第3話:風の使者、議場に立つ
中央政庁――魔界全域を統べる政治の中枢。
その巨大な黒水晶の塔の内部は、魔力の濃度が高すぎて普通の者では息苦しい。
だが、バレルは平然と歩く。
「……子供じゃないか。」
「混血だろ、あれ……。」
囁きが左右から漏れる。議員たちの視線は冷ややかだ。
「初登庁の儀として、力を見せてもらおうか。」
と、突然声が響く。名乗るまでもなく、魔界軍筆頭将軍ザルギオス。
長身の魔族で、六本腕に黒鋼の鎧を纏っている。彼の魔力は濃く、議場の床すら軋んでいた。
「“口だけ”の政治家など不要だ。ここは力が支配する場。君も、それを知っているだろう?」
「もちろん。」
バレルは一歩前に出て、尾を銃に変える。
「だから撃つ前に確認する。あなたは私に実弾を撃たせるほどの敵意を持っていますか?」
沈黙。
議場に笑いが起きた。ザルギオスも、ゆっくりと腕を下ろす。
「よかろう。……冗談の通じる小僧だ。」
―――
初の議題は、辺境地帯の資源配分。
「純血領の鉱石不足が報告されている。隣接する混血町イル=リオより供給を求める。」
バレルは立ち上がる。
「供給自体は拒まない。だが、何の見返りもなく資源を“吸い上げる”のは、略奪と変わらない。」
「なに?貴様、王命に逆らう気か!」
「逆らいません。ただ、誠意ある交渉を求めているだけです。」
議場がざわつく。
「我が町は混血の寄せ集めです。貴族の伝統も、古き血筋もありません。だがその分、互いを信じる契約と知恵で成り立っている。誠実な取引こそ、魔界全体の利益になるはずです。」
沈黙。
やがて、魔王がゆっくりと頷いた。
「バレル。君の言う通りだ。交易条件を再考せよ。」
ザルギオスも渋々ながらうなずく。
「口だけ、ではないようだな……。」
その日、議場に新たな風が吹いた。
バレルは、力ではなく論理で、初の“議決”を勝ち取ったのである。




