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異世界英雄式のつまらない解き方  作者: 四四 カナノ
第一件 異世界からの訪問者
3/71

3 結果+認定試験

前話の続きになります。

 因縁と呼べるような対戦は終わった。けれど、それですべてが終わったわけではない。まだ残りの試合がある。しっかりと気を引き締めていかないと。何より、けがをしたくはない。

 試合は、決められた時間に一斉に開始される。会場に参加者が揃ったとしてもすぐに始められるわけではない。予定よりも早く会場についた場合は、少し時間を置いて試合に挑むことになる。一人で参加している僕としては、休憩時間ができてありがたいことだ。

 二試合目の相手は、相撲部だった。場所は、柔道場で行われる。応援席にも多少の観客がいた。ほとんどが相手チームの応援目的だが、さすがに先ほどの対戦とは意味合いが違う。


 第二試合 対チーム・金剛力士軍(相撲部)

 会場 柔道場

 許可された道具 なし

 第一戦 相撲部らしく相手は開始早々から突っ込んできた。その突進に合わせて相手の懐に入り込み、すばやくあごに拳を突き上げて撃退した。その後の相手の動きは悪く、時間まで粘って、判定により勝利となった。

 第二戦 一戦目と同じように突っ込んできたが、前とは異なり前方を警戒していた。それに対して僕は、相手の真上に来るように跳び、頭を両手で掴んで逆立ちの体勢をとった。その体勢からひざを落下させて横腹にひざ蹴りを叩き込んだ。それが決定打として認められ、審判ストップにより勝利。

 第三戦 懲りずに突進してくる相撲部員に対して、今回は正面から迎え撃ち、顔面を平手打ちにした。それで怯んだ相手の隙をついて後ろに回り、背中から首に腕を回して首を絞めにかかる。相手はそれを背中から倒れこんで逃れようとしたが、とっさに相手の背中を蹴って後ろに逃れた。倒れこんだ相手にすかさずとび蹴りを繰り出してダメージを与え、徐々に追い込んだところで時間切れとなった。判定勝ち。


 ◇


 順調に午前中の二試合が消化され、昼休みとなった。

 校内は、平日と変わらない賑わいを見せているが、いつもより外で食事をする生徒が多く見られる。

 そんな中、僕と光は校舎の屋上でお昼を食べていた。さすがに屋上まで足を運ぶ生徒はおらず、人の姿は見当たらない。ここに裕也はいない。情報収集に行ってくるということだった。

「ごちそうさま」

 僕は静かに箸を置いて、コンクリートの上に寝転んだ。青い空と緑っぽい裂空間を正面から眺める。

 春の陽気を楽しめるのも後わずかだろう。だんだんと季節の変化を感じられるようになってきた。

「おつかれさま」

 光は隣に座り、緑茶の入ったペットボトルを両手でもてあそんでいる。

「浩一、なんかすごいね」

 その声には感慨が表れていた。

「うん、思ったより動けてる」

 午前の試合は、予想以上に体が動いた。裕也のサポートのおかげで、対戦相手のデータはほとんど頭に入っている。戦闘中の対応もすぐに思い浮かぶ。思い浮かぶだけでなく、体もすぐに反応する。

「浩一はさ、やる気を出せばすごいのに。いつもの様子を見てると嘘だと思うよ」

「別に適当にやってるわけじゃないんだけど」

 普段は普段で、やれるだけはやっている。それでも今日みたいな結果はなかなか出せない。本気でやろうとしても本気を出す方法が分からない。そういう意味では、今日の状態はかなり珍しいことだ。

「わかってる。でも、こんなことでやる気が出るなら、ほかのことでもやる気を出して欲しいなって思っただけだから」

「……」

 これにはどう返したらいいか分からなかった。必ずしも答えを待っているとは思わないけれど、光にはいい加減に答えても心配させるだけだから、答えを持っていなければ沈黙で答えるしか僕にはできない。

 ちょっとした沈黙の時間。

 風に揺れる木々の音と鳥の鳴き声、そんな自然の音が響き渡る。

 そんな空気を破ったのは扉の開かれる音。

「飯は食い終わったか?」

 扉を開けて現れたのは裕也だった。

「ちょっと面白いことになってきたぞ」

「面白いこと?」

 光が首を傾げた。僕も疑問を浮かべる。

「下で試合結果を見てきたんだけどさ」

 確か、グラウンドで参加者の勝敗表が掲示されることになっている。裕也は、そのことを言っているのだろう。

「番狂わせだって騒いでるぜ」

 要するに、予想が外れたということだ。予想は絶対ではないのだから、外れることがあるのは当たり前のことだ。それのどこが面白いのだろうか?

