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第83話:丘にて、ありがとう
「お礼に来ました。」
その日、政庁に現れたのは…… 全身ボロ布に身を包み、少し乾いた声のアンデッド集団だった。
「お礼参りではないですよ。お礼です。」
一瞬、騒然とする庁舎。
だが、アンデッドたちは争う気配もなく、 淡々と礼を述べ、バレルの前で深々と頭を下げた。
「“無名の丘”、大変、気に入りました。」
【無名の丘】
・混血魔族や名もなき民、無縁の者の共同墓地
・自然に囲まれた静かな霊域、定期的な清掃と供花
・登録者の一部が“訪問霊”として短時間だけ実体化を許可される制度
「静かで、誰も追い出さない。……あそこに骨を置いても、安心できるんです。」
アンデッドたちは、そこに眠る友や家族に会いに来るのだという。
暴れることもなく、ただ、風のように語り、笑い、帰っていく。
「俺たちのことを、ちゃんと“いた”って扱ってくれてありがとう。」
その言葉に、バレルは目を細めて笑った。
「あなたたちが“いた”ことが、この国の強さです。」
その夜、無名の丘にはふわりと花が供えられていた。
銃尾は、彼らに向けてではなく、空に向けてそっと掲げられた。
「また、いつでも遊びに来てください。」




