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7話目

 小次郎とシャルロットの決闘は、日を改めて行われることになった。

 異臭漂う修練場を整えるためである。


「夕食に招待したいけど、今夜は忙しいのよね。

 小次郎クン、明日の予定を空けておいてくれる?」


 背後で尻を盛り上がらせて気絶する女騎士たちがいるにも関わらず、シャルロットは楽しげな笑みを浮かべている。

 自分はあのような醜態を晒さないという自信があるのだろう。

 もちろん、その自信は実力に裏打ちされたものだ。

 

「僕に予定はないけど」


 そこで言葉を区切り、小次郎は視線をライラに向けてくる。

 後を引き取って、ライラは口を開いた。


「団長、小次郎は私が任務の途中で出会って連れて来ました。

 任務の報告のため、陛下と謁見するつもりだったのですが」


「ええ、聞いているわ。たしか、大賢者捜索の任務よね。

 そういえば小次郎クンが、大賢者の娘はマリリンお姉ちゃんだ、とか言ってたわね。

 あなたが、そのマリリンかしら?」


 水を向けられたマリリンが、やんわりと微笑んで一礼する。


「お初にお目にかかりますわ、シャルロット姫殿下。

 大賢者マーリンの娘、マリリンと申します。以後お見知りおきを」


 王族の前でも緊張を見せないマリリンに、シャルロットは鷹揚に頷いた。


「よろしくね、マリリン。

 大賢者本人でなく、娘が来たのはどういうわけかしら?」


「父は半年前に流行り病で亡くなりました。

 私は父から大賢者としての知識を受け継いでおります。私でお役に立てればと思い、こうして参りました」


「そう。それは御苦労様。

 あなたの働きに期待するわ、マリリン」


 王族と臣下としては珍しくない言葉のやり取りである。

 だが、なぜか小次郎が目をキラキラさせていた。

 

