第89話:魔獣も家族ですから
「うちの子、災害のときに……どうしたらいいんですかね。」
その“子”は、角の生えた三つ首の魔犬だった。
魔界でも近年、魔獣を伴侶とする家庭が増えてきた。 だが、災害時の避難制度は“種族対応”のみで、 大型魔獣や特殊個体は“置いて避難”が前提とされていた。
「うん、置いていけるわけないですよね?」
【魔獣災害同行避難制度】
・大型魔獣用避難所の設置(魔力封鎖フィールド・休憩区画)
・災害時における魔獣搬送車・飛行移送の整備
・伴侶魔獣の登録制度と個別健康・性格記録
・共生可能な一部魔獣の社会参加支援(介護・警備等)
「一緒に暮らしてるんです。 それだけで、もう“家族”でしょ。」
制度導入後、災害マニュアルの最初のページには、 “あなたのそばの命”という項目が追加された。
小さなスライムから大きな炎獣まで、 一体一体の命に番号ではなく“名前”が刻まれるようになった。
バレルの机の隅には、 誰かが描いた“にくきゅうスタンプ”が押されていた。
「よし、次は交通……って、また魔獣がカップに鼻突っ込んでる……。」
銃尾は、お茶を守るかのように今日も静かに眠っていた。




