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VOODOO  作者: 路輪一人
Could this be
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Leakage 2

【ミナ・クレーバーは薬物の詳細を知る。危険な潜入調査が始まる。】


オキシフィン、呟きながらミナはノートにメモを取る。


「本来、オキシフィンは……、麻酔、鎮痛剤だ。安価で効き目が強い。鎮静効果はモルヒネの数十倍。製薬会社は適切な使用を行えば依存性は薄い、と説明していたが違った。オキシフィンはモルヒネと同様かそれ以上の依存性を持つ。だが数年前に規制された筈だったんだ、知ってるだろ、記者なら。ファーマ事件。貧民地区を中心にした薬物汚染だ、貧民地区の死亡原因がモンスター被害を上回ったあれだ」


 メモの端に、ファーマ事件と書き記した。数年前に起こった巨大な製薬会社が起こした健康被害事件だ。オキシフィンの過剰摂取で死亡した人々の遺族会と、巨大製薬会社の裁判劇はワールドクロックの紙面を賑わせた。高裁でファーマ側に全面敗訴が告げられ、今現在も莫大な補償金が遺族に支払われている。


「二ヶ月前だ。ある検体が到着した。ゾンビ化した奴の事を俺達は検体と呼んでる。もう助からないからな。大体のゾンビはマナ的処置を施して抗ウィルス薬を投与すると死亡する。ああ、説明が難しいな。もう死んでるんだが、ゾンビとしても動かなくなる。で、俺達はその遺体を切り刻んで、何処で発生したか、ウィルスは何かを特定して、発生地域の殺菌消毒をギルドへと下すんだが、見つからないんだ。ゾンビ化の原因が。代わりに細胞を侵食していたのが高濃度のオキシフィンだった。オキシフィンの致死量は20mg。そいつの体内濃度は3g相当——致死量の150倍だ。当然肉体は耐えられない、だがマナ的処置も施されておらず、ウィルスも見つからない。にも関わらず、その死体は動いてる。現場は混乱した、初めての事だったからな。戸惑いながらも上司に報告したら、焼却炉に放り込め、とさ。プロトコルCCI-NTB-14は保存・再検が原則だ。紙を奪われた」


 Mの字の額に汗を浮かべた男がその輝く頭を撫であげるついでに汗を拭いた。彼の様を見ながらミナは目を細める。沸々とした正義感が腹の奥に怒りとなって吹き上がるのを感じる。同時に使命を感じる。彼女は無表情に自分を覆い隠している。本当は叫び出したかった、これだ!見つけた!上がりそうになる口角を押し留めるけれども、目の色は隠せない。爛々と輝き始めた歓喜を持ってミナの体が前に出る。


「それから」


 ミナの浮かされた様な声に気がついて、今度は男が渋い顔になった。それでも彼はこれを語らなければならない。なるべく多くの人に彼はこれを伝える必要がある。何かから逃げる様顔を逸らした男は続けた。


「……特例だと思ってたさ。原因はわからないが、マナの完全消滅や捕獲された直後にウィルスが消えてしまう、あるわけないが、特例ならまだ、そう考えてた。だが、その後も同じゾンビが次々に運び込まれている。今日の検体もそうだった」


 彼の目が暗くなった。足元を見ながら彼は続ける。


「……汚ねえ死体だった……。腕の肉が腐り落ちて真っ赤な組織から膿が出てる。酷い匂いがして、ウジが口からこぼれ落ちる。でもやつは笑ってる。幸せそうにな。脳の機能は崩壊してる、神経も捩じ切れてる。服はボロボロ、服装から見るに、炭鉱労働者だ。そいつを押さえつけて、まず腕と顎を落とす。それから全身を徐々に切り落とす。無力化した後でも骨の見えてる腕は飛び跳ねるし、足先は動いて腐った肉を辺りにばら撒く。……そんなゴミが例外なく持ってた薬物がこいつだ」


 彼の労働者然とした衣類のポケットからパッケージされた何かが取り出された。テーブルの上に置かれたのは白い錠剤が三粒、そしてその錠剤の背景の様に一枚のチケットが収まっている。酸化した血の色がこびりついたそのチケットには『G・V』の文字が金色で刻印されていた。


「……G・V……?」


 それに触れたミナは先ずチケットの文字を読んだ。それ以外に表記はなく、それ以外に説明もない。


「噂だ」


 男は身を乗り出して、薬とチケットを眺めるミナに顔を近づけた。


「確証はない。噂話だ。今貧民街で流行しているのがこの薬物。VOODOOって薬物だ。凄まじい多幸感、鎮静効果、そして強力な依存性。検体の遺品は全て提出する事になってるが、今日の奴からくすねてきた。あんたに預ける」


 顔を上げて男を見た。ギラギラと光る目だ。きっとそれは悲しみだ、とミナは理解した。ワールドクロックもセンチネルも、それを報道すらしていない。悲しみに暮れ、薬物で痛みを紛らわす貧しい人々の切なる声はきっとランドマリーの摩天楼には響かないのだ。ならば、とミナはその薬物を手の中に収める。


「……一錠だけ、マウス実験に使った。微量な粉を吸い込んだ瞬間マウスは陶酔し、動かなくなる。三日後、死後硬直した体を引き摺りながら、離脱症状に似た行動を取り始めた。無力化したマウスから取り出された細胞には、同じ様に致死量のオキシフィンと、異常な量のエンドルフィンが検出された」


 頷きながらミナは彼に言う。


「……他の媒体には話してる?」


 顔の中心に皺を集めて彼は頭を横に振る。オーケー、と答えたミナは席を立った。カバンの中にVOODOOをしまうついでに、カバンの奥に仕込んでいたレコーダー、貧者の眼を停止した。


「情報ありがとう。最後に一つ教えて。VOODOOはどこで買える?」


挿絵(By みてみん)

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