表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VOODOO  作者: 路輪一人
Stigma
28/40

Whiskeys 2

【笑いの絶えない殺伐としたギルド内。仲間との会話と調査資料。そこでブレンダンは使命を知る】

 アンセルの自宅を出たのが21時過ぎだ。

 冷えた空気が足元から登ってきてブレンダンは思わず肩を竦めてマスクから白い息を吐き出した。皮のコートを抱え込んで、アデン城へと歩き始める。アデン城は城というよりは館に近い。かつてその場所に建っていたアデン城は古典様式の粋を極めた美しい城砦だった。だがクーデターを起こし自らの父と母を処刑したカイザードは、幼少期を過ごしたその城すら遺物として残す事を拒否した。城砦は取り壊され、代わりに建てられたのがジョージアン様式の建物だ。一見すると役所のようにしか見えない。そしてまたその場所は確かに、この国で暮らす一万人に満たない人々の役所として機能する。レンガの赤と屋根板の黒は秩序立った安心感を見るものに与えた。小高い丘の上に建つアデン城の正面から後ろを振り返ると、巨大なオベリスクが屹立している。そこから展開されているのはドームだ。国全体を覆い、飛行型モンスターの侵入を阻み、災害を緩和する先進的防御を、この国は備えているのである。


 アデン城は基本的に24時間開放されている。役所としての機能は17時で終わるが、その後この城はギルド「地下世界」の拠点へと変貌するのだ。


 豪奢な玄関扉を押し開けると、巨大な玄関ホールが現れる。床にギルドの紋章である、三日月とその中央に輝く星の紋章、それがモザイク画としてブレンダンを出迎える。正面には木造の半円カウンターが設置してある。カイザードの身辺の世話をする、『侍祠しじ』長であるエルマリエの姿はなかった。CLOSEDと書かれた札がぶら下がっている。半円のカウンターを通り過ぎた奥の部屋が役所になるが、既に施錠されていた。


 ブレンダンは、左側の両階段の手すりを取った。カーペットの心地よいこの階段を登り切った正面にカイザードの執務室、謁見の場があり、階下から眺められる左の廊下の突き当たりに、ギルド「地下世界」の集会所がある。地下世界の財務担当、そしてこの国の国庫を預かるクレア・レヴァンスの執務室だ。


 三日月と中央に星の刻印が入った紋章がドアノッカー、自身のマスクにも刻印されているその紋章をブレンダンはノックして告げた。


「入るぞ、クレア」


 扉を開けると、正面に重厚な書斎机がある。左右には各種依頼のメモが貼られてあり、背後には大量の書類が収まっている。その書斎机の主であるクレア、詐欺師であり、かつて金融詐欺で世界恐慌を引き起こしかけた男が、スプリングの効いたデスクチェアに座って顔を覆ったまま、ゆっくりと回転していた。発言せずブレンダンは察した。何かあったな。背後から声が掛かる。


「10分これだぞ。俺帰って寝てえんだけど。寝てねえんだよ、時差ボケも酷いしさ」


 待機所も兼用しているこの執務室の右のソファに体を投げ出していたのは、ニーア・アトラス。金髪碧眼の絶世の美少年ながら非常に口が悪い。


「任務帰りか?」


 ブレンダンが問うと、18歳の彼の少年らしさが顔を出した。


「うん。マジでさっき帰ってきた。ゴースト討伐やってたんだけど、基本夜じゃん。早く換金してえんだよ。俺もうここで寝るぞ」


 そりゃ大変だった、とブレンダンが首を傾げたら、今度は右のソファから声が掛かった。バロン・クラウドだ。


「お前、祝福できねえじゃん。どうやってゴースト倒すんだよ」


 長い足を組んで、無遠慮にタバコを咥えたバロンが、ブレンダンを通り越してニーアに聞いた。憮然とした顔のまま、プラチナブロンドが不機嫌に揺れて、黒い男を見返した。


「ウィル・オー・ウィスプ、あれゴーストにぶつけると対消滅するぞ。で、ウィスプは数も多いし、あいつら電荷持ってるから俺、操れんだよ」


 え、マジィ?!とバロンが高い声をあげる。けれどもクレアは顔を覆ったまま、二回目の自転に入っていった。待つ他ないな、と判断して、ブレンダンの声がバロンに掛かる。


「お前も任務か?新婚だろう。ローズと一緒にいろよ」


 ブレンダンにそう呼びかけられたバロンが、肩を竦めて返した。


「いや、俺だって子作りしてえよ。急かされてんだ。というか、調査資料持ってきたんだが、俺が来た時にはもうああなってた」


 とバロンがクレアを指差す。190に届く長身、発達した肩と腕、そして胸筋。それをスーツに押し込んだ金髪の美丈夫が、顔を覆ったまま自転している。いささか恐ろしい光景だ。そろそろ来るかな、とブレンダンは予想した。事務処理の苦痛を自分は知り得ないけれど、クレアの態度が全てを物語ってくれる。恐らく、苦役なのだろう。


