第7話:法のあとに残るもの
教育平等法案が可決された直後、議場には妙な空気が漂っていた。
「……通ったな、あの法案。」
「バレルという男、本物かもしれん。」
保守派の一部、改革派の数人、そして魔導紙の読者たち。
次第に、バレルの実力は“疑い”から“認識”へと変わっていた。
だが、変化は常に軋轢を伴う。
法案の成立を受けて、町では混血と純血の子どもたちを同じ学び舎に通わせる動きが始まった。
そして案の定、問題は起きた。
「教室で喧嘩が絶えません!」
「親同士が揉めて、登校を拒否する家庭も……!」
町役場に駆け込む報告と苦情。
「バレル様、やはり急ぎ過ぎでは……。」
「法は成立した。でも“心”まではすぐには動かせない。」
バレルは静かに立ち上がった。
―――
それから数日間、彼は役人や教育者たちと共に町を巡回した。
混血の子に殴られて泣く純血の少年。給食を拒否する少女。互いを見下す視線。
一つ一つを丁寧に解いていく。
「痛かったな。でも、理由を聞いてみないか?」
「一緒に遊ぶのが怖いなら、まず“遊び方”を覚えよう」
説得し、仲裁し、遊びを教え、手紙を書かせた。
ときに尾を銃に変えて威嚇しながら、ときに笑顔で手を差し伸べながら。
バレルは“法”の次に、“実践”を選んだ。
―――
一方、議場では冷ややかな声も聞こえ始めていた。
「バレルが民と遊んでいるらしい。」
「政治家が“町のお悩み相談”に明け暮れてどうする。」
だが、魔王はその報告に目を細めて呟いた。
「それが、彼の“政治”なのだよ。」
シェイランも、あの飄々とした調子で言った。
「足元を見ない政治家が、空を語っても誰も見上げんよ。」
こうしてバレルは、法の影にできたひずみを、一つずつ手でなぞるように正していった。
それは地味で、時間のかかる作業。
だが確かに、町には新しい風が吹いていた。




