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腹ペコ幽霊と冴えない僕は1DKで麺をすする  作者: 功野 涼し
ふわふわ浮くきみの手を僕が握るのが日常になるまでの日々

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8/14

騒がしい身支度

 スマホから流れる音楽は僕を仕事へと導く応援歌なのか、地獄へと誘うBGMなのか……


「うるさい」


 僕の手を握って枕元にあるスマホをペチペチと叩くメー子の姿がぼんやりとした視界に映る。幽霊では画面が反応しないのか段々とイライラした様子でスマホを叩くのでベッドが揺れる。


「こんのぉー!」


 音の鳴るスマホを強く握ると投げようとする姿が見えた瞬間、僕は飛び起きてメー子の腕をつかむ。


「おお?」


「スマホを投げたらダメだって! 壊れるだろ」


 僕が飛び起きて文句を言われたことに驚くメー子だが、すぐにジト目で見返してくる。


「これ壊れてる。だってボタン押しても反応しないし。そもそも押せない」


 メー子が不機嫌な表情でスマホの画面を指さす。


「押せないって幽霊だから反応しないんじゃないかな?」


「物を持てるからボタンも押せる。ほら!」


 メー子が僕に触れるとベッドに備え付けらている電気のスイッチを押す。朝の光に押されて弱いがぼんやりと光る小さな明かりを見てメー子が「どうだ」と言わんばかり胸を張る。


「電気と違ってスマホはタッチパネルだからさ、幽霊じゃ反応しないんじゃないかって話だけど」


「タッチパネル? 最近の携帯ってそんなんなの?」


「ん? 携帯? もしかしてスマホをご存じないとか……」


「し、知ってる! それくらい知ってるもん。き、聞いたことくらいあるし」


「もしかして、きみって実は僕より年齢上なんじゃ……」


 昨日もだが会話の微妙なズレからメー子は僕より年上じゃないかと薄々感じていたが、今の会話で確信に変わりそうだ。


「そ、そんなの今関係ない。それよりも起きなくていいの? 携帯鳴ってたし」


「あ? あぁ……ああっ⁉」


 スマホの画面に表示された時計を見て僕はベッドから飛び降りる。


 そう、今日は仕事の日。会社へと行くためにかけていたアラームでいつものように起きて仕事へ行くなんてことのないルーティンの日々のはずが、メー子の登場で大きく崩れてしまう。


「ねえご飯は?」


「いやちょっと待って。先に準備させて」


「えー」


「えーじゃないから」


 不満を口にするメー子を適当にあしらった僕は洗面台へと向かい顔を洗いわずかに伸びたひげを電気シェーバーで剃る。


「ってなんでここにいるのかな?」


「暇だから。ふ~ん、ひげってそうやって剃るんだ」


 電気シェーバーなのかひげを剃るのが珍しいのかは分からないが、メー子は隣に立って僕の手元を凝視してくる。


 今までひげを剃るのをまじかで見られたことなんてないから居心地悪くなり、横へずれるとメー子も一緒に横にずれる。仕方なく後ろへ下がると一緒に。前に出ればやはり一緒に前に出てくる。


「何をしてるのかなきみは」


「いいこと思いついた」


 絶対にいいことではないと自信を持った僕の意思を無視し電気シェーバーを掴む。


「何をする」


「私がひげを剃ったげる。その間に顔洗ったり、歯を磨けば時短成立」


「そんなことできるわけっ⁉ ちょっとやめっ! あぶなっ! やめてえっ~っ⁉」


 強引に電気シェーバーを奪い取ったメー子が僕の頬をぐりぐりと押してくる。逃がさないと僕の首に腕を回しホールドすると無理やりひげを剃ってくるので、僕は情けない悲鳴をあげてしまう。

 当の本人はひげを剃るのが面白いのか雑に頬の上で動かしてくる。ときどきジョリジョリと音がする程度で絶対に剃れていない、それどころか雑に動かすので眉毛、髪なんかを剃られてはいけないとメー子の腕を掴む。


「危ないからダメ」


「うー」


「準備は一人でできるからきみはあっちで待ってくれるかな」


「私も手伝いたい」


 電気シェーバーを奪い取ると不服そうなメー子が僕の前に顔を突き出してくる。顔が近いので思わずのけぞった僕にメー子がさらに近づいてくる。これ以上反ると腰がいってしまいそうで、力を入れた体を震わせる僕を見てメー子がパーッと明るい表情を見せる。


「そうだ! 歯磨きしてあげる。恵人はその間ひげを剃れば時短!」


 いいこと思いついた第二弾。といっても役割を変えただけでむちゃくちゃであり、絶対に時短にはならない提案をしてくる。そして僕の反論を聞く間もなく、僕の肩に手をかけて背後にある洗面台の歯ブラシを手に取るとそのまま僕の口を掴んで歯ブラシを掲げる。


「ほらっ、あーんして」


 歯を磨くときの顔じゃないだろって言いたくなる圧の強い笑顔で歯ブラシを掲げるメー子に、抵抗むなしく無理やり歯ブラシを突っ込まれてしまう。


「ほらほら、もっと口を大きく開けて」


「あやややひたい……」


 無理やり歯を磨かれ歯茎や頬の裏に歯ブラシが当たって痛い僕のことなど構わず、メー子は強引に磨いてくる。こんな状態でもちろんひげなど剃れるわけもなく、当然のごとく時短など成り立っていない。


 朝から女の子に無理やり歯を磨かれる謎のシチュエーション。変な(へき)に目覚めるより先に痛いのと早く支度をしないといけないが勝ってやけくそ気味にひげを剃る。ひげが薄くて良かったと思いながら乱暴なメー子の歯磨きに耐えてみせる。


 ちなみに着替えるのは必死に懇願して壁の向こうで待ってもらうという無駄な労力を使わされる。こうして散々な朝の支度を終えるのだった。

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