13・Dの犯行
「派手にやられたものだ」
見合いをしていたはずの東十無は、不動産会社社長宅の、ぽっかりと口をあけたままになっている隠し金庫の前で、ため息をついていた。
地元の所轄署が鑑識中だったが、署長から連絡があったのだと十無が伝えると、警官が不思議そうな顔をしながらも現場を見せてくれたのだった。
夕刻に帰宅した家人の妻が、この寝室だけ荒らされていることに気づいたのだという。
窓が割られておらず、侵入口は玄関と思われたが、施錠された状態だったため、寝室に入るまで異変に気がつかなかったらしい。
「プロの犯行だね」
十無が鑑識の邪魔にならないよう、金庫のドア部分を観察していると、背後から聞き覚えのある声がした。
「お久しぶりですな。東刑事」
「伏見刑事じゃないですか。ご苦労様です」
それは以前、ホテルで行われた祝賀会での騒動の時、一緒に行動していた年配の刑事だった。
「こちらには今回のことで?」
「いえ、偶然私用で来ていたのですが、こちらの署長が知らせてくれて」
「ほお、お知り合いですか」
「ええ、少し」
見合いのことは伏せておきたいと思い、十無は言葉を濁した。
署長が言っていた通り、玄関の鍵のことといい、手口から見てDかもしれないと十無は思った。
「やはりこれは、奴の仕業ですかな」
「多分、間違いないでしょう」
Dの入った現場は、妙に綺麗だ。
プロが入ると目的物の他はほとんど手をつけられていないことが多いが、それにしても部屋の乱れはなく、ご丁寧に鍵までかけていく。
しかし、今回は少し引っかかる。隠し金庫のドアが開け放しのままだ。
隠し金庫は、木目の壁に埋め込まれており、閉めてしまうと全く見えなくなるようなつくりだった。
何か意味があるのだろうか。十無は頭を捻った。
「義賊の真似事でも始めたんですかねぇ」
伏見刑事は顎をさすりながら、呟いた。
「義賊?」
「この前のホテルでのことといい、今回もね、何冊かの通帳と一緒にいろんな名前のハンコがここに入っていたんですわ。開いている金庫を見て、奥さんが慌てて警察を呼んだんですがね。呼んでからそれに気付いて、隠そうとしていたところに警察が到着してしまったということです」
「所得隠しですか」
「今、旦那さんを呼んで事情を聞いているところです」
「そうですか」
「ま、他にも現金とダイヤをやられたようですがね。金額をはっきり言わんのですよ、これが聞くたびに違う」
伏見刑事は細くて日に焼けたゴボウの様な顔をくしゃくしゃにして苦笑した。
「しかし、行動範囲が東京と旭川に限定しているというのは、おかしな泥棒ですねぇ。何かあるんですかね。東さん、もう掴んでいるんじゃないですか?」
「さあ、それはなんとも」
多分、アリアやヒロが絡んでいるからだろう。二人が移動すると、Dもまたそこに現れる。だが、十無はその情報を伝えなかった。
伏見刑事は間の伸びた、のんびりとした独特の話し方で、鋭いところをついてくる。十無は表情をじっと観察されているように感じ、つい目を逸らした。
「そうですか、あなたなら何か知っている気がしてね。ま、何かわかったら教えてくださいよ。定年までには解決したい事件の一つなんで」
「わかりました」
十無は笑顔でそう答えながら、心臓が飛び出るくらいに動悸がしていた。
何故伝えなかったのだ。アリアをかばっていることになるのではないか。いや、自分自身で解決したいからだ。
十無は心の中で、自分に言い訳をしていた。