「どうしたの、小次郎クン? 嬉しそうね」


 シャルロットに話しかけられ、小次郎は興奮したように返す。


「格好いいやり取りだったから! 本当にお姫様なんだね」


 聞き様によっては失礼ともとれる発言だが、シャルロットはクスクスと笑って小次郎の頬をつつく。


「そうね。私はお姫様、そして小次郎クンは勇者サマ。

 うふふ、勇者サマとお姫様は最後どうなるのかな~?」


 からかうような声音とその内容に、小次郎がつつかれた頬を赤らめた。

 小次郎が照れたことが嬉しいのか、シャルロットはニコニコしながら頬をつつき続けている。

 シャルロットの言動に、ライラは意外さを覚えた。

 美しい外見のシャルロットは、常日頃は男性に対してあのような気安い振舞いをしない。勘違いされやすいためだ。

 小次郎が子供だから心を許しているのだろうか。


「お父様……陛下には私から伝えておくわ。

 陛下との謁見は明日の決闘が終わってからにして」


 シャルロットはそう言って、話は終わった、とばかりに修練場から去って行った。

 対応にどこか違和感を覚えたが、まさかシャルロットがライラたちを害するようなことは考えまい。

 大人しく、王とは明日謁見することにした。








 翌日。


 決闘の行われる修練場には、大勢の騎士や兵士が野次馬にやって来ていた。

 昨日の勝負の内容が内容だけに緘口令がしかれたはずだが、人の口に戸は立てられないということだろう。

 修練場は広く、決闘の邪魔になるような人数でもないため、シャルロットも黙認しているようだ。

 ライラたちも野次馬はとくに気にならない。というか、野次馬よりも気になる物が修練場に鎮座していた。


「団長、あれはなんです?」


 修練場のど真ん中に立てられた小屋のような建物。明らかに昨日まではなかった建物だ。

 小さいが粗末なものではなく、それなりに頑丈に作られている。入口があるが、中は覗けない。

 公園や広場で見たことがあるような気もするが、まさかあの建物を修練場のど真ん中に作ったりはしないはずだが。


 ライラの問いに、シャルロットは心なしか胸を張って答える。


「あれはトイレよ。城の工兵たちが一日でやってくれたわ。

 頑丈だし、防音防臭は完璧よ。さすがは我が国の精鋭工兵たちね。私も鼻が高いわ」


 まさかとは思ったが、やはり公衆トイレだった。


「なぜ、修練場のど真ん中に?」


「私も公衆の面前で漏らしたくはないからね。万が一のために距離は近い方がいいわ。

 それじゃあ、決闘のルールを説明するわね」


 そう言って、シャルロットは辺りを見回す。

 緘口令はしいたが、野次馬たちに特に秘密にする気もないらしい。シャルロットの目線に気づいた周囲が私語をやめる。

 静まり返った修練場で、よく通るシャルロットの声が響いた。


「小次郎クンは子供だし、剣の修練もしていないようだから、剣による決闘はしないわ。

 今回の決闘は単純なスピード勝負よ。

 私がトイレ以外の場所で漏らしてしまえば小次郎クンの勝ち。

 その前に小次郎クンを私が捕まえたら私の勝ち。

 さすがに捕まった状態から移動は出来ないと思うのだけど、どうかしら?」


 シャルロットの言葉に、マリリンが頷く。


「ええ、すでに検証済みです。小次郎様は自身が移動できない状態だと背後に回ることはできません。

 そのルールで問題ないと考えます」


 マリリンの言葉通り、小次郎は誰かに捕まっていたり、ロープで縛られて動けない状態だと、人の背後に周る奇跡を使えない。

 カンチョーされる前に捕まえることが出来れば、確かにシャルロットの勝ちだろう。

 もっとも、瞬間移動めいた動きの小次郎を捕まえることができれば、の話だが。


「小次郎クンも、分かった?」


 シャルロットの問いかけに、緊張気味の小次郎がコクコクと頷く。

 大勢の前で一国の姫と決闘するという事態に、さすがの小次郎も緊張しているらしい。

 それだけを見ると愛らしい子供だが、小次郎の指は凶器であり、その指のもたらす結果は悲惨である。

 小次郎の保護者的立場に収まっているライラとしては彼を応援したいが、小次郎が勝つということは敬愛するシャルロットが公衆の面前で脱糞するということで、なかなかもどかしい。


「それじゃあ始めるわよ。小次郎クン、いらっしゃい」


 シャルロットに呼ばれ、小次郎は修練場の中央へ歩いてゆく。

 修練場の中央で、小次郎とシャルロットは向かい合った。

 小次郎は異世界の服ではなく、王都で購入した動き易い服を身につけている。

 シャルロットはいつも通り鎧を纏わないミニスカ姿だが、腰の剣は外していた。より軽くして動きを早くするためだろう。

 二人の距離はほんの十数メートルだ。あの距離ならば、シャルロットも小次郎の元まで一瞬でたどり着く。


 勝負は一瞬で決まる。


「ライラ、合図をお願い」


 決闘開始の合図を任され、ライラも前に出る。

 公平な決闘の為には、二人の集中力が最高に高まったところで合図を出さなければならない。

 慎重にタイミングを見極める。


「はじめ!」


 二人の集中力が最高潮に達したと判断したところで、ライラは合図を出した。

 途端、小次郎の姿が消える。だが、シャルロットは動かない。

 その表情は薄く微笑んでおり、先手を取られたのではなく取らせた、のだと判断できる。


「やあっ!」


 突如シャルロットの背後に現れた小次郎が両指を突き出し、彼女の尻にカンチョーが決まったと思われたその時!


