宙に浮くホワイトポピー
わからない。
最初から、わからない。
目が開いているのか、閉じているのかも。
光がある。
白い。
その中に、物。
(テーブル)
(椅子)
(冷蔵庫)
(包丁)
(テレビ)
(カーテン)
(本)
(靴)
浮いている。
なぜ浮いているのかも、浮いているという言葉も、知らない。
ただ、そこにある。
手が動く。
それが自分のものかも、わからない。
指先が何かに当たる。
硬い。
(テーブル)
角。
押す。
それが遠ざかる。
同時に、景色が動く。
自分が動いたのか、物が動いたのか、区別がない。
布が顔に触れる。
(カーテン)
柔らかい。
指を絡める。
ほどける。
遠くに白い箱。
(冷蔵庫)
近づく。
取っ手に触れる。
引く。
開く。
中から、いくつも飛び出す。
(牛乳パック)
(卵)
(野菜)
(ペットボトル)
冷たい空気。
それだけが、はっきりする。
(牛乳パック)を掴む。
強く握る。
白が溢れる。
丸くなって、散る。
漂う白い球。
指でつつく。
弾ける。
口に触れる。
味。
何かが胸の奥を叩く。
でも、それが何か、わからない。
手が離れる。
白は広がり、薄くなる。
光を反射する。
その中を、銀色が横切る。
(包丁)
細い。
光っている。
刃に触れる。
皮膚が開く。
赤が出る。
赤い粒。
ゆっくりと離れていく。
痛みが来る。
遅れて、熱い。
指を振る。
赤が散る。
空間に点が増える。
赤と白が混ざる。
きれいだ、という感覚だけがある。
理由はない。
近くに黒い板。
(テレビ)
叩く。
光る。
映る。
形。
人のような形。
こちらを向いている。
近づく。
触れる。
画面に自分の影。
それが自分だと、知らない。
ただ、同じ動きをする影。
強く押す。
ひび。
線が走る。
もう一度。
割れる。
ガラスが広がる。
破片が無数に散る。
一枚一枚が光を持つ。
そこに、顔。
どれも同じ顔。
目がこちらを見る。
口がわずかに開いている。
破片を掴む。
また切れる。
赤が増える。
破片の中の顔も、同じ場所が赤くなる。
離す。
破片が回転する。
無数の顔が、ばらばらに漂う。
どれも瞬きをしない。
どれも、ただ見ている。
逃げる、という感覚はない。
ただ、遠ざかる。
ぶつかる。
(椅子)
回転する。
足がこちらに向く。
蹴る。
また景色が流れる。
どこにも端がない。
どこにも壁がない。
物と物の隙間に、自分がある。
遠くで、冷たい箱がゆっくり閉じる。
(冷蔵庫)
扉が半分開いたまま、止まる。
中の(卵)がひとつ、殻にひびを入れる。
中身がにじむ。
それも丸くなる。
漂う。
赤と白と透明が混ざる。
破片の中の顔が、それを映す。
顔が揺れる。
自分の指が、まだ赤い。
舐める。
味。
鉄のような、何か。
それが何かは、わからない。
ただ、体が震える。
理由はない。
意味もない。
わからないまま、手がまた伸びる。
物に触れる。
離れる。
ぶつかて
割れたガラスの中の無数の顔が、
ゆっくりと遠ざかっていく。




