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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第二章 形成されゆく恋愛感情
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2-3 おかゆ

 志熊が元気を取り戻したのは、午後一時半洋食店の地下室でだった。


 俺は倒れてしまった志熊を抱えて、地下室へと連れて行き、後峠が寝ているのかどうかは分からないが、ベットに志熊を寝かせ、その後、店の「OPEN」と書かれていた札を「CLOSE」という札に変えておいた。


 志熊は毛布の上に手をおいて、顔だけ俺の方を見てきた。


 顔が真っ赤に染まっている―――が、これは志熊が風邪を引いたからであり、特に深い意味は無いだろう。……深い意味が一体どんなものなのかについては、語らないでおきたい。語った瞬間にこの後ろにいる厨二病の男から、何か言われそうな気がするからな……。


「リア充爆発しろ」


 はい、名言頂きました。


 ……てか、俺は志熊とはそういう関係ではなく、ただの店長店員というごくごく一般的な上下関係のある部下と上司的なものだとは思うのだが……。


 しかもさっきの俺の予想、見事に当たったし……。


「あの……さ」

「なんだ?」

「熱、測っていいかな?」

「お、おう……」

「じゃあさ、体温計取ってきてくれないかな?」


 体温計? いや、取ってきてやりたいのはやまやまなのだが、どこにあるのかがわからないため、持ってくることができない。


 なんて言い訳をぼざいていると、俺は後峠に体温計を渡された。が、その時に俺は厨二病男に肩を引っ張られ、耳元でこう言われた。


「末永く爆発しろ」


 いやいや、だから後峠、お前勘違いするんじゃない。俺は志熊とそういう関係ではない……はずだ。ソースは俺だ。


 なんて言っていたが、早く体温を測らなくては。


「は、はいどうぞ……体温計」

「……は、測ってくれないかな?」

「……は?」

「だから、ね? その、えと……」


 俺は、最初なんなのかわからなかった。悩んだ挙句、俺は「これが夢なんじゃないのか?」とまで思ってしまい、どうにもならなくなってしまった。


「いいから測って!」


 俺は強引に引っ張られ、測らされた。




 ピピピピ……。


「三十八度三分……。医者へ行こう」

「い、いいよ医者なんて!」

「だめだ、行くぞ!」

「嫌だ……ッ!」


 俺が志熊の背中を引っ張ると、志熊はそれに反抗し、俺に蹴りを入れた。しかもその蹴りは、よりによって俺の腹部に直撃し、俺は大ダメージを受けた。


「ぐ、ぐは……ッ!」

「あわわ……ろくのん大丈夫?」


 お前も俺のことを「ろくのん」と言うのかい。というか、この痛みはやばい。ま、股間の部分に蹴りが入らなかっただけマシかもしれない。なにせ、股間に今食らったような強さの蹴りを受けたのなら、俺はきっと男で居られなくなるだろう。


「え、ええ。大丈夫です」


 俺は痛みを紛らわそうと、笑顔を作りながら吐き捨てるように言った。「痛えよ。ちょっとは手加減ぐらいしろやボケ!」というように、喧嘩腰で言うわけにはいかなかった。そんなことして給料減らされたら溜まったもんじゃないからな。


