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エピローグ

 ふと気づけば、世界を染めた白い光は収まっていた。

 目の前に広がる光景に、ライラは一瞬、自分がどこにいるのかを忘れる。

 視界いっぱいの空と大地。ずっと先まで何もない平野が続き、地平線が見えていた。

 目前の光景に不自然なところはない。だが、何かがおかしい。どこか違和感を覚える。

 違和感について考えていたライラは、ふと疑問を覚えた。


「……トーレン山脈はどこだ?」


 先ほどまで聳え立っていたトーレン山脈が、見事なまでに消えて無くなっている。

 自分がどこか別の場所に移動したのかとも思ったが、周りを見れば景色は変わっていない。

 ただ、正面にあったトーレン山脈だけが、綺麗になくなっているのだ。


「どうやら、聖女様のうんこの量が思っていた以上に多かったようですね」


 なにやら青い顔になったマリリンが、どこか震える口調で言った。

 何に怯えているのやら、と不思議に思ったが、アリシアの叫びによって疑問は氷解する。


「ちょっとマリリンさん! メルート様はどうなりましたの!?」


 トーレン山脈に張られたバリアの向こう側、魔王城に封印されているはずの女神メルート。

 バリアは消えた。だが、バリアと共にトーレン山脈も魔王城も消えている。

 では、そこに封印されていた女神はいったいどうなってしまったのか。


「まずいことになったわね」


 困ったような顔をしたシャルロットが近寄ってくる。

 事態に気づいたのだろう。僧侶兵たちが騒ぎ出し、騎士団が抑えに回っていた。

 このままでは僧侶兵たちが暴動を起こしかねない。

 ライラも騒ぎを収めようと動こうとしたその時。


『静まりなさい』


 どこからともなく、神々しい声が響いた。

 その声を聞いた途端、ライラの体は考えるより先に跪く。

 ライラだけでなく、その場にいるほぼ全員が、声が響いたと同時に跪いていた。


『顔を伏せなさい』


 神々しい声に命じられ、跪いた者たちは一斉に顔を伏せる。

 すぐ近くに、途方もない力を持った何かが出現する気配がした。

 だが、恐怖心は微塵も湧いてこない。

 女神が降臨したのだと、本能的に分かったからだ。


 ――なんと言う威光だ。


 この世界に生きる者として女神に対して信仰を持っているが、あくまでも忠誠を捧げるのは国と王。

 そう考えていたライラですら、女神が降臨したという事実に感動が抑えられない。

 湧き上がる畏敬の念を、皆が等しく抱いたのだろう。顔を伏せたまま、感激の涙をあふれさせる者までいた。


 と。


「あ、女神様うんこついてる」


 ただ一人、跪かず顔も伏せなかった小次郎が、少し嬉しげな声で言った。

 しんと静まり返っていたその場に、声は場違いなほどに良く響く。

 内容が内容だけに、思わず全員が伏せていた顔を上げてしまう。


『…………………』


 そこには、女神というに相応しい美貌を持つ女が佇んでいた。

 光を溶かし込んだように輝く長い髪と、慈愛を感じさせる優しげな目元。

 ただ、女は服の胸と腹の部分を茶色い物で汚しており、その表情は憮然としていた。


『そこの坊やは私の世界の子じゃないようですね。まぁいいでしょう。坊やのことは後です。

 私は女神メルート。この世界を守護する女神です。

 まずは私を魔王の封印から解放してくれたことに感謝いたしましょう』


 メルートの声から棘が消える。

 女神からの労いに、僧侶兵の中には感動のあまり身を震わせる者すらいた。

 しかし、メルートの発した次の言葉で、その身は凍りつくことになる。

 

『ところで、あなたたちに問わなければならないことがあります。

 封印を破るために光の速さで排泄物を飛ばすなんて馬鹿なことしたのは、誰ですか?』


 明らかに怒った声での問いだった。声にこめられたプレッシャーで誰も身動ぎできない。

 そんな中、なぜか小次郎だけは常と同じで、気負った様子もなく答えた。


「マリリンお姉ちゃんが考えて、僕がアリシアさんにカンチョーして、アリシアさんが光の速さでうんこしたんだよ」


 びくっ、とマリリンとアリシアが震える。


『そうですか……。まぁ、坊やのことはひとまず置いておきましょう。

 聖女アリシアは私も知っています。もう一人、そこのあなたがマリリンね?

 二人とも、立ちなさい』


 死刑を告げられた罪人のように、二人は青い顔で立ち上がる。

 作戦を考えたマリリンはともかく、嫌がっていたアリシアまで罰されるのはさすがに可哀想に思う。


『あなたたちを罰するつもりはありません。

 実際に私の封印は解け、それどころか魔王も着弾の衝撃で滅んだのですから。

 ただ、私が自分の身体で半分くらい受け止めなければ、山脈だけでなく大陸が消し飛ぶところでしたが』


 どうやら聖女のうんこで大陸と魔王がやばかったらしい。

 大陸はメルートが守ったようだが、魔王はお星様になってしまったようだ。


『私はあなたたちに感謝しているのです。

 さぁ、お礼に抱擁してあげましょう。女神の抱擁を、まさか断ったりいたしませんよね?』


 うんこの付いた服のまま抱きしめられ、マリリンとアリシアは顔をひきつらせた。

 とはいえ、この抱擁は二人に対するお仕置きなのだろう。

 女神にうんこをぶつけるという不祥事に対し、うんこがついたまま抱きしめることだけでお仕置きとするならば、それはなんと慈悲深いことだろうか。

 メルートの慈悲深さを知り、ライラは頭を垂れた。

 