「フアアアアアアアック!!!」


 ドスの効いた絶叫がクレアの口から飛び出した。暴発に近かった。デスクチェアを吹き飛ばしながら立ったクレアは、全身の筋肉を引き攣らせながら、今度はその金髪を掻きむしった。だが、それを見聞きしているのは地下世界の構成員だ。全てが当たり前の日常だった。事もなげに、ニーアが放言する。


「うるせーぞ、ゴリ。時間考えろ」


「黙れチビ、俺が叫んだ時が昼だ」


 ニーアとクレアは舌打ちして互いを見た。馬鹿馬鹿しい言い争いの気配を感じたから、ブレンダンが間に入る。


「何があったんだ」


 テーブルを一度強く叩いた後、クレアは絶望を発散する。


「何があった?!何があったか聞いたか?!すげえぞ、驚くなよ!任務に向かわせたサジがな!迷子になった挙句、護衛対象から救出された!捜索費用と保険で500万ゴールド支払わなきゃいけねえ!なんなんだ!あいつは!一体何ならできるんだ!」


 聞いた瞬間、バロンは足と腹を抱えて笑い出した。不機嫌だったニーアも呆れ笑いを始め、ブレンダンは失礼だからとこらえていた笑いをとうとう吹き出してしまった。


「もうさあ、あいつペアで行動させろよ。知能全部筋肉になってんだからさあ」


 呆れ返ったニーアが言うと、バロンが答える。


「あいつのペアできるやついねえだろ!それこそメルギルぐらいだけど、メル爆笑してんだろ?」


 疲れ切った顔でチェアに腰掛けたクレアがバロンを見ながら、頷いた。


「………メルに言ったら、転げ回って笑ってたよ。その上、暫くそのままでいさせろ、もっと面白い事になる!つってた」


「終わってんな」


 と呟いた自分にまた受けてしまったバロンが腹を震わせて引き笑いをする。


「………帳簿を修正しなきゃならねえ……。ニーア!とりあえず換金だ……、バロンは資料を置いとけ。ブレンダンは少し待っててくれ……」


 疲れ切った声でクレアは彼らに告げる。ソファから起き上がって、クレアのそばに歩を進めたニーアが依頼分の金銭を受け取った。疲れ切ったクレアの様子に同情心を覚えたのだろう、ニーアがクレアに声をかける。


「帳簿は自動書記にしてあるから、損失分入力すれば即座に計算できるぞ。マクロ組んでるって言ったろ?俺」


 ニーアの申し出をクレアは目を丸くしたまま受けている。暴力性を秘めた美しい顔にコケティッシュな冗談を乗せて、口元を動かした。発したのは曖昧な「お、おぉ」という一言だけ。察したニーアが今度は怒りで声を張り上げた。


「わかってねえんなら聞けよ!面倒くせぇ老害がよぉ!」


 正面で始まったじゃれあいの様な言い合いを眺めていたら、背後から肩を叩かれた。バロンだ。


「もう渡しとくぜ。俺が受けてもいいつったんだが、カイザードがお前を指名したらしい。VOODOOって薬物に関しての調査資料だ。お前ならイージーだろう」


 眉を上げて、茶封筒を開いた。背中でバロンが、お疲れー、と言いながら扉を閉めた。前方では、クレアが表に出ろこのチビ、ぶっ殺してやる、と凄み、それを受けたニーアがおお、こいや、てめえの裸踊り全世界に公開してやる、と喚いている。それらをBGMにして、ブレンダンは資料を読んだ。資料の中に知った名前を見つけた。


 互いの胸ぐらを掴み合っている元気な二人に声をかける。


「クレア」


 機を外されたクレアがブレンダンを見た。


「この任務受けよう。俺が行くべきであり、行かなきゃならない任務だ」


挿絵(By みてみん)

次回、潜入。面白ければ評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