「ごめんね?」


 やめろ。その顔は反則だ。


 結んであった黒い髪は、いつの間にかほどけていて、そこから凄いいい匂いが俺の花の中を駆けてゆく。やばいなこの状況は。


 黒い髪が垂れ、それに気付いて志熊は髪型を手直しした。


「可愛いな……」


 ふとした俺の言葉で、志熊の顔が真っ赤になった。


「か、可愛いとか、そんなお世辞やめてくださいよ……」


 更に赤くなる。俺は、自分でも「言葉を漏らした」ということに気づいていなくて、志熊が顔を真っ赤っ赤にした時にようやく気がついた。


「顔真っ赤だけど、大丈夫?」

「ろくのんのせいだ、バカ……」

「な、なんか言ったか?」

「なんにも言ってないやい! 聞いてないお前が悪いんだい!」


 俺は言っておくが難聴なんかではない。……はずだ。


 聴力検査では異常がなかったし、あんまりヘッドホンやイヤホンは使わないし、音量も小さめに設定しているし。大丈夫なはずだ。


「ふんだ!」


 志熊は、腕を胸の下で組んで外方を向いた。が、志熊の平均以上はあるとみられるその胸の大きさを見て、俺は少し鼻血が出そうになった。


 だが、その部分を見たのことにより、志熊から殺気がするようになった。


「どこ見ているんだ……? あん?」

「ぜ、全然元気あるんじゃないですか! 心配させないでくださいよ、もう」

「げ、元気なんてないから!」


 志熊はそういった後下を向き、また小さな声で話した。赤くなっていなかったはずの志熊の顔は、一瞬にして紅潮していた。


「ろくのんと二人きりになりたかったからなんていえないや……」


 俺はまたそれが聞こえなかった。全部というわけではないが、いいところだけ聞き取れなかった。なんでこう、ライトノベルでハーレム絶賛建設中の主人公は難聴が多いんだろうか。だが、俺は言っておくが、ライトノベルだから難聴というわけではないし、まず俺自身は難聴というものではない。


「一つ思ったんだが、後峠はどこに行った?」

「ろくのんはさ、私のことどう思っているの?」


 どうって、そりゃあ美人店長さんで、優しい人だとは思うね。それ以上でもそれ以下でもない。……嘘です。志熊さんは可愛すぎて、なんか時々エロくて、俺を頼ってくれていて、今までぼっちで就職さえ就けずにいた俺を拾ってくれた運命の人です。


「お、おい……?」

「大雑把にまとめると、俺は……」


 俺は一度深呼吸をした。そして、先程の話の続きをし始める。


「志熊に好意を抱いているのかな……? わかんね。でも、ひとつ言えるのは、俺を救ってくれた、言わば運命の人ということだな」

「ろくのん……。ろーくーのーん!」

「や、やめろ、ちょっとこら! 離せ……!」


 俺は、志熊に抱きつかれた。母親以外で異性に抱きつかれたのはこれが最初になると思う。というか、俺母親にも抱きつかれた記憶が無いんだがな。「母親以外」と言っていたが、あれは撤回することとしよう。


 にしても、当たっている。ヤバイじゃないですか。これ警察官が見たら誤解されるだろ。


「あの、背中にスイカが……」

「こういうの、嫌?」

「ち、違うから! で、でも、あんまりこういうのはやめてほしいな。……なんちゃって」

「ごめん……ね? 私のせいでお店閉じちゃって……。私、せめてもの報いなのであれば、なんでもするよ?」

「今なんでもするって言った……」


 いろいろな所でネタになっているが、「なんでもする」ということはつまり、あんなことやこんなことを強要させることもできるというわけだ。


 そんなことを脳内で考えていた時、俺は唾を飲んだ。さすがにそれは不審者のように見られてしまった。だから俺は志熊にふとこんなことを言われた。


「へ、変なことしようと思っているんじゃないですか……?」


 俺は凍りついた。やはりバレていたようだ。

 俺はブルブル震えながら、口を開き、志熊にオドオドして話す。


「へへへ、変なことなんて考えているわけ無いじゃん……? あはは、あは……」

「考えていたっぽいですね……」


 追い詰められた時は、俺はプライドを捨てるのが一番早く問題を解決できるんだと思う。それは、不良に絡まれても、友達がいないからだとかで虐めにあっても、そうなんだよ、きっと。一つ言うけど、虐めは絶対に許されない行為だ。


 人間はプライドというものがあるから、対立が発生するんだと俺は思う。


「考えてました……」

「やっぱりか」

「じゃあ、さ」

「え、ちょ、な、何? な、な、何? し、志熊さん?」


 俺は、志熊に手をぎゅっとつかまれ、志熊の思うように体が動いてしまった。俺はとても動揺してしまった。俺の顔は志熊の顔に凄く近い位置にあり、志熊がまた照れた。俺もこういう状況はめったに経験しないから、きっと真っ赤になっていると思う。一つ訂正する。俺は女と顔を近づけるなんていう行為、一度も経験したことがない。


