2話目
キーワード追加しました。『危険! 排便描写あり』というものです。
つまりそういうことです。カレー注意!
小次郎がルティアの声と別れて、すでに小一時間が経っていた。
女神の加護により幸運になった、との言葉を信じた小次郎は、適当に方向を決めて歩いている。
運がよければ、適当に進んでいても人に会えるだろう。そして自分は運がよくなったらしい。
子供なりに理屈を考えて、小次郎はただひたすら前へ前へと進んでいた。
――と、どこからか喧騒が聞こえ、小次郎は辺りを見回す。
小高い丘のような場所を歩んでいた小次郎だったが、どうやら喧騒は丘の下から聞こえるようだ。
それが何者かが争うような騒ぎであることに気づいた小次郎は、音を立てないように、しかし急いで喧騒の元へ駆ける。
高さ4メートルほどの、垂直の崖になっているような場所の下で争いは起きているようだ。崖の上から見つからないようにそっと覗き込む。
垂直の岩壁を背にするように、一人の女が4体の生き物と相対していた。
ワインのような赤く長い髪を風にたなびかせる女は、銀色に光る鎧を着込み、その手にギラリと光る抜き身の剣を握っている。
女の右肩、鎧のない場所に一本の矢が刺さっていた。手当てもされていない様子からすれば、矢を射たのは彼女と相対する4体の生き物だろう。
それは、全身が暗い緑色をした二足歩行の生き物だった。節分で被る鬼のお面のような顔をしている。その手には錆びた剣やごつごつした太い棍棒など、質の悪そうな武器が握られている。
ファンタジーゲームに出てくるような武装をした、見たことのない色の髪を持つ女性。同じくゲームの中ではモンスターと呼ばれるであろう生き物たち。
小次郎はその光景を見て、なるほどこの世界は異世界なのだと思い知った。
ぎらつく刃物の光に、小次郎の身体がすくむ。1対4で、彼女は大丈夫なのだろうか。
「毒を使うとは卑劣なゴブリンどもめ! このライラの首がやすやすと取れると思うな!」
すくんだ小次郎の耳に、凛とした女の声が響く。
その声に含まれた気合と、なによりその内容が、固まった小次郎の身体を奮い立たせた。
――ライラというお姉さんは毒を盛られている! このままでは危ない! 僕ならば助けられる!!
「あああああああっっ!!!」
己を鼓舞する雄たけびを上げながら、小次郎は4メートルの高さの岩肌を飛び降りる。
「なっ! ――子供!?」
「ゴブ!?」
突然の小次郎の出現に驚く周囲。怪我はしなかったものの、バランスを崩して小次郎は倒れこむ。
ひざをついた小次郎の姿に、いち早く我に返ったのはライラと名乗りを上げた女だった。
「くっ! 子供がなぜこんなところに……!
少年、私の後ろにいろ! 絶対に前に出るな!」
小次郎を後ろに庇い、ライラはゴブリンたちと対峙する。
その声には、負けてたまるかという強い意志があった。
だが、言葉とは裏腹に、全身に回った毒のためかライラの身体を震えている。
「ゴブッ、ゴブッ、ゴブッ(おいおい、もうへろへろじゃねーか)」
ゴブリンたちはそんなライラを嗤う。その顔は、人間の女と子供をどう甚振るかという残酷な考えに歪んでいる。
ライラは足を肩幅に開き、腰を落として重心を低く構えた。
飛び掛ってきた全てのゴブリンを撃退する。強い意志が瞳にこめられ、口元から歯を食いしばる小さな音が漏れた。
ところで。
ライラの着込む鎧は、上半身を覆う鉄の胸当て、両腕の小手、両足の脛あてだけである。
それ以上の武装は重く動きを阻害するため、女性用の鎧といえばこれが一般的であった。
そして、ライラは小次郎の目の前で、腰を落として前方だけに集中している。
すなわち。
肛門がガラ空きであった。
――ズンッ!!
何か重いものが落ちたかのような、腹の底に響くような音が響く。
その音は、ライラの尻から発せられていた。
小次郎の両人差し指が、尻の穴に根元まで突き刺さったのである。
ゴブリンたちを睨みつけていたライラの顔が、一瞬無表情になって。
「んほおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」
顔中の穴から液体を垂れ流しながら、ライラは咆哮する。
――熱い! 肛門が熱い!!
ゴブリンに向けられていたライラの剣が、手から零れ落ちた。
空いた両手がズボンと下穿きを引き下ろし、両足が肩幅に開いたまま折りたたまれる。
何かに操られるようにその体勢になったライラだったが、その瞬間、理性を取り戻す。
「は……? 私は、何を……」
騎士として鍛え上げた精神力が、驚異的な速さでライラを正気に戻らせたのである。
だが、無意味だった。
もう遅かったのだ。
ライラは、自分の身体がそれを行うことを止められなかった。
ぶりぶりぶりぶりぶり!!
尻から響く音。腹が軽くなる感覚。辺りに立ち込める異臭。
女騎士ライラ、まさかの敵前脱糞である。
「…………え? どうして?」
呆然として、ライラは小さく呟いた。
どうして肛門が熱くなったのか。どうして敵の前でうんこしているのか。どうしてうんこが止まらないのか。
混乱する彼女を庇うように、うんこを避けた小次郎がライラの前に立つ。
「もう大丈夫だよ、お姉さん」
両人差し指を立てた状態で手を組み合わせた、独特の構えでゴブリンに相対する小次郎。
その言葉と姿が、なにやらとても格好良いように思えた。ライラの頬が熱くなる。
なんだこの格好良い男の子は? まるで歴戦の戦士のような”凄味”がある!
