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腹ペコ幽霊と冴えない僕は1DKで麺をすする  作者: 功野 涼し
ふわふわ浮くきみの手を僕が握るのが日常になるまでの日々

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14/15

メー子ナビはクセ強め

仕事を終えた僕はレンタル自転車を返却場所まで漕ぎ清算の手続きを終えると、そこからメー子と一緒に歩く。

一緒にと言ってもメー子は僕の肩に手をかけて浮いた状態で引っ張ってもらっているだけだ。


「楽ちん楽ちん」


ついさっき新たな移動方法を発見したメー子は僕の肩に寄りかかってご機嫌である。


「物にぶつからないように気を付けて。あと人混みのところでは手を離した方がいいと思う」


「うん、大丈夫」


本当に大丈夫かな? と不安になるが当の本人はいつも以上に浮いた足をパタパタさせ、空中を泳ぎ楽しそうにしている。


「あっ!」


「どうかした?」


突然声を出したメー子に驚いた僕の背後で、右肩から左肩に移動したメー子が指をさし肩を叩いてくる。


「あそこのパン屋さん調べたときに見たお店だ! ということは……あっちがケーキ屋さん向こうの通りに和菓子屋さんがあるはず」


日頃淡々と話すメー子だが、今は興奮しているのか大きな声ではずむように喋っている。


「食べるところばっかりじゃないか」


「でも自転車屋さんも覚えてる。だから問題ない。このパン屋さんが出てきたら二つ目の信号を右。左手にピザ屋さんがあれば合ってる。そのまままっすぐ行ってうどん屋さんから三軒隣が自転車屋さん」


「クセの強い覚え方だな……」


食べる場所を目印にして覚えているらしく、僕からすれば分かりにくいが迷わないなら問題ないのでメー子のナビに従って歩く。


メー子の言う通りお洒落なレンガ調のピザ屋が出てきて、大衆食堂っぽいうどん屋が現れる。日頃あまり通ることない街並みは新鮮で新たな発見があるものだと、幼いころの知らない道を歩くときに感じた少しわくわくする気持ちを胸にメー子の案内に従いたどり着いたのは古めかしい引き戸がひと際目を引く建物。


雑居ビルの一階にあるお店は蜘蛛の巣が張った看板に『沖自転車』と書いてなければ自転車屋だとはなかなか気づかないだろう。


壁に立てかけられている空気入れと、そこに貼ってある手書きの『空気入れ10円』の文字が外見から感じられる唯一自転車屋っぽい要素かもしれない。


「ここやってるのかな?」


両開きの引き戸にあるガラスから店内を覗くと薄暗い空間が広がっていた。ガランとしてはいるが、端っこの方にバラバラになった自転車の部品らしきものがかろうじて見える。


「奥に自転車あったよ」


「うわっ」


突然内側から出てきたメー子に話しかけられびっくりした僕は小さく悲鳴をあげてしまう。ドアから上半身だけを出して話しかけてくる姿に出会って日は浅いのに忘れそうになる、メー子が幽霊であることを改めて実感してしまった。


「えっと……ありがとう。中に人いた?」


「んーわかんない」


一番肝心なことが抜けている報告に落胆しつつも、経営しているか分からない自転車屋を尋ねるより、どこか別のところへ行った方がいいかもと思いながらもう一度中を覗く。


先ほどよりも暗い店内は自転車一つ見えない……。


そう思ったときだった目の前の扉が開き知らない人の顔が目と鼻の先に現れる。


「うわあっ⁉」


驚きのあまり思わず後ずさりしてしまった僕を怪訝そうな表情で知らないおじいさんが見ている。


「なんか用か?」


「あ、いえ。自転車を探してて……」


小柄な背丈のおじいさんは頑固そうな顔のしわを寄せて僕を見る。


「ここに自転車を探しに来た? 変わってるの」


驚いてまだ心臓がドキドキしている僕を無視しておじいさんは中へと入ってしまう。開きっぱなっしの扉を見て僕はメー子の方を見る。


「ついてこいってことかな?」


「たぶん。行ってみよう」


メー子がふわっと中へと入って行くので僕も後に続き中へ入ると同時に電気が灯される。明るくなったおかげでよく見えるようになった店内は、ガランとしていて床には油などのシミが目立つ。外から見ていたときから不安だったが、中に入ってお店をやっているのかさらに不安になってしまう。

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