「残像よ」


 カンチョーされたシャルロットの姿が消え失せ、ほぼ同時に小次郎の背後に出現する。

 両腕で抱きつくように小次郎を捕まえるシャルロット。捕まった、誰もがそう思ったが、今度は小次郎の姿が消える。


「あらら、逃げられちゃった」


 楽しそうシャルロットは笑う。

 笑ったまま一点を見つめるシャルロットの視線の先に、忽然と小次郎が現れた。

 空いた距離は十数メートル。ちょうど、決闘が始まった時と同じくらいの距離だ。


「うおお! さすがは姫様!!」


「団長! 私達の仇を、どうか!!」


 二人の攻防に野次馬たちが沸く。

 野次馬には昨日の犠牲者たちもいるらしい。別に怒声などはないが、小次郎にとっては敵地のようなもので、些かやりにくいかもしれない。


「小次郎様、頑張ってくださーい!」


 負けじとマリリンが声を出している。

 小次郎が軽く頷いたように見えた。


「うふふ、それじゃあ、今度は私から行くわよ」


 楽しげな声が響いたと思った途端、十数メートルの距離を一気に縮めたシャルロットが小次郎を正面から抱きすくめる。

 だが、またも小次郎の姿は消え失せ、シャルロットの背後を取る。

 その指はまた空を切り、今度はシャルロットが距離を取った。


「楽しいわ、すごく楽しい! 本気を出せるなんて久しぶりよ!」


 本当に楽しそうに、シャルロットが笑う。

 神速の剣姫が、弱冠10才の少年を相手に、本気を出せると喜んでいる。

 その異常な光景が、何よりも雄弁に小次郎の凄さを観客たちに伝えた。


「すごいな、あの少年」


「ああ、姫様と互角とは……まぎれもなく、勇者だ」


 それから何度も、二人の攻防は繰り返された。

 いつの間にか修練場は静まり返っている。

 どちらかの集中が切れた時に勝負が決まる。誰もがそう悟り、集中を乱すような音を立てないよう努めているのだ。

 二人の攻防の音だけが響く修練場。


 どれくらい続いただろうか。

 数十度の攻防の果てで、距離を取ったシャルロットが口を開いた。


「本当に楽しかったわ、小次郎クン。あなたは素敵よ。

 でも、私もこの国の騎士団長として、負けるわけにはいかないの。

 次の攻防で、勝負を決めさせてもらうわ」


 放たれた勝利宣言に、小次郎がごくりと喉を鳴らす。

 観客たちも次の攻防を見逃さないよう、息すら止めるほどに注視した。


「さぁ、いらっしゃい」


 そしてシャルロットは、まるで誘うように足を開き、腰を中腰に落とす。

 あの体勢では、カンチョーをしてくれと言っているようなものだ。もしも避けることに失敗すれば、指の根元まで突き刺さるだろう。

 分かりやすい挑発。

 つまり、シャルロットはこう言っているのだ。


 次が最後よ。あなたも捨て身になりなさい。


 避けねば漏らす。刺せねば捕まる。そういう勝負をしようという誘い。

 コクリ、と小次郎が頷いた。


 対峙する二人。

 誰の汗だろうか、ぽたりと水滴の音がして。

 そして、小次郎が消えた。


 シャルロットの背後に出現する小次郎。

 足を開き、中腰になったシャルロットは、まだ動かない。

 小次郎の両指が、ミニスカートの下から直接シャルロットの尻に伸びる。

 そして。



 

 ズニュリ。




 奇妙な音が響いた。

 柔らかい肉に何かを突き刺すような音。


 小次郎の指が、ミニスカートの下から正確に、シャルロットの尻に突き刺さっていた。

 シャルロットは、避けられなかったのだ。


 ――小次郎の勝ちか?


