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VOODOO  作者: 路輪一人
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22/40

Told you 2

【トニーとの密談により、アレックスは決断をする】

 男達の密談は続く。


「VOODOO自体、オキシフィンを元にした合成麻薬だ。だが何処で精製されているかわからない。憲兵隊でも調査をすすめているが、大元が特定できなくてな」


「サカスーマで作られてるんじゃないのか」


「サカスーマの反社会ギルドがナルコスとして販売はしている。だが精製場所が特定できないんだ。サカスーマ政府との兼ね合いもある。俺たちじゃ手が出ない。手が出せないと言えば、フラッフィーマンションもそうなんだ。管轄が違う」


「その上、ギルド組合も買収済みか」


「一部だな。恐らく手が回っていないギルドをこの記者は選んだんだろう。だが多くはない。犠牲者が多くなればギルドも人員の派遣を渋る。フラッフィーマンションは密室として保護される」


「そこから生まれたゾンビに食い荒らされるのは一般市民だ。公僕として看過はできん」


「お前のそういうところをエリザベスは利用してるんだろうよ。簡単に言えば無理難題だ。失敗すればお前の評価は落ちる。成功すればフェニスの影響力を削げる。自分の懐に入る黒い金の額も大きくなる」


 クソっとFワードを吐き出して、アレックスは腕を組んだ。空を見上げ、苛立ちながらも思考する。薬物教育を施し啓蒙するか?啓蒙で飯が食えれば苦労はない。要は貧困、様々な種類の貧困が原因だ。教育による全体の底上げには時間がかかる。その間に何人が犠牲になる?上流の人間には危機感がないとアレックスは時々感じる。もし自分が銃を突きつけられ、今まさにトリガーを引かれる瞬間、奴らは言うのだろうか。教育が必要だ、と。

 そこまで考えてふと思いついた。それはこの場にいない、ある一人の男を思い出したからであった。


「………フェニスと拮抗できる暴力を持った何かが必要だ……」


 彼らは常に一緒だった。政治家の上流家系であるアレックス・フィッツ。そして軍事や憲兵隊の長を生み出しているエンデバー家に生まれたトニー。もう一人、彼らには生涯の友と呼ぶに相応しい男が居る。小学校から名門ロックウッド大学まで人生を共有した竹馬の友。


「……二年前、フェニスは軍事侵攻を行ったな……」


 呟くアレックスを見てトニーも同じ結論に辿り着いた。三人は常に一緒だったのだ。病んだ時も喜びも分け合ってきた。だが彼は今このランドマリーには存在しない。彼が存在しているのは社会の闇。軍需企業クラウディア社の御曹司である、バロン・クラウドはあるギルドに所属していると言う。そのギルドは関わった全てを破壊する。嵐が破壊する対象を選ばないように。


「………外患誘致だぞ」


 トニーの低い声が響いた。二年前、フェニスはある砂漠の国に軍事侵攻を行った。コヌヒーと呼ばれる国で採取できるブラックオイルを取り合う利権戦争。そこでフェニスは大敗したのである。STORM(災禍)と別称される世界最高峰の軍事力を持つ、小さなギルドに。


 トニーの指摘がアレックスにのし掛かる。外患誘致だ、確かにそうだ。国のシステムを破壊する何かを自分は自国に呼び込もうとしている。だが、だからと言ってフェニスの独裁を許していい理由にはならない。

 二人の間に沈黙がある。その沈黙の間にアレックスの決心と覚悟は決まっていて、トニーは苦渋のままアレックスの決断を受け入れた。言葉などなくてもお互いの心中は理解できる。それだけ多くの時間を二人は共有している。


「………やめろと言っても聞かんだろうな」


 トニーが諦めたように笑いながら呟いた。溶けた氷が返事のように、バレンタインの白い液体をかき混ぜながら鳴らした。


「……あとひと押しだぞ。気が変わるかもしれん」


 アレックスが全く彼らしかったので、トニーは吹き出した。トニーが笑ったので、アレックスも笑顔になる。だが、目の色が先ほどとは全く違う。


「急に呼び出してすまなかったな。話は終わりだ」


 頭を振りながらトニーが答えた。


「いや、久々にお前と会えた。それだけでいいよ。ただ、一言言わせてくれ、危ない橋を渡ってくれるな、アレックス。言ったろ、俺たちはもう若くないんだ。お前にも俺にも家族がいる。守らなきゃな」


「学生時代、陰謀論に騙されて本を全部売っぱらったやつが一番まともとはな。人生は皮肉に満ちてる」


 笑いながらバレンタインを口に含んだトニーがふと真顔になってアレックスに言った。


「陰謀論といえばな、このミナって記者に情報提供をしたとされるCCIの職員。先日遺体で見つかった」


 ◇◇◇


 時刻は22時を回っていた。二人で店を出て、トニーは自家用車で、アレックスは徒歩での帰宅を選択した。トニーは執拗に家まで送ると申し出た。アレックスの身の安全を考慮してだろう。


「心配するな。俺とお前がこうやって会っている事を恐らくフェニスは直ぐに知るだろう。それはそのままエリザベスに伝わる。その状態で俺が死ねばそれこそ問題だ。それぐらいの頭はあるだろうさ」


 トニーはなんとも言えない表情でアレックスの背中を見送ったが、既にアレックスは思考を始めていた。静かで清潔で安全が保障されたランドマリーの中央区だ。歩道には暗さを意識させない頻度で街灯が設置されている。そしてその街頭の全てに備え付けられている鉱石。時間を記録し続ける鉱石は効率のいい防犯となる。中央区の静かな夜の街並みが段々と彼を思考の底に落とし込んでいく。


 STORMと連絡を取る、正式に依頼をする。これは外患誘致だ。友人への頼み事の形を取るか?外部協力と名称を変えればいい。だがもたらされた結果如何で、自分は責任を追及されるだろう。そもそもSTORMの出方もわからない。自分とバロンの友人関係は要らぬ憶測を生むだろう。そしてそこは自分を失脚させたいエリザベスにとって都合がいい。STORMという外部ギルドを呼び込み、混乱を企てたと認識される事。これが最悪のシナリオだ。最高のシナリオは、自身の関与を気取られずSTORMの武力を行使し、薬物の精製基地を破壊する。


 先ずは調べなければ、とアレックスの足は自宅へ続く通りを右にそれた。中央区には二十四時間開放されているランドマリー大図書館が存在している。今からだ、と彼の足は早くなった。今からでも、この国で認識されているバロン・クラウドの情報を集める。そして彼を更にゴーストの様な存在へと仕立て上げる。様々なものを騙さねばならない、とアレックスは感じているが、その事実に心も躍った。他人を騙すためには他人より大量の情報を持っている必要があるからであり、アレックスは彼の性質上、それが無類の好物であった。


 大図書館の正面玄関は重厚だ。長く続くエントランスにはやはり街灯が定間隔で点っている。そこを駆け抜けながら、夜間開放されている小さな扉に手をかけた。頭の中に浮かんでいるのは、エリザベス・ローウェル、弱者の為に泣きながら弱者を食い潰し、その事実を無視する金髪のエリート女だ。


「吠え面をかかせてやる」


 勢いよく引いた扉の中に体を滑り込ませ、アレックスの体は図書館の中に消えていく。大図書館玄関に設置されている大時計の針は23時にさしかかっていた。


挿絵(By みてみん)

次回、アレックスはエリック・スターリングとの会談に臨む。面白いと思ってくだされば評価お願いします。

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