強襲2日前 夜Ⅱ
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寮に戻った裕弥は途中で雛と雪とは別れ、カズマを背中に背負い自分の寮部屋の入り口に到着した。重力操作系魔法をこっそり使っていたため学校から寮までさほど体力を消費せずにすんだ。
時刻が遅いこともあって他の生徒と遭遇することなく目的地に着けた。
ここで変な誤解をされたくはないからな…
「さて…ここまで来れたのは良しとして、どうするんだ」
意識を失っているカズマを部屋のソファーに預け、裕弥が腕を組み考え始める。記憶は改造してあるため適当に何か話を作るのが得策だろうか?
「まずは晩飯にするか…コイツの分も必要になるよな…やっぱ」
そう言うと裕弥はキッチンの方へと歩き出した。
最低限の食器が揃っているだけの生活感の感じられない台所の横に置かれた冷蔵庫は開く。
「おいおい…マジでか、これは買いにいくしかないな」
冷蔵庫の中には食材と言えるものがなく、裕弥は最寄りのコンビニに買い出しに行くことにした。
カズマも意識が戻るまではまだ時間がかかるだろうし…そう思い制服のまま寮の外へと出る。
「何…?何でお前らここにいんだよ」
部屋を出て裕弥が見たのは雛と雪の姿だった。
「何ってアンタたちの禁断の領域を観察しにきてやったのよ」
「あのね、雛ちゃんが料理を裕弥たちと食べようって」
そう言われると雛の片手にはレジ袋が握られている。裕弥にとっては助かる話だ。
「なるほど、ちょうど食材切らしてたから助かるわ」
「そう………」
「おじゃましま~す」
その後、3人は寮部屋の中に入っていく、雛はキッチンへと歩き出し、雪はいつものソファーがカズマに占拠されているのを見てテーブルの椅子へと腰掛ける。
裕弥も雪の前の椅子に座る。
「今日は疲れたね~でも球技大会楽しかった」
「まぁ…その後いろいろと大変だったし、ってか今もか」
「それに…」
雪の表情に真剣さが浮かぶ。裕弥もそれに伴って表情を堅くした。
「テツヤのことか…」
「うん…それにテツくんが最後に言った言葉覚えてる?」
「ああ、一緒に仕事する日は近いって言葉だろ?」
「そう…一体どういうこと何だろって気になってて」
確かにそれは裕弥も同じだった。テツヤはチーム戦にはほとんど参加したことがない、裕弥も彼と回収活動を行ったことは一度しかないからだ。
「まぁ…それを話すと長話に……あっ!?」
「きゃっ!?驚かさないでよね」
「放課後…谷橋の所に行くの忘れてた…明日は説教されるな絶対」
数学の谷橋に放課後に呼び出されていたことを思い出し裕弥がポリポリと頭をかく。雪も「あっ!」っと声を漏らす。
「でも仕方ないよ…神崎くの件もあったし…」
ガックリと肩を落とす裕弥を雪を励ます。
「ちょっと、何しょぼい顔してんのよ!」
そこへ手袋をして鍋を運んできた雛が割り込んできた。どうやら今日の晩飯は鍋料理にしたらしい。
「すんません」
「うわ~スゴいよ、鍋にしたんだ美味しそう~」
「ありがとう、球技大会の優勝お祝いよ」
雛が鍋の蓋を開けると、部屋中に鍋のおいしそうな香りが漂い食欲に拍車をかける。
「私、みんなの皿取ってくるね~」
待ちきれないといった様子で雪が椅子から飛び上がり、食器のあるキッチンにダッシュしていく。
「アイツも元気だな」
「何を言っているの…アナタにも仕事があるじゃない」
「仕事…ですか?」
「はい、カズマくんを起こしてきて下さい。鍋が冷めないうちに早く」
ソファーに横たわるカズマを眺めて雛が妙に嬉しそうに裕弥に命令する。
裕弥も渋々だが承諾し、ソファーに歩き出した。
「おい、起きろ!お前も晩飯に参加できるみたいだぞ」
裕弥がソファーに寝ているカズマの肩を大きく左右に揺らす。
「ん……ん?どこだここ…ってあっ!!」
微睡んだ瞳を開いたカズマが目の前にいる裕弥に気付いて目を見開く。
「安心しろ…ここは俺の寮部屋だ、力、カズマと俺はその…」
テーブルの方から雛の視線が飛んでくるのを感じる、まさか本当にあのセリフを要求しているのだろうか?しかし、裕弥に選択の余地はなかった。
「ヤンキーでファンキーな間柄で球技大会で優勝したペア同士で食事しようってなって…そしたら」
「そしたら…?」
裕弥が言葉に詰まり、妙な緊張感が走る。
「カズマくんがソファーで眠ってしまったの…そこの男が変な気を起こさないように見てたから安心して」
「後の説明に納得いかねー俺をなんだと思ってるんだよ!」
テーブルから近寄ってきた雛が裕弥をフォローする。カズマもそうだったんだっと納得している。
「神崎くんも起きたし、早く食べようよ~」
3人でガヤガヤ話していると、テーブルに皿を並べ終えた雪がお腹を抑えながら呼んでくる。
裕弥たちも自分たちが相当空腹なこともあってテーブルへと足を運んだ。
◆◆◆◆
《魔術教会付属魔法保管タワービル》には万雷と数人の鎧兵の姿があった。彼らの目の前には金属棒に胸を突き刺された魔術警備部隊6人の死体が横たわっている。
「ただちに、この金属棒の成分と奪われた魔道具を調べろ。何か嫌な予感がします」
「ラジャー!」
万雷の指示を受け鎧兵の一人が金属棒に電極をつけ、それをパソコンで解析し始める。残りの隊員は各管理倉庫のデータベースから紛失した魔道具の特定を行う。
「これは!?…」
金属棒を解析している隊員が驚きの声を上げる。
万雷はパソコンの画面に顔を覗き込む。
「どうしました?」
「はいNo.3!この金属棒と魔術警備部隊の使用している弾丸の成分が一致しました…これは」
「錬金術師…の仕業ですね」
「はい、それ以外考えにくいかと…」
万雷がパソコン画面から顔を話し、右手を体の前に突き出した。
「我!ここの空間の支配権を引き受ける者なり、時の軸よ我が魂に答えん!」
万雷が唱え終わるのと同時に腕にはめられたブレスレットから魔法陣が出現する。その青色の魔法陣を中心に数本の黒い触手のようなものが伸び建物の壁に電極のごとく張り付く。
「やはり…ヤツの仕業か」
しばらくして、万雷は魔法陣を消し、それと共に触手も空間に溶けていった。そして、彼の表情が歪む、鎧兵も彼の様子をうかがっている。
「何か分かりましたか…?No.3」
「ええ…6年前に教会から抜け出した錬金術師のガキ…兎リョウで間違えないでしょう」
その直後、データベースのアクセスを完了した鎧兵が戻ってくる。
「No.3!失われたのは最近、使者の夜兎神が回収した赤石だと判明いたしました」
「なるほど…総本部に至急連絡せよ」
「ラジャー!!」
ビル内には鎧の擦れ合う音だけが騒がしく響く。