 


 


 





 小次郎の視線の先で、メルートがマリリンとアリシアにうんこを擦り付けている。

 メルートの話によれば、魔王はアリシアのうんこに吹き飛ばされて滅んだらしい。

 予言の勇者としての役割は、もう終わったのだろう。


 小次郎は、この世界での出来事を改めて思い返す。


 ライラを解毒したことから始まり、小次郎はカンチョーで様々な試練を乗り切ってきた。

 小次郎のカンチョーで、たくさんの人を救えたはずだ。カンチョーで人を幸せにするという願いは、大勢の人を救うという形で叶ったように思う。

 だが、小次郎は満足し切れなかった。

 そもそも、小次郎がカンチョーで人を幸せに出来ると考えたのは、カンチョーされた時にちょっと気持ちいいと思ったからである。

 しかし、小次郎がこの世界でやってきたカンチョーは、奇跡を起こしたが気持ちよさを与えたわけではない。

 奇跡によって人を救ったが、カンチョーによって人を幸せにはしたとはいえないのではないか。


 小次郎はメルートの尻に視線を移す。

 あの尻が、この世界でカンチョーする最後の尻になるかもしれない。

 元の世界へ帰ろうと思ってカンチョーすれば、きっと女神の奇跡によって無事に帰ることができるだろう。

 だが、そのカンチョーはメルートを幸せにするためのカンチョーではない。

 あくまでも、小次郎が元の世界へ帰るためのカンチョーなのだ。

 最後くらいは、心の底から満足するカンチョーがしたい。


 考えてみれば、この世界に来るきっかけになった女神ルティアへのカンチョーは、人間にやったならば幸せになりすぎて帰って来れないほどの全力のカンチョーだった。

 そして、ルティアからはメルートに対して同じことをやれといわれている。


 小次郎は決意した。

 元の世界へ帰るためのカンチョーではなく、ルティアを幸せにするためのカンチョーをしようと。


 小次郎が密かに決意を固めていると、メルートが近寄ってきた。

 メルートが中腰になり、小次郎と視線を合わせてくる。


『坊や、あなたは私の世界の子ではありませんね。どこの世界から、どうしてこの世界へ来たのですか?』


 ルティアから、この世界へ来ることになった経緯を説明してはいけないと言われている。

 小次郎は質問に答えず、にこりと笑った。

 釣られたか、メルートも笑顔になる。


 そして、小次郎はメルートの前から消えた。


『え?』


 虚を突かれた様な声を上げるメルートの背後に、小次郎は音もなく現れる。


 ――メルート様、幸せになってください!


 ただその想いだけを胸に、小次郎は全力で女神の肛門を穿った。


 ズンッ!


 大地が揺れたかと錯覚するような衝撃が走る。

 一瞬、メルートの顔が真顔になって。


「あへえええええええええええっっっ!!!」


 子供に見せてはいけない顔で、びくんびくん痙攣しながらメルートは崩れ落ちた。

 直後、いつもの音が響く。


 ブリブリブリブリッ!


 メルートの尻が盛り上がり、異臭が辺りに立ちこめる。

 女神が脱糞したにもかかわらず、小次郎は消えない。この世界にとどまったままだ。

 おそらく、トイレとして使っている世界へのゲートを開くことすら出来ないほど気持ちよかったのだろう。

 小次郎のカンチョーは、たしかにメルートを幸せにしたのである。


 女神の公開脱糞に辺りが騒然とする中、小次郎は心の底から満足していた。

 


 


 



 

 その後。


 女神にカンチョーして脱糞させるという大事件を起こした小次郎だったが、覚醒したメルートに許され、特に罪に問われることはなかった。

 それどころか、女神メルートの世界において公開脱糞は一種の神事として位置づけられることになる。

 ブラックオークからたった一人で村を守った女騎士ライラ、勇者と決闘した姫騎士シャルロット、女神を魔王の封印から解放した聖女アリシア、そして女神メルート。

 勇者による女神救出の途上で、そうそうたるメンバーが公開脱糞を行っていたことにより、公開脱糞は神聖なものであると皆が考えたのだ。

 もっとも、真似しようとする者は皆無であったが。


 小次郎は結局、メルートによってルティアの世界へ帰してもらうことになった。

 帰る前夜に盛大な送別会が行われ、小次郎はメルートの世界で出会った人々と別れを交わす。

 別れを惜しむライラたちに、小次郎は奇跡ではなく幸せのためのカンチョーをして回った。

 勇者の送別会で行われた英雄たちの公開脱糞は、後の時代まで永く語り継がれることになる。


 一ヶ月ほどの冒険を終えて元の世界へと帰った小次郎。

 行方不明で警察沙汰になっていたりと、色々とごたごたはあったが、小次郎はあっさりと日常に戻ることができた。

 魔法のないルティアの世界では、女神の加護による奇跡はほとんど使えない。

 だが、小次郎に不満はなかった。


 小次郎は予言の勇者として女神メルートを救い、あの世界の人々を幸せにしたのだから。






 こうして、二人の女神の肛門を穿った勇者小次郎の冒険は、ひとまずここで終わりとなる。

これにて完結です。約二カ月にわたりお付き合いただき、ありがとうございました。

時間不足により最後は駆け足な感じになってしまいました。物語を終わらせるというのはすごく難しいですね。

詳しいあとがきは活動報告の方に。

それでは読んでくださった皆様、どうもありがとうございました。

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