2話 消えた招待状
「優斗君、次の依頼だよ」
翌週の朝、事務所に出勤すると、桐原所長が分厚い茶封筒を手渡してきた。
「依頼人は?」
「この街の老舗旅館を営む方だ。どうやら『大事な招待状』を探してほしいらしい」
僕は首をかしげた。ペンダントのような小物ならともかく、招待状とは何だろう。
◇
依頼人は「花月旅館」の女将、黒木美代子さん。七十歳近いが背筋はまっすぐで、声には張りがある。
「実はね……来月、旅館の創業百周年を祝う記念式典を開くの。その時に使う特別な招待状を、どうしても見つけたいのよ」
僕はメモを取りながら質問する。
「特別な、というのは?」
「ただの紙じゃないの。先代──私の祖父が手書きで残したものなの。百年前、最初に旅館を建てたとき、『百年後、この家族と街の人々に贈る式典を開こう』と書き記したのよ」
「百年前……」思わず息を呑んだ。
「祖父の字を式典で披露したい。でも、蔵にしまっていたはずのその招待状が、どこを探しても見つからないの」
美代子さんの表情は、女将としての厳しさよりも、一人の孫としての寂しさをにじませていた。
「わかりました。必ず見つけます」
◇
旅館の蔵は広く、古い木箱や巻物が所狭しと並んでいた。
僕と所長は埃まみれになりながら探したが、目的の招待状はなかなか出てこない。
「優斗君、君はどう感じる?」
「え?」
「探すのも大事だが、依頼人の『気持ち』を掘り起こすことも仕事の一つだよ」
所長の言葉にうなずきつつ、美代子さんの話を思い返す。
──祖父は「百年後」を見据えていた。
──街の人々に贈る。
ふと気づいた。
「所長……招待状は蔵じゃなく、誰かに預けられているんじゃ?」
◇
その夜、僕は旅館の古い帳簿を調べさせてもらった。すると、大正時代の記録に「石碑建立」の文字がある。祖父は旅館の庭に小さな石碑を建てていたらしい。
翌朝、庭の隅にある石碑を見に行った。苔むした石に「感謝」の二文字が刻まれている。その裏をのぞくと、小さな引き出しのような窪みがあった。
恐る恐る開けてみると、中には丁寧に折りたたまれた和紙が入っていた。墨の文字は薄れていたが、力強い筆跡でこう書かれていた。
──「百年後、この旅館を愛する人々へ。共に祝おう」
「……これだ!」
◇
式典の日。大広間には地元の人々が集まり、美代子さんが招待状を披露すると、場内は大きなどよめきに包まれた。
「祖父の願いが、ようやく叶いました。本当にありがとう」
深々と頭を下げる美代子さん。その目には涙が光っていた。
僕は胸の奥が温かくなるのを感じた。
物探しの裏にあるのは、人々の歴史や絆だ。今回もまた、それを掘り起こせたのだ。
所長が静かに笑う。
「優斗君、いい仕事をしたね。だが、物語はまだ始まったばかりだ」
その言葉に、僕の胸はまた高鳴った。




