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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第二章 形成されゆく恋愛感情
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2-2 爺の来店

 今日もまた本を読み、そうしてまた仕事をしないで一日終わるのかと思った時、カランカランという音とともに、少し年老いた爺が店に入ってきた。


「いらっしゃいませ」

「ここが洋食店かい?」

「は、はい」


 爺は眼鏡を掛けていて、髪は銀色をしていた。そして右手に杖を持ち歩いている。そして爺は、「ふうん」という感じで、表情を作ると、俺達にこう問う。


「わしは今新潟空港を降り、新潟観光をしようとしに着たんだが、計画などは作っていないんでね……。ちょっと今日、ここで昼飯を食おうと思ったんじゃ」

「そ、そうなんですか」

「ええ。なんだかたまには洋食も食べてみたいんでね」

「では、ご注文はお決まりでしょうか」

「決まってないです」

「では、この『空港丼』はいかがでしょう。とても美味しいですよ」

「おすすめなのかい? じゃあ、それをいただこう」

「ありがとうございます。六〇〇円のお支払いになりますが……よろしいでしょうか?」


 爺は「はい」と言って頷いた。その後、持っていた財布から現金六〇〇円を取り出し、支払った。


「では、少々お待ちください」


 俺はそう言うと、厨房の方へ入っていった。

 ひとつ言っておくが、『空港丼』などという名目の料理などない。あれはあくまで俺が勝手にきめたことである。


「店長」

「ん? 注文の知らせかい?」

「ええ。この空港丼というのを僕が勝手に作ってしまったんですが、どうするべきでしょう……」

「メ、メニューにまで改変、いや改悪を加えたの?」

「……はい」


 俺は堅苦しい訳でもないプライドを捨て、土下座した。

 それを見た志熊は慌てて、手のひらを左右に振る。


「ち、違くて! 私は別にいいよ? 今までのカツカレーのカツをタレカツにすればいいんだからさ」

「おお!」

「でも、タレをカレー以外にするとなぁ……」


 志熊が悩む。俺は料理は作ることはできるが、それを発送するような思想は持っていない。だから、志熊のことを補助することは出来なかった。


 だが、あることをひらめき、俺は人差し指を志熊に突きつけた。


「そうだ! カレーの部分が海、ご飯の部分が陸地、カツの部分を住宅街として、カツの上に爪楊枝さして、フライドポテトを飛行機に見立てるようにして作ればいいじゃないか!」

「なんという発想!」


 志熊は手をぽん、と叩き、口を大きく開けて驚いたようだった。


 俺の発想を聞き入れると、早速カレーを温め、ご飯を皿に盛り、そしてカツを揚げたりした。……が、フライドポテトに関しては、店にあったものの、これ以上時間を掛けられないので、作ることが出来なかった。


 結果、カツを飛行機代わりにすることになった。


 どうなるかと思ったが、これ、ただのカツカレー改変したものじゃん。それに『丼』なのに、丼に入っていないってどういうことなの……。まあでも、料理は美味しいかが重要だと俺は思うからね。別に見た目なんて……。


「うまい……!」


 そんな風に考え込んでいた時に、その爺のコメントを聞いて、俺はほっとして、なんだか和やかな気分になり、ふと笑顔が顔に浮かんだ。それを聞いた志熊もほっこりとした笑顔をみせていた。


「ただのカツカレーじゃない……! これ、もしかして二日目のカレーですか?」


 そうなの? それに関しては俺も知らないや。


「ええ。よくわかりましたね。カレーは一晩置くことで美味しさが倍増すると思うんです」


 爺の予想はあたったようだ。俺でさえ知らされてなかったというのに……。




 爺は笑顔を見せながら、完食し、店を後にした。


「またの来店をお待ちしております」


 頭を下げて言った後に、俺はふと時計を見た。時計の針は十二時三〇分を指す。――と、その時だった。


「あ、危ない……ッ!」


 志熊が倒れた。


 俺はそれを阻止しようとして飛び出し、志熊の身体を支えようとしたが、そういうわけには行かなかった。なにせ、止めようとする一歩手前でもう、志熊は倒れていたからな。


「志熊……さん?」

「な、なに……?」

「大丈夫……ですか?」


 俺の質問に志熊は頭を上下に下げた。そして俺のズボンを掴んできた。でも、言っておくが、志熊は俺のズボンを下げようとしているわけではない。志熊は、立ち上がる補助道具に使おうとしているのだ。


「よいしょ……」


 なんか健気で可愛い。……いやいや、それ以前に病弱状態萌えとかありえないから。


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