第2話:魔王襲撃事件と、政界の扉
襲撃の夜から一夜明けても、町の空気は緊張に包まれていた。
だが、バレルは普段通りの朝食をとり、使用人たちに笑顔を見せていた。
「町の人々には知らせるな。恐怖は秩序を壊す。今必要なのは“安心”だ。」
その静かな言葉が、何より町に効いた。
刺客の残党はすぐに捕縛された。
町の警邏隊に混じっていた者、商人に扮していた者、そして屋敷の給仕の一人――
だが、主犯は別にいた。
「お前が首謀者か、ギルダロス。」
町の古参貴族の一人、純血派の代表格。
かつてはイル=リオの軍事を任されていた男だった。
「我らが守るべきは魔界の血統だ!混血などに我らの未来を任せてはならぬ!」
「ならばお前の未来は、牢の中で語れ。」
バレルの尾が銃へと変わり、ギルダロスの膝を的確に撃ち抜いた。
「これは“言葉”の重みを知らぬ者への、教育だ。」
―――
その日の夕刻、魔王は屋敷にバレルを呼び寄せた。
「バレル。君は、まだ五歳だというのに……冷静で、聡明で、そして非常に物騒だ。」
「褒め言葉として受け取ります。」
二人の間に置かれた魔茶からは、ふんわりと甘い香りが立ち上る。
「しかし、あれだけの刺客を一人で制圧し、さらに首謀者まで突き止めた手際。尋常ではないな。」
「魔界では、“尋常”では政治を動かせませんから。」
魔王はくつくつと笑い、杯を手にした。
「バレル。君に政界入りを打診したい。」
バレルの手がぴたりと止まる。
「私が、中央へ?」
「うむ。君のような者が必要だ。血でも力でもなく、“語る力”を持った魔族を、魔界は渇望している。」
「それは……お言葉としてはありがたいですが、政治は“選ばれし者”ではなく、“選び続ける者”の道。私はまだ、町を見捨てるつもりはありません。」
「ふむ、真面目だな。では、こうしよう。中央会議に“外部顧問”として参加しないか?町長と兼任でいい。」
「……外部顧問、という名の、お目付け役ですか?」
「否。政界の“風”になってほしいのだ。君のような異質な風が、魔界の澱んだ空気を動かすと、私は信じている。」
バレルは少しだけ笑って、杯を掲げた。
「それならば、少しだけ“風通し”を良くしてみましょう。」
こうして、混血の町長・バレルは、魔界の中央政界へと足を踏み入れることとなった。
その風が嵐となるのは、まだ少し先の話である。




