強襲2日前 夕方Ⅲ
◇◇◇◇
夕日の赤が一層濃くなり体育館のプレートを緋色に染め上げる。館内には数人の生徒の姿は見てとれるが、片付けが終了したのかほとんどの生徒が部活に行ったり、寮に戻ったりしている。
「ここには居ないな…もしかしたら自宅に戻ったのかもな」
緋色の館内を見回した裕弥が隣の雪に口を開いた。
アイツは全寮制である戦皇高校に在籍していながら街の中心部にある自宅から通っている。
「そうかな…違うと思う、雛ちゃんの持ってたラケットがここに置いてあるし」
「じゃあ、どこなんだ雛のヤツ?」
「残ってる人達に聴いてみようよ…何か分かるかも」
「そうだな」
俺達は近くに残っている生徒に話しかけてみる、
おそらくは体育委員の連中だろう。
「そうですか…」
「見つからないね~」
一通り聞き回ってみたが段ボールをペアだったカズマと教官室に持って行ったまま見ていないということ以外は情報と言えるものがなかった。
その直後、体育館の一番奥にある扉が開き、数人の男子が出てきた。
彼らは裕弥たちに小走りで駆け寄ってきた。
その中のリーダーらしき男子が前に体を出す。
「雛さん、まだ帰ってませんか?カズマと共に姿を消したんです」
「ありがとう、どこ行ったかは知ってるか?」
「すみません。そこまでは…」
「いえ、十分です…」
男はそれ以上の事は知らないようだ、裕弥と雪は感謝の言葉をそれぞれ言うと、体育館を後にする。
「ねぇ、片付けにしては遅すぎない?もしかして、何かあったりして…」
雪が心配の色を顔に滲ませる。
確かに、片付けならとっくに帰ってきているはずだ。体育館から教官室までは大廊下を通れば10分ほどで戻ってこれる、段ボールを持っていたとしても納得はできない。
「雪…気づかれないように魔法で校内を探れるか?何があったにせよ2人の居場所を突き止めるが先決だ…」
「分かった…カズマ君に至っては普通の人間だから早く見つけないと…」
「ああ、失踪事件と無関係ならいいが…」
ここ最近、何十人もの人間が失踪する事件が起きている、雪や裕弥の頭に2人が巻き込まれたかもしれないという不安が浮かんだ。
「じゃあ、裕弥。誰かに見つからないように辺りを見張ってて」
「任せろ。」
辺りをキョロキョロと見回した後に雪は近くにあった大学のミニパンフレットを取り上げた。
その直後、紙を青色に輝く光が包み込み、その光が記号や文字らしきものに変わる。
そして、数枚のパンフレットは生きているかのごとく折れ曲がり一つの形を構成していく。
「できたみたいだな…」
「うん、早く見つけないとね」
雪の周りを小さな鳥が飛んでいる、紙によって作られたツバメに似た鳥が、数は4羽…校内外にいることも想定して作られた探索用の式神だ。
「一体は校内の空から、他は街全域を探して…じゃあ行って!」
雪の指示を受け、命を宿した紙は空高く飛び去っていく、裕弥はそれを静かに眺めていた。
「お疲れさん、俺達も校舎内を探してみようぜ」
「そうだね…二階から回ってみよう」
「よっし行くぞ」
2人は教官室の近くの階段を上がって二階へ向かった。
◆◆◆◆
夕日が沈み始め、辺りが薄暗くなっていく。
窓から太陽の光を受けて美術室に飾られている彫刻作品も生き返ったように生命がみなぎっている
夕日以外の光源がない美術室には2人の男女の姿がある。
上半身が裸の青髪をした美しい少年が目の前にいる黒髪の大人びた少女の肌にいやらしく触れている。
「さぁ~もう僕のものだよ赤城雛」
「………カズマ」
少年の指にはめられた銀色の指輪が小さな黒色の魔法陣を放っている。
少女、赤城雛は彼の呼びかけに弱々しく声を出す。彼女の瞳はいつもの強気な印象を失っていた。ただカズマに無抵抗に好きに触られている。
「そうカズマ…君の恋人だよ、ずっと君が欲しかった」
「私の…恋人?カズマ…」
2人はそんなやり取りをしばらく続ける。
「おっと!?ネズミがいたみたいだね」
カズマは雛の体ごと机に身を隠す。何者かが階段でこちらに近づいてくる音がしたのだ。
「少し我慢して雛、すぐにどこかにいくからさ」
「…………」
小声でカズマがつぶやく
足音がどんどん大きくなる中で…