 そうとしか見えない光景。だが、何か違和感がある。

 違和感の正体は二人の表情だ。

 敗北したはずのシャルロットは勝ち誇るように笑っており、勝利したはずの小次郎が驚愕に目を見開いている。


「つ~かま~えたっ」


 楽しげなシャルロットの声が響いた。

 同時に、小次郎が悲鳴のような声を上げる。


「指が抜けないっ!」


 肛門から指が抜けないのか。

 いや、だがそれはおかしい。

 たしかに、神速の剣姫とまで言われるシャルロットの括約筋は、常人を凌駕する強靭さをもっているだろう。

 それをきつく締めあげれば、小次郎に痛みくらいは与えられるかもしれない。

 だが、抜けないはずがないのだ。

 根元まで突き刺さるとはいえ、小次郎のカンチョーは服の上からなされるものだ。

 服の布に包まれた指をどれだけ締め上げようと、布の分の隙間により、必ず指は抜ける。


 スカートの下からとはいえ、パンツ越しにカンチョーされた以上、指が抜けないはずはない。


「まさか……」


 茫然と、マリリンがつぶやいた。


「シャルロット姫。あなたは――――ノーパン、なのですね?」


 しん、とした周囲に響く、大賢者の娘の推理。

 信じ難い内容だったが、シャルロットは嬉しげに頷いた。


「ええ、そうよ。いま、小次郎クンの指は直に私のお尻の穴に刺さっているわ。

 小次郎クンは私のお尻から指を引き抜けない。つまり、私に捕まっている。

 私はトイレ以外の場所で漏らす前に、小次郎クンを捕まえた。だから、私の勝ちよ」


 シャルロットの勝利宣言に、我に返ったように観客たちがざわつき始める。


「さすがは姫様、なんと変態的な頭脳プレイだ……」


「あの便意を括約筋だけで我慢するなんて……さすがは団長です」


 そう、シャルロットは勝負の最中にパンツを脱いだわけではない。最初から、ノーパンだったのだ。

 それはすなわち、決闘の前からこの勝ち方を想定していたということ。

 速度で勝てないならば括約筋で勝つ。己の括約筋を信じた、二段構えの戦略である。

 修練場のど真ん中に立てられたトイレも、このための仕込みだったのだ。


「で、ですがまだ勝負はついておりません! 小次郎様の勝利条件は姫様がトイレ以外の場所で漏らすこと。

 小次郎様の指を抜いた後、姫様がトイレにたどり着く前に漏らしてしまえば、決闘は引き分けでございます!」


 自分だけは小次郎の味方でいようというのか、マリリンが物言いをつける。

 当の小次郎は勝負の行方よりも、早く指を抜きたそうに困った顔をしていた。


「ふふ、そうね。たしかにルール上は、小次郎クンの指を抜いて私がトイレに駆け込むまでに漏らしてしまえば、勝負は引き分けかもね。

 でもそれはありえないのよ」


「ありえない? な、なぜです!?」


 不敵に笑うシャルロットに、マリリンがたじろぐ。


「なぜなら――私は小次郎クンの指を抜かず、このままトイレに連れ込むつもりだからよ!

 指さえ抜けなければ私が漏らすことはないわ!」


 堂々とした変態宣言であった。

 尻の穴で子供を捕まえ、トイレに連れ込む女。何か変な魔物のようだ。


「さぁ、こっちへいらっしゃい小次郎クン。大丈夫よ、トイレにつれてくだけだから。何もしないわ」


「うっ、うわぁぁぁぁ!!!」


「がんばって! 負けちゃだめです小次郎様!!」


 尻の小次郎をずりずりと引きずりながら、一歩ずつトイレへと歩みを進めるシャルロット。

 さすがに怖くなったのか、悲鳴を上げる小次郎。

 まだ決闘の途中だからか、助けに入らず応援だけするマリリン。


 ひどい光景が広がっていた。


 ――というか、騎士としてはこれ、団長を逮捕とかした方がいいんじゃなかろうか。

 ――あれ明らかに犯罪なんだが。どう見ても変質者の現行犯。


 シャルロットを止めるべきか迷っているうちに、小次郎は結局トイレに連れ込まれてしまった。

 さすがに神速の剣姫の脚力には、奇跡のない小次郎では抗えなかったらしい。

 応援しながらついて歩いていたマリリンが、トイレの入り口で打ちひしがれている。


「う、うむ。なにか危険な光景だったが、これで文句なく姫様の勝利だな」


「トイレの中であの子ひどいことされてないといいけど。ま、まぁ私達の団長がそんなことするはずないわよね!」


 ひどい光景に目をそらしていた観客たちが、ようやく勝負が終わったとばかりに騒ぎ出す。

 あの光景に溜飲を下げるどころかむしろ同情したのか、昨日の小次郎の犠牲者たちが心配そうにトイレを眺めていた。


「まぁ、負けてしまったが小次郎のすごさは十分に伝わったか」


 最後の光景を脳から消し、結果オーライとライラが一人納得しようとしたその時。





 ドォォォォォン!




 大音響と共に、トイレが爆発した。

 猛烈な勢いで辺りに異臭が広がり、茶色い何かが飛び散る。

 爆発から庇うように小次郎を抱きしめたシャルロットが、ひゅるる、と飛んできて、べちゃり、と修練場のど真ん中に墜落した。

 そして。




 ブリブリブリブリブリ!!!

 




 衆人環視の中、脱糞した。


「しゅ、しゅごいぃぃ……」


 シャルロットは白目をむいて気絶しており、うわごとのように一言呟いた。

 抱きしめられている小次郎も、衝撃のせいか白目で気絶している。

 ついでに、トイレの入り口にいたマリリンも気絶していた。


 ――ああ、トイレ以外の場所で漏らしたな。


 あまりに凄惨な光景に誰もが思考を凍らせる中、慣れてしまったライラはとりあえず言った。


「この勝負、引き分けっ!」


 辺りに歓声でなく悲鳴が上がった。




 こうして勇者と姫騎士の決闘は、引き分けに終わることになったのである。


しゅごいやばい気がします。

あと数話で終わる予定です。

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