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リア充もいいじゃん。  作者: 浅咲夏茶
第一章 プロローグ
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1-11 風呂

 午後八時五十分ぐらい、風呂場。


「な、なんだよ一体。ま、まさか俺を殺すつもりか?」

「違うよ」

「じゃあ何をするために……」

「今日だけ、君と一緒に居たいんだ。それがせめてもの償いだと思ってる」


 だから最後の余計だっつの。さっきから須戸はそればかり言っているではないか。というか、その言葉から察するに、今ここに連れて来られた理由ってまさか……。


 俺は少なからずの不安を打ち消そうと、深呼吸して疑問を須戸にぶつけた。


「俺と須戸が一緒に風呂……?」

「……察してくれたんだね」


 おいおい。そこは否定しろよ。このままじゃ俺が須戸と一緒に風呂へ入らなきゃいけなくなるじゃないか。これでも異性と風呂など初めてなんだぞ。それに、男だからといってドキドキしないわけではないんだ。それでも女よりはそう感じるシーンが少ないとは思うけどもな。本当かは知らんが。


「はじめに言っておくけど、僕は未来から来たからこの部屋の鍵の掛け方だとか、今から何が起こるのかだとかは知っているんだ……」


 そういえば須戸は未来から来たんだっけか。だが待てよ。おかしくないか? なんで須戸は未来から来ただけで俺という存在がわかり、なんで俺の両親を殺すことが出来、なんで俺の家の部屋の鍵を閉めることができるんだ?


「それは、僕が第二世界線の君の彼女だったからだよ」


 彼女? 第二世界線? ……いや、それより俺心の声が声に出てたか?


「いや、心の声は出てないよ」

「お前まさか……」


 俺はその時なんとなくわかった。なんで今までこいつがあまり喋らなかったのかを。俺の推理では、きっとこいつはこの心を読める超能力で会話し、そうして自分の脳内に情報を送っていたのだと。


「正解、だよ」


 その時の須戸の笑顔は、俺の心を奪うくらいだった。これは反則だろう。


「大げさだ、バカ」


 また照れて顔を真っ赤にした。


「心を読めているのか?」という疑問は解決されたが、問題は次の二つだ。「第二世界線」と、「その第二世界線で俺が須戸の彼氏だった」という疑問についてだ。


 この疑問も、俺がいう必要もなく、俺は楽に須戸と会話することが出来た。


「第二世界線って一体何なんだ?」

「それは、この世界とは違う世界のことで、私のいた世界のことだよ」

「お前はどの時代から来たんだ?」

「今日から四日後のこの街から」

「四日後……?」


 俺はその言葉に大きな疑問を持ってしまった。本当は疑問を増やすはずじゃなかったのに。逆効果じゃないか。


「ここからは君への試練だよ」

「試練……だと?」


 俺は言葉を言っている途中で、驚きのあまり間を開けてしまった。


「そう。君はこれから数々の試練に立ち向かっていかなくてはいけない。それが運命だからだ」


 俺は歯を食いしばった。今自分は、未来から来たある男装少女に「試練をくぐり抜けていけ」と言われているのだ。……なんだよこの状況。


「今は僕の言っていることが理解できないのかもしれない。でも、いつかきっと理解しなければならない日が来る。その時、戸惑わないで落ち着いて、このことを守ってほしい」


【―――ボクに似た少女を構ってはいけない。絶対に構うんじゃない。これは約束だ。】


 須戸はそう言った。ついさっきの須戸の台詞であったように、俺には理解できなかった。その言葉の意味が。なんで俺がそのことを守らなければならないのか。


 でもきっとこれはなにかの思いが詰まっているんだとは俺も思った。だから俺はそれを胸に刻むことにした。


 ふと先ほどまで須戸がいたところをみると、そこには手紙がひらひらと落ちてきていただけで、そこに須戸の姿はなかった。


「一体、なんだったんだ?」


 俺はそう言って落ちてきていた手紙を手に取り、内容を確認した。


【―――ボクのいうことは聞かないで下さい】


 手紙にはそう記されていた。


 きっとこの手紙は、俺が先程の須戸の台詞を忘れないようにするために作られたものであるのだろう。


 でも俺は、手紙を近くの棚に置くと、背伸びをして、風呂場へ向かった。


 だが一つ、謎が残った。それは、「俺と須戸は一体どんな関係だったのか」ということだ。


 なんらかの関係でなければこの世界へ伝えに来ないだろうし、それ以前に、なにかしらの関係でなければ、タイムマシンなんざ作れないだろう。なにせ、須戸

の言っていた内容が正しければ一週間後だぞ? ありえるはずがない。


 俺はそう心の中で思っていたが、「現実というのは予想を跳ね返すものである」と学ぶのは、それからまもなくだった。でも、その頃の俺には須戸の言うことが何を指すのかを理解することは出来なかった。だから「ふーん」程度にしか心を動かされなかった。


 俺はそんなことを思ったのだが、身体も疲れていたので、風呂場に急行し湯船に浸かった。両親が殺害されたことを忘れてしまうかのようだ。


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