強襲2日前 夕方Ⅳ
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真っ赤に染まった薄暗い美術室の後ろの机の影に男女の姿がある…黒髪の大人びた美少女である赤城雛と上半身を裸にした青髪の美少年の神崎カズマだ。
カズマの表情には焦りが浮かんでいた、美術室に近づいてくる足音があるからだ、そして、その音が美術室の後ろのドアで止まり2人の男女が入ってくる。
「えっ!!何をしているんだ?」
「雛…ちゃん?どうなってるの」
部屋に入ってきたのは雛たちの行方を心配していた裕弥と雪だった。
2人の視界に入ってきたのは上半身を露出した神崎カズマとそれに抱き抱えられている雛の姿だった。
「な、なんだよ…僕らに何か用でもあるのかい」
カズマが動揺しながら口を開く。裕弥はここで雛とカズマが人に言えないようなことをしていたと思った…しかし
「お前、雛に何をした?」
「何をしたって僕らは今日から付き合うこと…」
「ふざけるな!!!本当のことを話せよ神崎」
「…………………」
カズマは言葉に詰まり、沈黙が訪れる。
裕弥は美術室に落ちているカッターナイフとカズマの指にはめられている小さな魔法陣が浮かぶ指輪で雛の身に何かが起こったと推理した…
「ねぇ、裕弥?何なの…雛ちゃんはどうなってるの?」
「落ち着け雪、おそらく神崎が雛に魔術を使って何かをしたんだろう」
「えっ!?じゃあ…」
「ああ…魔術保護法の違反術者だ」
裕弥は常備している銃を球技大会の片付け終わりに着替えた制服のポケットから取り出しカズマに銃口を向ける。
「なんだよ…魔術保護何とかって…銃なんて向けて僕を殺す気か?」
「そうだ…」
「バカか!?違反ってお前の方が銃刀法違反してんじゃねーかよ!」
「俺には関係ない、その前に雛に何をした?」
裕弥の目が冷酷を帯びる、人を殺すことになれた人間の目が…
「…関係なっ!あぁぁぁぁぁ痛えぇ!!」
「裕弥、やり過ぎだよ!」
「いいんだ雪、さぁ、答えろ」
裕弥がカズマの右足に銃を撃った、あまりの痛みに足をおさえながらカズマが悲鳴を上げる。
雪も裕弥の残忍な行動に動揺しているようだ。
「…記憶を…上書き…した…僕のものに…なるように」
「戻せるだろ?さっさとやれ」
「分かった…だから…銃を捨ててくれよ」
「分かった」
カズマは裕弥が銃を床に置いたのを確認すると放心状態の雛に逆転の魔術をかけ始める。
魔法陣が先ほどとは逆の方向に回転し始める。
その間、美術室に静寂で満たされる。
「…完了した…もう…僕に関わらないでくれ…頼む」
しばらくして、雛の記憶修復を終えたカズマが傷をおさえながら裕弥たちにお願いする。
「ダメだ、お前はここで死ぬか…魔術教会に引き渡す必要がある…」
「そ、そんな!?ふざけるな!!!何で…僕はただ…雛さんが欲しかった…だだそれだけだった…」
「神崎くん…ねぇ裕弥、このまま魔道具だけ回収するのはダメかな?」
「な、何を言ってるか分かっているのか…雪?」
「でも、でも…かわいそうだよ」
雪が裕弥に哀れんだ表情でお願いしてくる。
本来、使者は魔術保護法に違反した術者を処分しなければならない…自分たちの意志に関係なく、だだ教会の人形として仕事をまっとうする…しかし、その使者であるはずの雪の言葉に裕弥は驚きを隠せなかった。
「そんな権利…俺たちには許可されてない」
「でも!…私たちは生きてる、他の人と同じように笑ったり、喜んだり…
裕弥も雛ちゃんも私も教会のただの人形兵器じゃないよ…」
そう叫ぶ雪の目は人形ではなく人間の目だった。
今まで道具として生きてきたことを全て受け入れていたように見えていたが、雪の心は違っていた。裕弥は正義が分からなくなる…自分は一体…教会に言われたことを淡々とこなし、ただ生きていた。だが、それが俺の全てだ。
「それでも…後戻りできない!」
「裕弥っ!!」
裕弥は足元に置いた銃を拾い上げ再びカズマに銃口を向けた、カズマの顔を恐怖が支配する。
そして、裕弥は引き金を引こうとする…その時
「待ちなさい……間違ってるわ…」
「雛…!?」
「雛ちゃん!?」
カズマの近くに倒れていた雛が起き上がり、弱々しく声を上げる。記憶を触られた反動だろう。
「カズマくんは殺さない…そして教会にも渡さないわ…」
「雛まで何を言って…」
「確かに彼が持っている物は魔道具だわ…でも…まだ使ってないわ」
裕弥は銃を下ろし、カズマを睨む。
「雛……お前はこんなヤツをかばって…」
俺たちはその後、指輪を回収し、それを使ってカズマの記憶を作り替えた、雛のことを好きだという記憶までも…
裕弥たちは初めて教会を裏切った…人形ではなく、ただの高校生として




