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腹ペコ幽霊と冴えない僕は1DKで麺をすする  作者: 功野 涼し
ふわふわ浮くきみの手を僕が握るのが日常になるまでの日々

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9/12

舞台に上がるのが夢なんです

 人生で間違いなく初めてと断言できる忙しい朝の支度を終え僕は駅構内を足早に歩く。


 いつもなら会社へ行く道中なんて何も考えていないか、行きたくないなぁーとぼやく虚無の時間。だが今は違う、僕から一定の距離離れられず本人も会社へ行きたいと熱望するから仕方なく一緒に向かっているメー子が隣にいる。


 まあ、出会ったのが会社の屋上だし、メー子のことが何かわかるかもしれないと淡い期待を持って一緒に行くことを自分に納得させている。


「ねえー朝ごはん食べたい」


「降りたとこでなんか買うから待って」


 起きた時間からギリギリな上に時短どころか時間延長になったドタバタしただけの支度を思い出し大きなため息をついたところで背中を叩かれる。


「朝からため息ダメ。幸運が逃げる」


「いや、なんて言うか幽霊に言われたくない」


 人差し指を立て真剣な表情で助言してくるメー子に思わずツッコんでしまう。対して頬をわずかに膨らませ不服そうな表情に変わったメー子が顔を近づけてくるので、反射的に逸らしてしまう。


「幽霊だからって差別よくない」


「差別とかじゃなくて、幸運に対しての説得力の問題なんだけど。それよりもなんできみはあそこにいたのか、なんでもいいから思い出したことない?」


「ぜんぜん。あそこにいたときの記憶はあるけど、なんでいたのかは思い出せない」


「幽霊に憑りつかれてから三日目、こんなときどうしていいか分からないけど、今日まで普通に過ごしているどころか馴染んでる自分が怖いよ。お祓いとか行った方がいいのかな?」


「うわっ、恵人がそんな鬼畜だとは思わなかった。誰にでも優しくて、自分が傷ついても立ち上がれる強い人だよね」


 口を手で押さえて信じられないといった表情をするメー子を僕はジト目で見る。


「いやなんで僕のことをそんな知った風な言い方をするかな」


「知ってるし」


「え?」


 思わず聞き返した僕にメー子がしまったと目を丸くして口を押さえて首を横に振る。今「知っている」と確かに断言した。そしてこの慌てようから知っているのは間違いない。

 だがメー子と知り合って三日、誰にでも優しいと断言されるほど人と会ってないし、傷ついても立ち直ってもない。だどすれば考えられることは一つ!


「きみさ、僕が寝ている間に何か……たとえば日記とか見たりした?」


「ふえっ? にっ、日記⁉ う、ううん……見てない」


 驚きしどろもどろになるメー子に確信を得た僕は詰め寄るため一歩前に出て目で威嚇する。顔を逸らしてしらばっくれるメー子にさらに詰め寄る。ここ三日間に置いて僕が初めて優勢に立てた瞬間、この機を逃すまいと僕は意気込む。


「恵人……」


 顔をわずかに逸らしたまま視線を下に斜め下に落としたメー子が頬を赤らめる。恥ずかしがるような様子に思わずドキドキしてしまう僕は、単純でチョロイやつだなと思いながらも心を鬼にして目で威圧する。


「ハッキリさせてもらおうか。見たのか見てないのか」


 鬼となった僕はビシッとメー子を追い込む。


「け、恵人……恥ずかしい。みんなが見ている」


 頬を薄く桜色に染めたメー子がもじもじしながら言うが、僕は……ん? みんなが見ている? メー子の言葉が引っ掛かった僕は辺りを見回すと朝の混雑している駅構内だというのに、僕を避けるように円ができていることに気づく。


 円の中心にいる僕はハッとしてメー子を見ると、メー子は口元を押さえてニヤリと笑みを浮かべる。


 この幽霊自分が見えていないことを分かっていてやったな、メー子の邪悪な笑みに僕は確信するが時すでに遅し。周囲の人たちは僕()()を見てコソコソ会話するか、見て向ぬふりして通り過ぎるかしているが、共通しているのは僕がやばいヤツ認定されていることだ。


 誰もいない空間に向かって喋りかけたりするだけでもちょっと関わりたくない人だが、怒ったり落ち込んだり挙句、圧をかけたりすれば誰も近づかないのは当然だろう。


「こ、こんなものでいいかな。オーディションまで時間がないな……今日こそオーディションに合格するんだ! よーし頑張るぞ! えっと次のシーンは義理の両親から逃げるシーンか……ほらっ、僕とここから逃げるんだ! さあ、手をだして! さあ行こう! 僕ときみのワンダーランド!」


 スマホを取り出し何もホーム画面を見ながらやけくそ気味に演技をしている風を演技した僕はメー子の手を握り引っ張ってその場から撤退する。

 これでオーディションを控えた俳優希望の男に見えたはずだ。多分……だが少なくとも手を握って逃げるシーンはかなりリアルなはず。なにせ本当に手を握っているのだから。

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