第58話:まだ、尾は折れていない
弟子たちは育っていた。
政策提案の討論を交わし、市民と向き合い、嘆願書を束ねる。
「この水源管理計画、実現性あります。」
「教育改革案、現場の声を反映して練り直しました。」
どれも、バレルが手取り足取り教えたわけではない。
ただ、彼の背を見て、声を聞き、歩んできた者たちの手で生まれたものだった。
バレルは、政庁のバルコニーで遠くの町並みを眺めながら、静かに呟いた。
「……もう俺、いなくても回るんじゃないかな。」
その呟きは、尾に宿る銃と共に、どこか黄昏の響きを持っていた。
「引退、考えてみるか……。」
――その瞬間、ドアが吹き飛ぶ勢いで開いた。
「やめろォォォォォ!!!!!」
カルミラを先頭に、師匠、補佐官、秘書、そして弟子たちがなだれ込む。
「早い! まだ早すぎる!」
「誰があなたの後を継ぐって?」
「俺たちの精神的被害はどうするんですか!」
「まだ銃尾の手ほどき受けてないんですけど!?」
「退職金制度の話すら聞いてません!」
バレルはタジタジになりながら、笑った。
「……いや、ちょっと“卒業”っぽい空気に感傷を……。」
「空気に酔ってんじゃねぇ!!!!」
「……はい。ごめんなさい?」
その日、バレルは、 “まだまだ必要とされていること”を、嫌というほど叩き込まれた。
尾を巻くには、もう少し先のようだ。




