表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

2話 消えた招待状

「優斗君、次の依頼だよ」

翌週の朝、事務所に出勤すると、桐原所長が分厚い茶封筒を手渡してきた。


「依頼人は?」

「この街の老舗旅館を営む方だ。どうやら『大事な招待状』を探してほしいらしい」


僕は首をかしげた。ペンダントのような小物ならともかく、招待状とは何だろう。



依頼人は「花月旅館」の女将、黒木美代子さん。七十歳近いが背筋はまっすぐで、声には張りがある。


「実はね……来月、旅館の創業百周年を祝う記念式典を開くの。その時に使う特別な招待状を、どうしても見つけたいのよ」


僕はメモを取りながら質問する。

「特別な、というのは?」

「ただの紙じゃないの。先代──私の祖父が手書きで残したものなの。百年前、最初に旅館を建てたとき、『百年後、この家族と街の人々に贈る式典を開こう』と書き記したのよ」


「百年前……」思わず息を呑んだ。

「祖父の字を式典で披露したい。でも、蔵にしまっていたはずのその招待状が、どこを探しても見つからないの」


美代子さんの表情は、女将としての厳しさよりも、一人の孫としての寂しさをにじませていた。


「わかりました。必ず見つけます」



旅館の蔵は広く、古い木箱や巻物が所狭しと並んでいた。

僕と所長は埃まみれになりながら探したが、目的の招待状はなかなか出てこない。


「優斗君、君はどう感じる?」

「え?」

「探すのも大事だが、依頼人の『気持ち』を掘り起こすことも仕事の一つだよ」


所長の言葉にうなずきつつ、美代子さんの話を思い返す。

──祖父は「百年後」を見据えていた。

──街の人々に贈る。


ふと気づいた。

「所長……招待状は蔵じゃなく、誰かに預けられているんじゃ?」



その夜、僕は旅館の古い帳簿を調べさせてもらった。すると、大正時代の記録に「石碑建立」の文字がある。祖父は旅館の庭に小さな石碑を建てていたらしい。


翌朝、庭の隅にある石碑を見に行った。苔むした石に「感謝」の二文字が刻まれている。その裏をのぞくと、小さな引き出しのような窪みがあった。


恐る恐る開けてみると、中には丁寧に折りたたまれた和紙が入っていた。墨の文字は薄れていたが、力強い筆跡でこう書かれていた。


──「百年後、この旅館を愛する人々へ。共に祝おう」


「……これだ!」



式典の日。大広間には地元の人々が集まり、美代子さんが招待状を披露すると、場内は大きなどよめきに包まれた。


「祖父の願いが、ようやく叶いました。本当にありがとう」


深々と頭を下げる美代子さん。その目には涙が光っていた。


僕は胸の奥が温かくなるのを感じた。

物探しの裏にあるのは、人々の歴史や絆だ。今回もまた、それを掘り起こせたのだ。


所長が静かに笑う。

「優斗君、いい仕事をしたね。だが、物語はまだ始まったばかりだ」


その言葉に、僕の胸はまた高鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