第1話始まり
初めての連載なんで誤字脱字は大目に見て頂けると助かります。
今日は暑くなりそうだな。高坂駅で東武東上線を降り、僕、嵐山優斗はそう考える。
僕が今日から勤める「物探し代行 思い出」は、この駅から歩いて十分ほどの古びた商店街の奥にあるらしい。
駅前のロータリーを抜け、まだ朝の人通りの少ない道を歩いていくと、かすかに懐かしい匂いが漂ってきた。夏のアスファルトの熱気と、どこからか流れるパン屋の甘い香りが混ざり合っている。その中で、妙に胸の奥がざわつく。
「物探し代行」──普通なら怪しい響きだろう。だが求人広告には「失くした物から、忘れかけた思い出まで探し出します」と書かれていた。大学を出て職を転々とした僕にとって、その言葉はなぜか強烈に惹きつけるものがあった。
商店街のアーケードはシャッターが目立つ。かつては賑わっていただろうに、今はどこか時間が止まったようだ。その一番奥、古い木製の引き戸に「物探し代行 思い出」と手書きで書かれた表札が掛かっていた。
僕は緊張して戸を引いた。
「おや、新人君だね」
中にいたのは初老の男性だった。細身で背筋がまっすぐ伸び、白髪混じりの髪をきちんと撫でつけている。眼鏡の奥の目はやさしいが、どこか人の心の奥まで見透かすような鋭さを感じた。
「嵐山優斗です。本日からお世話になります」
「私は所長の桐原だ。こちらこそ、よろしく頼むよ」
事務所の中は、まるで骨董品店のようだった。棚には古い時計や万年筆、色褪せたアルバム、使い込まれたランドセルまで並んでいる。
「これらは、依頼で探し出した品々の一部だよ。持ち主が受け取らず、ここに残っているものだ」
「なるほど……まるで記憶の博物館ですね」
「ふふ、よく言った。記憶と物は密接に結びついている。依頼人が求めているのは、ただの『物』ではない。思い出そのものなのだ」
桐原所長はそう言い、僕に一枚のファイルを差し出した。
「さっそくだが、君に初仕事だ」
ファイルには依頼内容が記されていた。
──依頼人:小野寺沙希(高校二年生)
──探し物:青いガラス玉のペンダント
──詳細:祖母にもらった大切なもの。部屋をいくら探しても見つからない。
僕は思わず声をあげた。
「ペンダント……。ただの落とし物探し、ですか?」
「いや、それだけとは限らんよ」
所長は窓の外を眺めながら静かに続けた。
「依頼人が本当に求めているのは、そのペンダントを通して繋がる『心』かもしれない。よく目を凝らすことだ。見えるものの裏に、見えない思い出がある」
◇
依頼人の小野寺沙希さんとは、駅前の喫茶店で待ち合わせをした。まだ幼さの残る顔立ちに、不安と期待が入り混じった表情を浮かべている。
「……祖母が亡くなる前にくれたんです。夏の日、縁側で手渡してくれた。『大事にしてね』って。でも、いつの間にかなくしてしまって」
「部屋も全部探したんですよね?」
「はい。でも見つからなくて……ペンダントがないと、祖母の声まで忘れてしまいそうで」
彼女の瞳に涙が滲む。僕は、ただの物探し以上の重みを感じた。
「大丈夫です。必ず見つけます」
自分でも驚くほど強い口調でそう告げた。沙希さんは小さくうなずいた。
◇
放課後の学校、彼女の自宅の部屋、祖母がかつて住んでいた古い家。僕は場所を変えて探し続けた。しかし、ペンダントは影も形もない。
諦めかけたとき、所長の言葉が脳裏によみがえる。
──見えるものの裏に、見えない思い出がある。
ふと、祖母の家の縁側に座ってみた。夕暮れの風が頬を撫で、遠くでヒグラシが鳴いている。目を閉じると、不思議なことに声が聞こえた気がした。
──「大事にしてね」
ハッとして縁側の床下を覗き込む。古びた木の隙間に、青い光が小さく瞬いていた。
「……あった!」
手を伸ばし、慎重に拾い上げると、それは確かに依頼の品──青いガラス玉のペンダントだった。
◇
後日、沙希さんに渡すと、彼女は涙をこらえながらペンダントを胸に抱きしめた。
「おばあちゃんの声が……また聞こえた気がします。本当にありがとうございました」
その瞬間、僕はようやく理解した。
この仕事は、ただ物を見つけるだけじゃない。人の心に埋もれた「思い出」を掘り起こすことなんだ、と。
「物探し代行 思い出」での日々が、これからどんな出会いと謎を連れてくるのか。僕の胸は、不思議な高鳴りでいっぱいだった。




