僕を踏むあの子は何を検索する人ぞ
パソコンの画面と向き合う僕の横からはタブレットを操作するメー子の声が聞こえてくる。
「へぇ~、ふーん、すごい。うわぁ~これ美味しそう」
メー子は僕が頼んだ自転車屋を探してくれているのか不安になるセリフを連発する。
気になるが今日の仕事を定時内で終わらせるため仕事に集中する。
メー子はタブレットを持つ手とタッチペンを持つ手で両手がふさがるため、初めは僕に体を寄せたり背中をつけたりしていたが、しっくりこないのかベストポジションを探ること数回。結果僕の横にあるワゴンに座り僕の膝の上に両足を置くという謎ポジで落ち着いてしまった。
他の物に触れる条件としてどうやら僕と触れてさえいればどこでもいいらしく、ゆえに僕はメー子に踏まれて仕事をするという意味の分からない状況になっている。
メー子が靴を履いていないので助かった……のか?
僕はチラッとメー子の黒い靴下を履いている足に踏まれる自分の太ももを見る。
わずかに重みを感じるが一般的な人とは違い軽いと思われる。思われるというのは僕が踏まれた経験がないからである。
体温は感じられないし、重くもないから痺れたりはしないが、時々動くからくすぐったいのもあって気になる。
気になるといえばメー子の格好は今の季節である春に合ってないことはないが、どちらかといえば秋っぽい。そして外着なのに靴を履いていないのはなぜだろうか。
冷静に考え始めると気になって僕の太ももの上にある足をじっと観察する。
死んだとき靴を脱いだから……確かによくよく考えれば最初に出会ったのは柵の向こうだったからビルの上から飛び降りたと考えれば靴を履いていないのも納得できる。
だとすればメー子は自殺した子なのだろうか? 未練が残ってあそこにいて……でも見た感じそんな性格には……いやいや決めつけは良くない生前何かしら悩みがあって……。
そこまで考えたとき僕の太ももの上で足がポンポンと跳ねる。なんとなく呼ばれた気がしてメー子の方を見ると目が合う。
くいっ、くいっと自分の足を指さすメー子が口を開く。
「私の足に興味津々?」
「いっ、いや違う!」
足をじっと見ていたことがバレたことにも焦ったが、それよりもメー子の足に興味があると思われたことの方に焦ってしまう。
こんなとき経験豊富であれば上手な返しもできるんだろうけど、あいにく僕にできるわけもなくあたふたするだけである。
「ちっちっ違うから、そのなんだろ、ほら何で靴履いてないのかな~とか思って、だから靴で踏まれたら痛いんだろうなとか……」
早口で自分でも何を言っているか分からないが必死で弁解しつつも、靴を履いていないことを指摘して飛び降りたかもしれないことに触れるのは悪いなと変な気遣いをしたせいで余計に混乱してしまう。
「ふ~ん恵人は靴下で踏むと喜ぶ。覚えておく」
とんでもないことを言いながらメー子がタブレットにタッチペンを打ち付け何かを入力していく。
「何を打ったんだよ! あっ! そんなこと検索しない!」
「えー恵人が好きなこと知りたい」
タブレットの画面をのぞき込むと『足が好き』のワードで検索された結果、『脚フェチ』などのワードが羅列され挙句、怪しげなサイトへの入り口まである。慌てて消そうとする僕の頭をメー子が押さえて抵抗してくる。
「だめー、詳しく調べるの」
「調べなくていいって!」
「じゃあ恵人が教えて」
「お、教える⁉ それも断る」
「むぅー」
不満をあらわにするメー子が頬を膨らませるが、その一瞬の隙を逃さず僕は強引にタブレットを奪う。
「あぁ~ひきょうだ」
「こんなことを検索しちゃだめだから!」
僕からタブレットを奪い返そうとするメー子に背を向け検索結果を履歴ごと消去する。
「まったく、ちゃんと調べて……」
そこまで言って僕は視線を感じて後ろを振り返ると、お隣の同僚が入り口から顔をのぞかせ、冷たい視線を向けていた。
「あ、えっと……ごめん。うるさかった……よね」
「まあな……それよりも渡舟、疲れてるのか? 悩みがあるとかなら話くらい聞くけど」
「い、いやいや大丈夫だから。ちょっと、えーっと姪っ子から電話があってさ。うん、相談内容がちょっと道を外れそうな感じだったんで、ヒートアップしてつい大声出しちゃった。説教ってやつ?」
ははははと乾いた笑いで必死に言い訳をする僕を同僚は疑いの目で見るが、大きくため息をつくと手を挙げる。
「そっか、まあ無理するな。これやるから元気出せよ」
「うん……ありがと」
投げられた袋をキャッチした僕はお礼を言うと、同僚は挙げた手を振って去っていく。
「なに? なにもらったの?」
メー子は僕が一人で騒ぐ迷惑な人になっていたことよりも、同僚からもらった物が気になるらしく僕の手をぱしぱしと叩いてくる。
呆れつつも僕は握っていた手を開くと、そこにはチョコバーがあった。
「うわぁ~、それチョコ? ねっ、チョコだよね」
「あ、あぁ……うん、そうだね」
「あの人いい人だ。さっきもチョコくれたし、チョコの人だ!」
同僚はメー子からチョコの人と認識されたらしく変な名前を付けられる。僕は手に握ったチョコバーと僕をチラチラ見るメー子を見て思わず笑ってしまう。
「食べていいよ」
「やった」
僕がチョコバーを差し出すと相当嬉しいのか、手をぎゅっと握り僕の太ももの上で足をパタパタさせ全身で喜びをあらわす。




