第10話:風を背に立つ者
混血に対する制度的な壁は次第に崩れつつあったが、民衆の“視線”は変わりきってはいなかった。
「混血の町長だってさ。」
「見ろよ、尻尾が動いてる……気味悪い。」
市場を歩けば、そんな言葉が耳に届く。
笑顔の裏で舌を鳴らす商人。肩を引く衛兵。無視する通行人。
バレルはその全てを、正面から受け止めていた。
「変化は法じゃ作れない。目で見せるしかない。」
そう言って、町の問題解決に自ら出向き、手を動かし、語りかける。
医療施設の建て替え、浄水路の整備、魔力訓練学校のカリキュラム改正。
どれも派手ではないが、確実に民に届く成果だった。
そしてついに――強硬派が動いた。
深夜、役所の倉庫が燃やされた。
魔導紙には“改革派が自演した”という記事が掲載され、陰謀論がネット状に拡散した。
だが、すぐにバレルが記者会見を開く。
「倉庫の魔導封印は“内側から”破られています。これは明らかに内部犯行。」
尾の銃口が、記者席の一点を指す。
「あなた、元軍情報局の副官ですね?」
観客がざわつく中、告発は瞬時に話題となり、混血派の自作自演説は一気に鎮火した。
「脅しも、風刺も、陰謀も――すべて実力で跳ね返せばいい。」
バレルの目は、冷静に、そして静かに燃えていた。
「この魔界に、混血が“ただ存在するだけ”ではなく、“誇りを持って生きられる”場所を作る。それが、俺の仕事だ。」
そしてこの一件をきっかけに、ようやく彼を“名前で呼ぶ者”が増えていった。
バレル。
その名が、風のように、社会の隅々へと浸透していくのだった。




