第1話:赤ん坊町長、泣いて笑って初仕事!
気がつけば、そこは真っ赤な天井だった。
いや、天井というより、膜のような何か。ぬめりとした空気、遠くで鳴く獣の声。最初に思ったのは、「どこだここ?」ではなく、「まさか転生か……」だった。
だって視界が低すぎる。何を見ても巨大に感じるし、口を開けば「うぶぁー!」しか出てこない。
察しがいいのが唯一の取り柄。転生者特典らしい知性は残っている。つまり、俺は今、赤ん坊なのだ。しかも、明らかに人間じゃない。
毛皮の使用人たちが「ご無事で!ご無事で!」と泣きながら俺を抱いているし、鏡を見せられれば、真っ白な肌に黒目がちな赤い瞳、そして……。
「……しっぽ?え、しっぽが……ある。」
ぶん、と勝手に動いたそれは、なぜか感覚がある。尾の先が妙に重く、心のどこかで「これは武器になる」と確信した。
そしてそれは、日を追うごとに明確になる。
俺の尾は、銃になる。
正確に言えば、尾の先端を意識すれば銃身に変化し、魔力を込めることで実弾が発射される。
なんで?という疑問は後回しにした。
なぜなら、俺はこの世界で混血種ばかりの町――イル=リオを治める若き貴族に転生していたからだ。
俺の名前はバレル。
―――
5歳になった頃には、すっかり町の顔になっていた。
「町長様、おはようございます!」
「見てください、うちの子、しっぽが三つに分かれましたの!」
あいさつの応酬、突飛な身体構造の報告、日常茶飯事。
だが、問題はあった。
純血魔族の子供と混血の子供たちの小競り合いが、絶えないのだ。
「この広場は純血様のものだぞ!」
「ちがうもん!ここ、みんなで使ってたもん!」
今日も、町の中央広場で喧嘩の声が響いた。俺は腰に手を当ててため息をついた。
「やれやれ……またか。」
足音を立てずに近づき、子供たちの間に入る。全員がピタリと動きを止めた。俺の尾がふわりと揺れる。
「どうした?争いは無益だぞ?」
「だ、だって、混血なんて、魔族じゃないし……。」
「それ、議場で発言するなら怒号ものだぞ。」
と、俺は言いつつも尾をぐるんと回し、先端を銃に変化させた。
カシャンッという音。
ちょっとした緊張が、子供たちの背筋をピンと伸ばす。
「撃つつもりはない。けど、聞こう。お前たち、本当にこれで解決したいか?」
「……いや。」
「じゃあ、代わりに演説で勝負しよう。3分間で、どちらが正しいか語るんだ。異議がある方は手を挙げろ。挙がらなければ、勝者を決めよう。」
ぽかんとする子供たち。
それでも、俺の尾が銃である限り、暴れる気にはならないらしい。
「……いいの?ほんとに、言葉で決めていいの?」
「言葉が通じる相手には、言葉が最強の武器だよ。」
そうして始まった子供たちのミニ演説バトル。
やや口下手な混血側が善戦し、純血側も「遊び場はみんなのもの」と譲歩して拍手が起きた。
子供たちにしてみれば、ただの遊びかもしれない。
でも、俺にとっては、立派な“政治の場”だった。
―――
数日後、屋敷に一報が届いた。
『魔王陛下が直々にイル=リオ視察をご希望とのこと』
その瞬間、使用人たちが総立ちになり、町全体が浮き足立った。
だが、俺は即座に気配を察した。「これ、襲撃くるな」と。
そして予感は的中する。
魔王の一行が町に入ったその夜、広場を囲むように忍び寄る黒い影。
「刺客か……タイミングが良すぎる。」
俺は屋根の上からそれを見下ろし、尾を銃に変形させた。
刺客は五人、全員フードで顔を隠し、魔力の刃を手にしていた。
「狙いは魔王か、俺か……いや、両方か。」
瞬間、銃声が闇を裂く。
一発、二発、そして三発。
撃ち抜かれた刺客が呻き声を上げて倒れると、残りの者たちは魔力障壁を展開して反撃を始めた。
だが、こちらも準備はできている。
「市民には手を出すなよ?俺だけで充分だ。」
尾の銃が魔力を吸い込み、赤く脈打つ。
「――応戦する。」
轟音と共に光の奔流が闇を貫いた。
翌朝、魔王は言った。
「バレル、私は君に期待している。血筋でも、力でもなく――言葉を武器とする者に。」
バレル・イル=リオ、5歳。
町長として、初めて“命を狙われた”日の出来事である。




