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腹ペコ幽霊と冴えない僕は1DKで麺をすする  作者: 功野 涼し
ふわふわ浮くきみの手を僕が握るのが日常になるまでの日々

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優しいって呪い

 僕からチョコバーを受け取ると早速包みを破いて中身を取り出す。そのまま口へ入れようとしてふと止めて僕の方を見る。


「恵人にもあげる」


 メー子がパキッとチョコバーを割ると僕の方に手を伸ばす。


「ありがとう……ずいぶんちっちゃいけど。こういうとき普通は半分じゃないかな」


 親指ほどの大きさに割れた欠片を見て感想を言うとメー子はニッコリと笑う。


「気のせい」


「いやいや絶対気のせいじゃないよね」


「それよりも食べさせてあげる」


 僕のツッコミを無視してメー子は手に持っている欠片を僕の口へ押し込もうとぐいぐい押してくる。


「じ、自分で食べれるから」


 恥ずかしいのもあって抵抗するが、メー子が強引に押してくるので仕方なくチョコバーの欠片を口の中へ迎い入れる。しっとりしたクッキーのような食感とチョコの味が口の中に広がる。


「おいしい?」


「う、うんまあ」


「よかった」


 ニッコリ笑ったメー子は自分の持つチョコバーにかぶりつき、ほんのり赤くなった頬を押さえて体を揺さぶる。心の底から幸せそうに食べるメー子の姿を見て、なんだか僕まで嬉しくなってしまう。


 二口目を食べ同じく周囲に小さな花が咲いてそうなくらい幸せそうな表情で食べるメー子を見て、不覚にも可愛いと思ってしまった僕は慌てて目を逸らす。


 相手は僕よりかなり年下の女の子、ましては幽霊である。可愛いと思うのはいいかもしれないが、幽霊と深く関わるのはいかがなものかと自分に言い聞かせる。


 だがふと思うのは、メー子はなんとなく僕に対して距離感が近いというか、勘違いを承知したうえで言わせてもらえるなら好意的というか、そんな風に感じてしまう。


 生まれて32年、自慢じゃないが彼女がいたことはない。経験がない僕だからやっぱり勘違いかもしれない……。


 ふと昔の記憶が蘇る。


 そうあれは高校生の頃だった。友達と呼べそうなのが2、3人程度いた高校生活のなかにあって微妙に距離の近い女の子がいた。


 偶然隣の席になったとき話しかけられたのをきっかけに、たわいのない会話をするようになった。昨日のテレビの内容や漫画、親や友達の愚痴などが中心の会話を交わし一度だけ一緒にゲームセンターに遊びに行ったこともある。


 これはもう付き合っているのでは? この子絶対に僕のこと好きだよねってその時は信じて疑わなかった。舞い上がっていたのもあって一人で暴走していたのかもしれない。


 ━━渡舟くんのおかげで彼氏ができたよ!


 ある日嬉しそうに報告してくる彼女の顔を今でも鮮明に思い出せる。


 そう、僕は知らず知らずに彼女が彼氏を作る手助けをしていたのだ。「男の子って何が好きなの?」とか「手作りの料理で何が一番好き?」なんて質問は僕にではなく、愛しの人へ近づくためのデーター収集だったわけである。


 そんなことも知らずに自分の好きなものをウキウキで答えていた僕はさぞ滑稽(こっけい)だっただろう。ついでに言わせてもらえるなら、僕の数少ない友人とその子は付き合った。どこまでが計算であったかは知らないが、友人に近づき情報を収集するために僕を利用した……なんてことまで疑ってしまう。


 ━━渡舟くんって優しいよね。いいお父さんになりそう。


 なんてことを言う彼女に同調する友人。目の前にいる美男美女のお似合いのカップルが僕の話をしながらも視線はお互いを見ていて、早くこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった僕。


 これを恋愛経験と呼んでいいかは分からないが僕の青春はこれで終わる。これ以降なんとなく男女関係に踏み出せないというか、ちょっといい雰囲気になってもまあ気のせいだよなと思い過ごしてきて今に至る。


 そこまで考えて僕は最後の一口を食べて幸せそうにするメー子を見る。


 この子は幽霊であり、僕としか話すことができないし触れることができない。加えて僕に触れていないと物に触れられないし、食べたりできない。だからこんなにも近いだけでそれは好意ではない。


 そう、勘違いなんてするのはカッコ悪いしなにより相手に迷惑だ。幽霊とはいえメー子の見た目は高校生くらいの女の子。かたや30過ぎのおじさんの僕が好意を持たれているかもなんて思ったらそれは犯罪級に気持ち悪い勘違いだ。


 浮ついた気持ちを僕は心の中で引き締める。


「ねえ、なんでそんな難しい顔してるの?」


 近くでした声に驚き我に返った僕の視界いっぱいにメー子の顔が映る。


「調子悪い? あ、もしかしてチョコバー少なかったの怒ってる?」


「そんなことで怒らないって」


「良かった。恵人は優しいから怒らないって思った」


 ニコッと笑うメー子に、高校時代に言われた好きだった人の言葉が重なる。


 ━━渡舟くんって優しいから怒らないよね。一緒にいて安心するもん。


 そう、優しいなんて言葉は僕の長所じゃなくて、その人にとって都合がいいかどうか……そんなひねくれた考えがふと過ってしまう。


「やっぱり怒ってる?」


「怒ってないって。それよりも自転車屋見つけた?」


 顔を近づけてくるメー子から逃げるように顔を逸らした僕がぶっきらぼうに尋ねるとメー子は自分の胸をドンっと叩く。


「任せて! 美味しそうなお店見つけるついでに探しておいた」


 メインとサブが入れ替わっているのを恥じることなく堂々と、むしろ褒めてくれと言わんばかりに答えるメー子を見て僕は深いため息を吐いてしまう。


「うんうん、ありがとう。じゃあ帰りはそこ行ってみようか。案内をお願いするよ」


「まかせて!」


 適当にお礼を言を言ったら、さらに胸を張って自信満々な様子のメー子がなんだか可笑しくなった僕はふと笑みをこぼしてしまう。それを見たのかは分からないがメー子も笑みをこぼす。

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