいいっ! ありがとうございますうっ! もっと言ってくださいいっ!」

「ああ、後峠は典型的なドMでしたか。貴方はどうぞ、第二ボランティア室へ行ってください。いいこと、きっとありますんで。本当に、ドMとかマジ気持ち悪いんだけど」


 ほら、玲香の本性が出た。

 俺の妹『六宮美玲』は、中学二年生頃からこういう風に、ギャルっぽくなって口が悪くなった。外見からはあまり想像できないが、いつもはこういった本性を隠しながら生活しているわけだ。


「じゃあ、今日からお前は豚。私の豚よ。ほら、なにかいうことはないの?」

「ありがとうございますうっ! 豚として一生懸命主人に仕えましゅ! だから殴ってくださいっ! もっと叱ってくださいいっ!」

「ああいいよ! お前は一生豚だもんな! 飼い主様の言うこともろくに聞けない変態で、変態王子にもなれない分際で、よくもそんなことが言えるもんだな! 少しは立場というものをわきまえろ、この豚が!」

「ありがとうございますう!」


 俺は、美玲と後峠のやり取りを見て、俺は頭を抱え、志熊に話しかけた。


「……なあ、志熊」

「な、なに?」

「馬鹿馬鹿しいな、あの光景」

「でも、こういう光景が見れるだけ、日本が、新潟が平和だってことだよ」


 確かに、戦争をしている国で、こんなことは出来ない。こんなことができるのは、治安がいいからで、戦争をしていないからで、もし戦争を始めたら、大変なことになるんだろう。俺はやはり、平和が一番だと思う。


「そうだよね。やっぱり」

「うん。こうして好きな人と会話できるのも、平和だからだよね。戦争が始まって窮地に立たされたら、こんなことできないもんね……」

「だよな。……て、今『好きな人』って言ったけど、まさか志熊……」

「ち、違うんだよ? これはその、えーっとですね……」


 何を言おうか戸惑う志熊。ブルブル震えている姿を見ていると、なんか無性に守りたくなるんだよな……。でも、今それをやったら叩かれるのかな? びっくりしちゃって。


「私は、愛さえあれば、職場内恋愛はしていいと思うんだよね」

「『職場内だけど愛さえあれば関係ないよねっ!』ってか。というか、ここの店主は志熊なんだし、別にお前は店員を好きにできるんじゃないのか?」

「いや、それは違うと思う。だって、私だって一応権力はあるよ? でも不公平じゃん、そんなの。だから私は余程のことがない限り、店員をやめさせることはしない……はず」

「『はず』ってつけたら、強い意志が伝わってこないだろ!」

「う、うるさいんだい! あと、さ、その……」

「ん?」

「『志熊』じゃなくて、『玲香』って下の名前で読んでほしい……な?」


 またでたよ、反則顔。本当にその顔を見せるのはやめてくれ。可愛すぎて死ぬから。『毎ラブリーエンジェル』とかぼざいちゃいそうだから。


 不覚にも、内心そんなことを思ってしまった俺は、「何を考えているんだ」と冷静になって深呼吸をした。


「だ、だがしかし。今まで女性をあまり相手にしたことがない俺にそれは……」

「いいから言ってみてよ」

「だ、だが……」

「じゃあ私も、下の名前で読んであげるよ、ろくのんのこと」


 俺達はまず深呼吸をして、先に俺が呼ぶことになった。こういうのは男側からリードするべきだと俺は思う。……って、それ言っちゃ、あたかも俺が女側で男側にクレームつけてるようにしか聞こえなくなるじゃん!


「で、だな、その、玲香……」

「う、うん、なに、英人?」


 途端に顔を真っ赤に染める俺達。無言になった時に、後ろからは後峠と俺の妹のやり取りが聞こえる。まだやっているのか、あいつらは……。


「えと……早く食わないか?」

「そ、それもそうだね……」


 そうして無言で残っていたスープを飲む。何も言わずに。静寂な空気を乱すような妹と後峠によるやり取りがなんだか面白いように聞こえる。


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