第15話:動かざること、銃の如し
魔王会議の開会前日――
護衛選抜武道会の第一試合、バレルは砂の競技場に立っていた。
対戦相手は、六魔国の一角“シュラ=ガズ”の代表である戦斧使い、グルード・バウアー。
筋肉に魔力を通すことで爆発的な速度と破壊力を生む戦士であり、三連覇中の王者だった。
「混血風情が、俺の斧に耐えられるか!」
「その台詞、言わなきゃよかったって思わないように。」
バレルの尾が、銃へと変化する。
一瞬後、発砲音。
次の瞬間には、グルードの斧が砕け、膝が地をついていた。
「撃ったのは、足元の地面。斧はその衝撃で割れただけです。手は出してませんよ?」
実況席が騒然とする中、バレルはひとつも動いていない。
「……勝ち、ですかね?」
観客席から歓声が上がるが、バレルはわずかに表情を曇らせた。
「ちょっとだけ、姿勢を崩した……。」
「え?」
「いや、少し。ほんの一歩。靴のかかとが砂に埋もれたから、それを直すのに……。」
それは観客にも、対戦相手にもまったく分からないほど微細な“動き”だった。
だがバレルにとって、それは“自分の立場を崩された”ことに等しい。
「やり直し……できませんよね。」
シェイランが呆れた顔で呟いた。
「また面倒な性格じゃな。勝って文句言う奴は初めてじゃぞ。」
「……完璧じゃないと、意味ないんですよ。」
そんなバレルの姿は、魔界各国の使者たちに「異様な威圧」として強く印象づけられるのだった。




