Stresses Pt1 2
【ミナはルーグーに会う事ができるが、彼らから懲罰を受ける】
三角形に切り取られた白く巨大なシャッターには、福倒了が刻印されている。逆さまの福の文字の奥に不気味に輝く白いスカルの意匠。フラッフィーマンションの東側を支配する白骨幇のここが本拠地だ。廃駅校舎の天井裏とも言うべき空間をアジトとし、不法移民達を受け入れ一つの社会を作り上げた張本人達がここにいる。三角に切り取られた白いシャッターの両脇にはやはり銃を持ち、白い髑髏の仮面を被った男が二人控えていた。仁王立ちに立つミナと、その後ろに控えて俯くカヴィアを一瞥したあと、右の長身の男が低い声を出した。
「打开门!(門を開けろ!)」
ゆっくりと下からシャッターが上がっていく。室内にあるだろう赤いランタンの光が漏れ始め、それに照らされた数名の人間達の足元が見え始めた。轟音の中見えてきたのは銃を持った十名ほどの人間の姿。衣装はそれぞれだけれども、顔は髑髏の仮面で隠されている。その集団の中央、白いソファに座した白いジャケットを着た髑髏の仮面の男。そいつは特上のソファに腰掛けたまま、膝の上に両肘を乗せ指先を組ませた状態で俯いていた。華国語にて人間の頭蓋骨を表す、颅骨。白骨幇のギルドマスターにして站夢巷の支配者である。
「カヴィア。我昨晚告诉过你。杀了她。(昨夜言ったぞ。彼女を殺せ。)」
俯いたままの颅骨は、カヴィアにそう呼びかけた。彼の声を聞いたカヴィアの表情が微かに崩れて、泣き笑いの表情になる。
「做不到(出来ない)」
カヴィアの細い声を聞いた颅骨が、喘ぐように頭を下げる。組んだ指先を握って体を前後させた。そして叫ぶ。
「保护她比死亡更重要吗? !(彼女を守る事は、死ぬ事より大切なのか?!)」
静かに微笑んだままのカヴィアは颅骨の言葉を受けて視線を落とした。汚れたミリタリーブーツのつま先を見ながら彼女が答える。
「我昨晚就说过了。遵循父亲的教诲比死亡更重要。(昨夜言った。父の教えを守る事は死ぬ事より重要だ。)」
組んでいた指を外した颅骨はそのまま頭を掻きむしる。喉の奥から悲嘆の唸り声をあげて、髑髏のマスクごと頭を抱えた。
二人を見ながらミナは腹の奥で下世話な予想をした。一介のギルドマスター、そして勧誘者の関係を超えている。恐らくは二人とも互いに特別な感情を抱いているのだろう、と。そしてミナはその瞬間、カヴィアへの特別な興味を失った。美しかったカヴィアもまた、男に絆され男に騙される可愛い少女でしかなかったわけだ。そんなか弱い少女なのだから、私の正義が理解できなくても当然だ。
「蘭語で話して。何を言っているかわかんない」
そう二人を鼻で笑った直後、とてつもない質量にぶつかられたような衝撃があって体が後方へ吹っ飛んだ。ベクトルの方向に肉体は引きずられ、強打した背中の傷を増やす。伏した体が静止して理解できた。あれは発砲音だ。白黒する意識で顔をあげて何が起こったのかを確認する。倒れた自分に向かって颅骨は銃を向けていた。黒い銃砲から硝煙が漂っている。ミナはやっとそこで、自分が何と対峙しているのかを理解した。血の気が一気に引いていく。
抜けた腰を掻きながら、銃口から距離を取ろうとした。左の肘をついて体を起こそうともがいた時、とてつもない激痛が腕に走る。顔を顰めて手を当てると既に肩から大量の血液が滲み始めていた。喉の奥が恐怖で締め付けられて絶叫は塞がれた。その代わり漏れ出たのは激痛を逃す過呼吸と大量の冷や汗だ。かっ、あ、と肩を押さえたまま転げ回る彼女の前を見た颅骨が立ち上がった。手にはグローブラスト、軍用のアサルトライフルが握られている。
「住口!傻屄!不要因为自己缺乏知识而责怪别人!(黙れ、クソ女め!自分の不勉強を他人の所為にするな!)」
ガチャガチャと金属の操作音が辺りに響き渡る。颅骨の背後に控えていた白骨幇の面々が、握っていた武器の安全装置を次々に解除していく音だ。そしてその音が止んだ時、その場にある銃口はたった一つを除いて全てがミナの額に照準を合わせた。噛み合わなくなった歯をガチガチと鳴らしながら、ミナは死の恐怖に怯えている。迫り来る運命から逃れようと、重い体を引き摺りながら後退する。惨めな死。英雄には程遠い死。嫌だ、と口に出さずミナは絶叫した。私はこんなところで死ぬ人間ではない!能力があってまだ発見されていないだけの、有能な人間なんだ!だからカヴィアを見た。見限ったはずのカヴィアはただ一人、静かな背中を整えて、白骨幇に向き合っている。霞む目を見開いて彼女を見上げた。激痛にのたうちながら、ミナは声にならない声でカヴィアに命令する。何をやってるの、私を守れ、金を払ったのよ、仕事をしろ!
颅骨の深い声が静かな廃駅校舎に響き渡る。
「カヴィア……。别拿枪指着我(俺に銃を向けないでくれ)」
怒りに燃えながら見上げたカヴィアの背中は静かだった。それでも彼女の腕は後方に引かれ、肩に鉄製の棒が押し当てられていた。腕を辿れば、彼女の開かれた左手のひらには銃砲が乗っている。右手の指ははトリガーにかけられている。照準を覗く目は颅骨の眉間を狙っている。鋭い戦士の目で真っ直ぐに死を見つめながら、カヴィアは静かに呟いた。
「Please。私に貴方を撃たせないで」
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