モーニング幽霊
仕事をする上で一番楽しみなことは何だろうか? 給料日? 昇進? 大きなプロジェクトを任されたとき? 企画を成功させたとき? 給料日は良い線いっているが、それよりも頻度高くやってくるそれは休日に休めることだと僕は思う。
働いているからこそ休日が愛おしく、尊いものとなるのである……
「おーい、起きて」
朝早くからベッドで寝ている僕を揺らしながら声をかける存在がいなければ、今日は愛おしい休日になるはずだった。
薄目を開けてチラッと見るとメー子が僕を揺さぶって起こそうとしているのが見える。
可愛い女の子から朝起こされる。そんな夢みたいなシチュエーションが僕の元に舞い降りてきたのだ。
幽霊だけど……
相手が幽霊でなければどんなに良いだろう、なんてことを思う僕の薄目で狭い視界には浮いているメー子の姿がある。
口を尖らせ僕を揺するメー子の存在に昨日のことが夢ではなかったことを実感しながら目をつぶる。
現実逃避。そして休日に早く起きる意味がないから二度寝するのだ。遅く起きる、これだけで休日って感じが堪能できるのだ。
「お腹空いたぁ!! ごはん食べさせろーっ!」
「あいたぁーーっ⁉」
眠るため目をつぶりリラックス状態に入り無防備だった頭を、おもいっきり叩かれ驚きと痛みで僕は飛び起きる。
「いきなり叩くなって!」
「むぅー恵人が無視するから」
頬を膨らませ怒る姿が可愛いなんてことを一瞬思ってしまうが、相手は幽霊だと思い直し叩かれた頭を撫でる。
「だいたい朝になったんだから幽霊は消えるべきだよね? 活動時間は過ぎてるはず」
「消える意味が分からない。普通の人だって夜になったら消えるわけじゃないし、夜型の人が朝に消えないのと同じ」
自分よりも説得力のあるメー子の発言に僕は反論できずに黙ってしまう。
「お腹空いた。朝ごはん食べたい」
「いやいや、そもそもなんで僕のところにいるんだよ。成仏するとか、元の場所に帰るとかなんかあるだろ」
「実は恵人が寝たあと目が冴えてたから散歩しようと外に出たら途中で引っ張られてここに戻ってきた。たぶんよく分からないけど恵人から離れられない」
「恵人から離れられない」なんとも嬉しいお言葉であるが残念ながら相手は幽霊、幽霊があなたから離れられないってそれはもう……
「憑りつかれてるってことか……」
「おぉ~、そういうこと?」
疑問形で聞いてくるメー子になんて他人事なんだと呆れる一方でふと湧いてきた不安から自分の顔を探るように触れる。
「なにしてるの?」
「いや、幽霊に憑りつかれたらやせ細ってやがて命尽きて幽霊になってしまうんだろ。命を吸われて痩せてないか確認してるんだ」
「人を悪霊みたいな言い方して傷付く」
焦って答える僕の行動に不服そうに頬を膨らませたメー子が僕を指さす。
「私が離れられないのは恵人のせい。だから責任持ってご飯ちょうだい」
「拾ってきた猫を責任持って育てなさいみたいなこと言ってるけど、きみが勝手に来たわけで僕に責任はないだろう……」
「私がここにいるのは恵人のせい。だから責任はある」
指をさしたまま自信満々に言い切るメー子に僕は頭痛がして額を押さえてしまう。
「はぁ~、とりあえず何か食べようか」
これ以上の不毛な争いは疲れるだけだと折れた僕が立ち上がると、待ってましたと言わんばかりにメー子がくるりと一回転して洋室のドアに手をかけようとしてすり抜け転けそうになる。
慣れていない、どこかぎこちない動きに幽霊にも初心者なんて概念があるのだろうかと考えてしまう。
僕が見ていることに気づいたメー子はハッとした顔をして、恥ずかしかったのかすぐに口をへの字にしてふんと顔を逸らすとドアをすり抜けてしまう。
なんとも表情豊かな幽霊だと思いながら僕はドアを開けて朝食を求めてダイニングの方へと向かうことにする。




