幽霊と朝食を
「食べるもの何かあったかな……」
中身が少なすぎて中のライトの光が明々と光る冷蔵庫を漁ると、袋に入った5個入の小さなロールパンが目に入ったので手に取る。一度開封していて残り3つしかない袋をメー子に見せる。
「こんなのしかないけど良い?」
「良い。それとこれを挟む」
はずんだ声で答えたメー子は冷蔵庫の隅にあった開封済みのチーズの袋を指さす。
「あぁ~だいぶ前に買ったやつかぁ。えーっと、賞味期限今日までだ」
「やった! 全部使える」
小さくはずんだ声で賞味期限ぎりぎりを喜ぶメー子につられてなんだか嬉しくなった僕はロールパンを手に取ると横を包丁で切っていく。
不器用にギコギコと切るロールパンはパンくずをまきながらもなんとか半分に分かれる。
包丁なんて久しぶりに使ったなんて思いながらロールパンにフィルムから取り出したチーズを贅沢に挟むと、これまた久しぶりに使うオーブントースターに並べてタイマーのダイヤルをひねる。
赤い光にあてられジリジリと音をたて焼けるロールパンと、トロリと溶けていくチーズを僕とメー子は並んで見つめる。
チンっと耳障りのよい音が響き扉を開けると、暖かい風とともにパンの焼けた風味豊かな香りに混ざった濃厚なチーズの香りが食欲を刺激してくる。
待ちきれないといった様子で体を揺らすメー子に苦笑しながら皿に置いた僕は、コーヒーを作ろうとインスタントコーヒーの瓶を手に取る。
「きみは何か飲む?」
「オレンジジュースがいい」
「いや、オレンジジュースはないなぁ」
僕の答えに不服そうに片方の頬をわずかに膨らませたメー子は少し考えるそぶりを見せる。
「じゃあホットミルク」
「ホットミルク? 牛乳を温めればいいのかな」
聞いたことはあるけど飲んだ記憶のないホットミルクという名前に戸惑いつつも調理台に置いてあったスマホを手に取り検索をする。
「鍋で温めるのがいいと……へぇ~温めると甘みが増すんだ。初めて知った」
スマホの画面にある初めての知識に僕は鍋に牛乳を注ぎ、IHコンロのスイッチを入れる。スマホに書いてある情報に沿ってホットミルクを完成させた僕はカップに注ぐ。
「恵人もホットミルク飲むんだ」
「せっかく作ったし、味が気になったから」
さり気なく僕の分まで用意しているのを見たメー子がふふんっと笑みを浮かべる。なぜか勝ち誇った笑みを横に僕は小さなガラステーブルの上にチーズを挟んだロールパンとホットミルクを並べる。
これを作ったと宣言していいかは分からないけど朝食に手間をかけたこと自体初めてだった僕は満足感を覚えてソファーに座る。
「ごはーん!」
座ると同時に飛んできたメー子が僕の膝の上に座るとチーズを挟んだロールパンを掴んでかぶりつく。
「うーーんっ、おいしっ!」
メー子が両足をパタパタとさせ喜びを体いっぱいで表現する。そのままホットミルクの入ったカップを手にして口をつけると、ゆっくりと傾ける。
「はぁ~甘くておいしい~」
一つ一つに幸せを噛み締める、そんな姿にパンを焼いて牛乳を温めただけど嬉しい気持ちになった僕もパンを口に入れ、続けてホットミルクを飲む。
「ホットミルクって意外においしいんだ……」
素直な感想が口に出ると温かなホットミルクのおかげもあり、なんだかほっこりした気持ちでメー子の方を見る。
「もぐもぐもぐ」
「あぁっ!? 二つ目食べてる!」
既に一つ目を食べ終え二つ目を口に頬張るメー子を見て僕は思わず声をあげる。もぐもぐなんて声に出しながら食べる人なんて初めて見たとツッコミを入れる間もなくメー子が先に口を開く。
「おいしかった」
満足そうな笑顔を見せるメー子を見て、ちょっぴり幸せな気持ちが芽生えた僕は文句を言うのをやめる。
「恵人、お昼ごはん何?」
「食べたそばから昼ご飯の催促かよ!」
思わず強めにツッコミを入れてしまうが、当の本人は何食わぬ顔でホットミルクを飲み干している。
「おかわり作って」
「はぁ~」
空になったカップの中を見せアピールするメー子の口元には白いミルクのヒゲができていて、それを見て怒る気が失せた僕は自分の残りのパンを口に詰め込む。
再び鍋で牛乳を温める僕は空になった牛乳パックをチラッと見る。
「お昼ご飯も考えてないし買い物に行かないと」
「お買い物! 外に出る!」
僕の足に座ったままテンション高く飛び跳ねたせいでメー子の頭と僕のあごがぶつかり、痛みで僕とメー子はそれぞれ頭とあごを押さえて悶える。
「いたぁっ……」
「いたたた」
二人で頭を押さえ涙目で目が合うとメー子がニンマリと笑みを浮かべる。
「痛い」
「それはぶつかったから当然……」
「違う。触れたから痛いの」
「あ、ああ~なるほど」
僕以外に触れられないことを思い出し納得した僕だが同時に疑問が浮かび上がる。
「でも昨日柵を越えたとき触れてなかった?」
「ううん、あの柵はずっと触れられなかった。でもあのときは匂いに引っ張られて気づいたら飛び越えれた」
「何というか……食い意地張り過ぎじゃないかな。一応幽霊なんだよね」
「そんなの知らない。でもお腹は空くのは分かる」
名言ぽく断言するメー子に苦笑しながら、この幽霊なら憑りつかれても命が尽きるみたいなことはなさそうだと自分の心配性をあざ笑うことにする。
「だからお昼ごはんを買いに行く。外行きたい!」
「あぁはいはい」
圧強めで押してくるメー子に返事をしながらふと自分の財布事情が頭をよぎる。
(今月お金どれくらい残ってたっけ……え、ちょっと待てよ。今度からもしかしてだけどこの子の分も食費がいるってこと?)
僕がメー子の方を見るとメー子はなんだ? と言わんばかりに首をわずかに傾ける。
(なんで幽霊のご飯代を僕が……別に幽霊だから食べさせなくても問題ないし……いや、でもなぁ……)
おいしそうに、そして幸せそうに食べる姿を思い出し僕は悩む。
(はぁ……うーん、節約すればなんとかなるか)
食べさせなくてもいいかもなんてことをふと思ってしまったことへの罪悪感を感じる一方で、
(幽霊に憑りつかれたらやせ細るって聞いたことあるけど、もしかしてこの子は財布直撃型で物理的に攻めるタイプなのかも……)
なんてもことも考えてしまうのである。