 まあ、『不純異性交遊』だし、男女関係を築くのは校則違反だと俺は思う。……って、それはもう通用しないじゃん。学校じゃないんだし。


「顔、近いです……」

「う、うるさいんだい! バ、バカなんじゃないのか! これはあくまでその、えと……」

「何か言いたそうだけど……」


 すると、志熊はじたばたしだして、ベットをドンドンと蹴った。そしてぎゅっと目をつぶり、言う。


「これはお前の罰なんだからな! それ以上でもそれ以下でもないんだからな!」

 「言葉の使い方、間違ってはいないか?」と言いたくなったが、この際注意しなくていいか。面倒くさいことになったら嫌だし。


 俺がふとため息を付いた所で、俺の視界が遮られた。温かい体熱のようなものが伝わる。きっと、これは志熊の手なんだと思う。


 と、視界が一瞬で遮られた事に驚いた俺は、ビクビク緊張していた。……その時だ。


「んむ……っ、んちゅう……、んん……っ!」


 いきなり志熊がキスをして来た……だと。なんで俺が、こんな美少女にキスされてるんだ? ……さては夢だな? ここは夢の世界なんだな?


 俺は真相を確かめるべく、頬をつねってみた。


 結果は「痛い」という方に軍配が上がった。つまり、この世界は現実というわけだ。だから俺は、先程誰にキスされたかというと……。


「顔、真っ赤だよ?」


 いつもの俺みたいに、「いや、お前も顔真っ赤だろ」なんていう言葉は吐けない。なにせ、今俺だって顔の周辺から湯気が出そうなのだからな。


「あのさ、ろくのん」

「なんだ?」

「看病、してほしいな……なんて」

「別にそれくらいのことならいいけど……」


 その時、本当に『グットタイミング』という時に、後峠が秘密基地へ入ってきた。『侵入』という言葉を、この地下室を作った後峠に言うというのは可笑しいからね。


「おかゆ、置いとくよ」

「あ、ありがとう……」

「いや、お前が言っちゃイカンだろ、ろくのん。今からこれ食わせるのはお前なんだから」


 俺は心の中で、「ですよねー」と思っていた。……俺と志熊はそういう関係ではないと思うんだが……。と言っても、先程キスをしてしまったために、なかなか反論できない点も多々ある。


「じゃ俺は厨房でテレビでも見てるわ」

「う、うん」


 そうしてまた、後峠は秘密基地を出て行った。だが、彼奴はそうそう普通に去る奴ではない。だから彼奴はこんなことを言った。それは、「リア充溶けろ」という名言だ。


 リア充が爆発して木端微塵になることではなく、リア充が溶けて消えることを指す名言である。さすが厨二病とだけはある。厨二病というわけではないのかもしれないが。


 目の前にあるおかゆ。これを、つまり「あーん」と言わせて、食わせてあげなくてはいけないのか。俺は雑用係でも使用人でもないっての……。


「食べさせて……ね?」


 その目はやめろ。俺の身体が火を吹いてしまう。だが俺はそのことを口出ししなかった。俺がため息を付いている間に、志熊は目をつぶり、大きな口を開けて、おかゆを食べる体勢になった。


「こ、こうか?」


 もぐもぐ。


 俺がおかゆを食わせてやると、志熊はゆっくり食べ始めた。なんか可愛いぞ、こいつ。目をつぶってもぐもぐおかゆ食っていて。俺がレンゲを俺の方へ引くと、れんげには糸が絡みついていた。これはおそらく、志熊の……涎。


 俺は、壊れかけそうな理性を取り戻そうと、一度咳払いをして、気持ちを改めた。


「おいしい……か?」

「うん。でもこれろくのんが作ったわけじゃないでしょ」

「まあ……ね」


 俺の言葉を聞いた後、志熊はまたおかゆを欲しそうにしたので、おかゆを食べさせた。

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