ついに私にも運命の相手が現れたのか!? まだ子供だが可愛い顔をしているじゃないか!
あの独特の手の構えは何だ? いや、あの構えはいつの日か、遠い過去に見たことがある!
何らかの武術か? いや、違う。確か、アレは――
甦る遠い日の記憶。幼い頃、町で同年代の少年にされた悪戯。
尻に衝撃を感じて振り返ったライラに、少年はあの手の構えでニヤニヤ笑っていた。
そうだ。あれは、カンチョーの構えだ。
ライラの疑問が氷解する。
女騎士ライラの敵前脱糞事件。大事件の犯人はコイツだ。
「お前の仕業かあああああああっっっ!!!」
激怒してライラは怒鳴りつけた。
だが、小次郎はなぜかキリッとした顔で答える。
「僕のカンチョーは人を幸せにするんだ。お姉さんの身体の毒は、うんちと一緒に外へ流れていくよ」
「私の人としての尊厳も流れていくわぁっ!」
敵対するゴブリンの目の前でうんこするなど、騎士としても女としてもありえない。
何が幸せだ。こんな敵前脱糞女が、この先幸せになどなれるものか。
――ん? ゴブリン?
「そういえばゴブリンどもはっ!?」
ライラが脱糞中のため戦えなくなった現状、子供が一人加わったとはいえ、戦力的には圧倒的に不利な状態だ。
いくら知能の低いゴブリンたちといえど、突如現れた子供一人に警戒し続けるようなことはあるまい。
ゴブリンどもは、今すぐにでも襲いかかって来るかも知れないのだ!
威嚇するため、ライラはゴブリンたちを睨みつける。
しかし、なぜかゴブリンたちはライラを襲うような素振りは見せず、4体で集まってゴブゴブ鳴いていた。
「ゴブゴブゴブ(おい、あの人間の女、いきなりうんこし始めたんだけど?)」
「ゴブゴブゴ(ありえねぇ。人間の女は恥じらいってもんがねぇのかよ)」
「ゴブゴブゴブ(戦闘中にうんことか、すごいのかバカなのかわからんな)」
「ゴブゴブゴブ(めっちゃ臭い。普段何食ってんだあの女)」
ちらっとライラの方を確認する。
ライラはもりもりうんこしながら、ゴブリンたちを睨んで威嚇していた。
「ゴブゴブゴブゴブ(おい、めっちゃ睨んでる! めっちゃメンチ切ってきてる!)」
「ゴブゴブゴブゴブ(ウンチ出しながらメンチ切ってきてる!)」
「ゴブゴブゴブゴブ(俺たちの中で一番キレッキレのブラックオーク先輩ですら、
うんこ座りでメンチ切ってもうんこしながらメンチは切らないというのに!)」
「ゴブゴブゴブゴブ(あの人間、ブラックオーク先輩よりもキレッキレなのか!)」
ぶりぶり…ぶりっ……ぷりぷり……ぷり…
ライラの排便音が小さく、途切れ途切れになってゆく。
もうすぐ終わりそうだ。
焦りだすゴブリンたち。
「ゴブゴブゴブゴブ(おい、もうすぐうんこ終わっちまうぞ!)」
「ゴブゴブゴブゴブ(うんこが終わったら、俺らどうなっちまうんだ……)」
「ゴブゴブゴブゴブ(キレッキレのブラックオーク先輩を怒らせたら半殺し……)」
「ゴブゴブゴブゴブ(あの女、先輩よりキレッキレなんだぞ! 全殺し確定じゃねぇか!)」
青くなった顔を見合わせ、ゴブリンたちは我先に逃げ出した。
うんこしながら威嚇するライラの姿は、ゴブリンたちにとって恐ろしくキレッキレだったのである。
「……逃げた、だと?」
うんこ座りのまま、ライラはゴブリンたちが逃げたことに戸惑う。
ゴブリン語を理解できないライラは、まさかゴブリンたちが自分に恐怖して逃げたなとどは思わない。
そのため、ゴブリンたちが逃げた要因は別のもの――小次郎に恐れをなしたのではないかと考えた。
小次郎はカンチョーの構えのまま、キリッとした顔で逃げるゴブリンたちを見やっている。
うんこ座りのため、下から見上げる状態であったこと。太陽がたまたま逆行になっていたこと。
これらが重なって、ライラには小次郎から後光が指しているように見えた。
「まさか……お前が、予言の勇者なのか?」
呆然と、ライラは呟く。
身体が軽い。
カンチョーにより、ライラを蝕んでいた毒が全て流れ出たためだ。
普通のカンチョーにそんな効果はない。
それが奇跡であることに気づいたライラは、ぶるりと震えた。
出来るだけ性的な描写にならないように注意しましたが、運営からノクタ送りを命じられないか心配です。
申し訳程度におねショタ成分が入ってますが、メインはうんこです。
あとすいません。前回、土日に2回更新っぽいこと書きましたが基本は週1更新です。