5・命令
署長からかなりの難問を命令され、東十無は朝から憂鬱なため息をついていた。
「命令と受け取ってくれて構わない、特別休暇だと思って行ってきてくれ」
この忙しい時期に呼び出され、何事かと思いながら上司の机の前に赴くと、署長は気持ち悪いほどの上機嫌の笑顔で、十無に台紙に挟まれた一枚の写真を渡しながらそう告げた。
「いいお嬢さんだ、旭川方面本部署長の娘さんで、交通課に勤務しているそうだ。聞くところによると、君と同級生だとか。悪い話じゃないと思うがね」
「どういうことですか?」
話が飲み込めず、十無はきょとんとしている。
「わからんのか、東君もそろそろ身を固めた方が何かといいだろう。先方が是非にといってきている、またとない縁談だ。幸い大きな事件も起きていないことだし、明日にでも早速旭川へ行ってくれ」
「旭川まで行くんですか!」
「そうだ。まさかお嬢さんをこちらへ呼ぶわけにはいかんだろう」
十無は旭川行きということを聞いて、真っ先にアリアに会えるかもしれないという、微かな楽しみに嬉しくなったが、署長に「頼んだぞ」と思いっきりドンと強く肩を叩かれて我に帰り、見合いは簡単に断れない事態になっていると感じたのだった。
いったい、何を頼むと言うのだ。勝手に話を進めておいて。結婚なんて全く考えていないのに。
だいたい、旭川の署長と旧友だからといって、部下の結婚にまで口出ししないでほしいと、心の中では抗議していたが、所詮、縦割り社会、上司は絶対だった。
十無は到底気持ちを口に出すことはできず、わかりましたと返事をするよりなかった。