「番狂わせっていうことは、予想外のチームが勝ってるってことだよね?」

「ああ」

「どこのチーム?」

「タケ、お前だ」

 裕也の目が僕に向いた。

「……なぜ?」

 これにはさすがに聞き返した。

「もともと、お前が勝てると思ってたヤツはいなかった。せいぜい一勝ぐらいだろうってな。ところが、二試合終わったところで全勝してるのがお前しかいないんだ。前評判最低だったヤツが、いきなりトップで出てきたから騒ぎになってる」

 そう言われてみればそうだった。一戦一戦に集中していたから全勝していたことをすっかり忘れていた。

 結果については、あまり深く考えないようにしていた。審判の判定が甘いというのもあるだろうから、純粋な勝ちとは一概には言えない気がするのだ。判定が甘いのは、けがを負う前にできる限り手早く試合を終わらせようと教師たちがしているからだと思う。

「でだ、このまま全勝しちまったら面白いことにならないか?」

 裕也は、不敵な笑みを浮かべた。

「ちょっと、何言い出すのよ。浩一に無理させる気じゃないでしょうね?」

 光が立ち上がり、裕也に詰め寄った。

 その様子を見た裕也は、すぐに両手を上げた。

「わかってます。無理をさせる気はないって。相手は部活の上級者なんだ。うまくいくとは思ってない。ただ、タケに状況を知っといてもらおうと思っただけだ」

 残りは五試合。それをすべて勝利で終わらせる。普通に考えれば無理だ。本命との試合はまだ残っているし、僕の場合は十五連戦だ。格闘ゲームじゃあるまいし、そんなに戦えるとは思えない。

 ただ、裕也の口ぶりだと状況はそれを期待しているということだろう。

「……面白い話だと思うけど」

「む?」

 僕のつぶやきに光が反応した。

「まさか、やる気じゃないよね?」

 さっきの呟きから何を感じ取ったのか、光は僕のやる気を的確に捉えていた。

「負けるまではやってみようかと思ったんだけど」

「負けるまで?」

「負けたら、そこからは棄権する」

 極端なことを言っているけれど、絶対に勝利することを考えて戦うとなると肉体的にも精神的にもかなり疲労する気がする。一度負けたら、次は勝てないだろう。そこで諦めてしまっていいと思う。

 ただ、逆を言えばそこまでは諦める必要はないということ。そういう意味ではやる気が出てきていた。

「わかった。それでも無理はしないで」

「うん」

 僕は、目を閉じてこれからのことを考えた。


 ◇


 昼休みが終わる少し前に、観客のそれなりに集まった三試合目の会場に入った。最初のほぼ無観客状態と比べればえらい違いである。番狂わせは、かなり印象が強かったらしい。こちらとしては、見世物扱いでしかないからあまりうれしくないのだが。


 第三試合 対チーム・百錬(柔道部)

 会場 ボクシング用リング

 許可された道具 なし

 第一戦 いきなりこちらから攻めた。開始直後にダッシュしてドロップキック。相手が構えている最中にクリーンヒットして、吹っ飛ばした。先制の一撃で決めた。審判ストップで勝利。

 第二戦 さっきとはうって変わって、今度は待ちの体勢から入った。うまく距離をとりながら蹴りを主体に攻め、隙があればダッシュからのとびひざ蹴りを見せた。相手が攻めあぐねている間に試合終了。相手の姿勢が消極的だったことから積極的に仕掛けたこちらの有利とされた。判定勝ち。

 第三戦 対戦者がダメージ累積限界と判断され、試合の出場が認められなかった。試合が行われず、不戦勝。


 第三戦の不戦勝。その理由は、いわゆるドクターストップである。これは、午前中に行われた二試合での対戦が考慮された結果だ。かなり激しい対戦だったのだろう。見た限りでは対戦者に大きなけがは見当たらなかったが、軽いけがはあったのかもしれない。

 こういうことがあると考えると、できる限り、けがをしないように動かないといけない。先制攻撃ですぐに判定勝ちを狙いに行く戦い方も現実的だ。


 第四試合 対チーム・一撃入魂(空手部)

 会場 ボクシング用リング

 許可された道具 なし

 第一戦 序盤から動きなく、けん制しあう状態が続いた。しかし、うまくリングの形状を使って徐々にロープに追い込み、相手の動きを封じて攻勢に出た。そのまま時間切れ。判定勝ち。

 第二戦 今度は序盤から攻め込まれた。うまくかわしたり、防いだりしながら耐え、隙を見つけてカウンターを入れた。それが思いのほかうまく決まり、相手の動きが鈍くなったところで連打を打ちこむ。審判ストップで勝利。

 第三戦 こちらの疲労がたまっているのをいいことに最初から勢いよく攻撃してきた。それに対応するため、こちらは今までと全く違う動きをした。左右に大きくステップを踏んだり、ポールの上に跳んだりして、相手の意表をついて攻撃した。結果、うまく混乱させ、決定打を入れることに成功した。判定勝ち。


 第五試合 対チーム・ファイトオブファイター(ボクシング部)

