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宙に浮くホワイトポピー

作者: San
掲載日:2026/04/23

わからない。


 最初から、わからない。


 目が開いているのか、閉じているのかも。


 光がある。


 白い。


 その中に、物。


(テーブル)

(椅子)

(冷蔵庫)

(包丁)

(テレビ)

(カーテン)

(本)

(靴)


 浮いている。


 なぜ浮いているのかも、浮いているという言葉も、知らない。


 ただ、そこにある。


 手が動く。


 それが自分のものかも、わからない。


 指先が何かに当たる。


 硬い。


(テーブル)


 角。


 押す。


 それが遠ざかる。


 同時に、景色が動く。


 自分が動いたのか、物が動いたのか、区別がない。


 布が顔に触れる。


(カーテン)


 柔らかい。


 指を絡める。


 ほどける。


 遠くに白い箱。


(冷蔵庫)


 近づく。


 取っ手に触れる。


 引く。


 開く。


 中から、いくつも飛び出す。


(牛乳パック)

(卵)

(野菜)

(ペットボトル)


 冷たい空気。


 それだけが、はっきりする。


 (牛乳パック)を掴む。


 強く握る。


 白が溢れる。


 丸くなって、散る。


 漂う白い球。


 指でつつく。


 弾ける。


 口に触れる。


 味。


 何かが胸の奥を叩く。


 でも、それが何か、わからない。


 手が離れる。


 白は広がり、薄くなる。


 光を反射する。


 その中を、銀色が横切る。


(包丁)


 細い。


 光っている。


 刃に触れる。


 皮膚が開く。


 赤が出る。


 赤い粒。


 ゆっくりと離れていく。


 痛みが来る。


 遅れて、熱い。


 指を振る。


 赤が散る。


 空間に点が増える。


 赤と白が混ざる。


 きれいだ、という感覚だけがある。


 理由はない。


 近くに黒い板。


(テレビ)


 叩く。


 光る。


 映る。


 形。


 人のような形。


 こちらを向いている。


 近づく。


 触れる。


 画面に自分の影。


 それが自分だと、知らない。


 ただ、同じ動きをする影。


 強く押す。


 ひび。


 線が走る。


 もう一度。


 割れる。


 ガラスが広がる。


 破片が無数に散る。


 一枚一枚が光を持つ。


 そこに、顔。


 どれも同じ顔。


 目がこちらを見る。


 口がわずかに開いている。


 破片を掴む。


 また切れる。


 赤が増える。


 破片の中の顔も、同じ場所が赤くなる。


 離す。


 破片が回転する。


 無数の顔が、ばらばらに漂う。


 どれも瞬きをしない。


 どれも、ただ見ている。


 逃げる、という感覚はない。


 ただ、遠ざかる。


 ぶつかる。


(椅子)


 回転する。


 足がこちらに向く。


 蹴る。


 また景色が流れる。


 どこにも端がない。


 どこにも壁がない。


 物と物の隙間に、自分がある。


 遠くで、冷たい箱がゆっくり閉じる。


(冷蔵庫)


 扉が半分開いたまま、止まる。


 中の(卵)がひとつ、殻にひびを入れる。


 中身がにじむ。


 それも丸くなる。


 漂う。


 赤と白と透明が混ざる。


 破片の中の顔が、それを映す。


 顔が揺れる。


 自分の指が、まだ赤い。


 舐める。


 味。


 鉄のような、何か。


 それが何かは、わからない。


 ただ、体が震える。


 理由はない。


 意味もない。


 わからないまま、手がまた伸びる。


 物に触れる。


 離れる。


 ぶつかて


 割れたガラスの中の無数の顔が、


 ゆっくりと遠ざかっていく。


 

 

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