 会場 裏庭

 許可された道具 ボクシンググローブ

 第一戦 相手が開始と同時に突っ込んできた。それには慌てずにカウンターを合わせて、一撃でダウンを奪った。審判ストップで勝利。

 第二戦 今度は、ゆっくりと始まった。さすがにここまで来ると相手もダメージがあるようで、足もとがふらつくときがある。そこで、足を狙って蹴りを繰り出し続け、早々にご退場願った。審判ストップで勝利。

 第三戦 対戦者がダメージ累積限界と判断され、試合が行われず。不戦勝。


 ◇


 五試合目まで終了。

 現時点で全勝しているのは、僕一人。十五勝。

 次に勝ち数が多いのは、剣道部。十四勝。

 その次は、空手部。十勝。

 空手部はこの後の二試合六戦を全勝したとして、僕と剣道部の対戦結果によっては勝利数同数での優勝があり得るが、その可能性はかなり低い。そのため周囲は、優勝するのは僕と剣道部のどちらかという話で盛り上がっている。

「大方の予想は、剣道部有利で固まってるな」

 試合後、次の会場へ向かいながら裕也からの話を聞いている。

「防具が認められているから、さすがにこれは揺るがないだろうな」

 この試合での服装は「自由」である。基本的に部活から参加するチームは、ユニフォームでの参加になる。部を代表しているのだからそれが普通の考え方だ。柔道部は道着を着用、相撲部は回し姿。そして剣道部は、剣道防具を着ての参加だった。

「ちょっとずるいよね」

 光がそう感じるのも良く分かる。

 この試合の判定はかなり甘い。そこまで勢いや重さのない打撃でも簡単に有効打となる。しかし、うまく防具を利用すればそれを無効にできる。けがにつながるような攻撃がなければ、ある程度の攻撃は問題ないことになる。

 さらに、攻めの面では竹刀による打撃。相手のリーチの外から攻めることが容易なため、判定の甘さと合わせれば簡単に判定勝ちが狙えるだろう。

「タケ、どうするよ?」

 裕也は、にやけながらこちらに話を振ってくる。

「当たって砕けろ、でいいんじゃないかな」

「何か考えがあるのか?」

「考えというほどのものではないけどね」

 僕にできることは限られている。その中で対応するとなれば、その方法も少ない。

 光がにらんでくるが、何も言葉にはしない。一応、無理はしないと言ってあるし、言いたいことがあっても最後まで見守ると決めているのだろう。

 次の試合の開始時間が迫っている。会場に着けば、すぐに試合開始だ。


 ◇


 第六試合 対チーム・ブレイブ(剣道部)

 会場 柔道場

 許可された道具 竹刀

 第一戦 相手は正面から竹刀を振ってきた。その竹刀を遠慮なく白刃取りし、無遠慮に力一杯引っこ抜いた。引っこ抜いた竹刀は相手の手からするりと抜け、場外へ飛んでいった。そして、無防備になった相手をタコ殴り。審判ストップで勝利。

 第二戦 相手はやはり竹刀を振ってくる。それを今回も腕を絡ませて握り、力一杯引っ張ったが、今回は相手が踏ん張った。しかし、その隙に間合いを詰めて上段蹴りを側頭部に叩き込んだ。審判ストップで勝利。

 第三戦 今回は、竹刀をつかませてはくれなかった。すばやく、速度を重視して振ってくる。竹刀の間合いを計って、姿勢を低くし、相手の動きが一瞬よどんだ隙に足元めがけて突進して転ばせた。相手が倒れているところを上から足で押さえつけ、振り回される竹刀をつかみ、そのまま相手に押し付けた。完全に動きを押さえた。そこで、審判ストップがかかった。判定で勝利。


 第七試合 対チーム・昇竜(少林寺拳法部)

 会場 剣道場

 許可された道具 なし

 第一戦 不戦敗。

 第二戦 不戦敗。

 第三戦 不戦敗。


 ◇


 これで試験内容はすべて終了した。

 剣道部との対戦で考えていたのは、「竹刀を奪えば何とかなるかな」ということだった。相手にとって有利な点を奪えばやりようはあるのではないかと。その結果、多少なりとも攻撃は受けることになったが、奪った後はある程度激しく攻めれば勝ちを取れた。

 ちなみに、少林寺拳法部との対戦は受けずに閉会式が終わるまで保健室で寝ていた。受けなかった理由は、勝とうが負けようが順位に変化がないから。つまり、第六試合終了時点で僕のトップは決まってしまったのだ。ちょっと相手に悪い気はしたが、正直なところ「当たって砕けろ作戦」(今、命名)で光に怒られたからという理由もあった。

 その後に行われた閉会式は、裕也に代理で出席を頼んだ。最後に何か余計なことを発言して観客を沸かせたらしいが、協力してもらったのでそのことは目をつぶっている。僕が「道乃森最強の男」と呼ばれるようになったのは、裕也の発言だけが原因ではないだろうから。


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