表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VOODOO  作者: 路輪一人
Could this be
10/40

Stresses Pt1

【ミナの無謀を必死で止めるカヴィア。二人の間の溝は決定的になる】

 鋭さを持って歩き始めたミナの腕を取って、カヴィアが叫ぶ。


「ミナ!ダメ、ダメだ!殺されるよ!」


 掴まれた手の感触がうっとおしくなって、ミナは手を振り払う。


「その為の護衛でしょ?!」


 向き合ってカヴィアに発した。ミナの言葉を聞いて目を見開いたカヴィアはわなわなと震える腕を開きながら訴えた。


「これは、……こんなのは護衛じゃない……!護衛の範疇を超えてる!この人数を相手に戦闘が出来る準備なんかしてない!ミナ、聞いて!契約書にあったでしょ?!私達は危険地域に居るんだ!ガイドである私、私の協力者の指示に従えないなら、契約違反になる!貴方を守れないよ!」


「仕事よね」


 ずっと引っかかっていた車内での会話を意趣返しに使った。


「貴方は言ったわよね。義務を重んじる、責任を全うできる事に喜びを感じる。契約を行った以上、責任は果たして貰うわ、それが仕事よね?!」


 口を結んだカヴィアが愕然とした表情でミナを見上げている。気分が良かった。カヴィアは口が立つほうではない。実直ではあるが、どちらかと言えば行動で語るタイプ。考えればそこもミナの癪に触った。女性は賢くなければならない。女性は義務に生きてはならない。女性は自由に生きねばならない。それをこいつは自らを規範で縛っている。それはいずれ女性の自由を奪う考えだ。


「………!仕事、仕事だけど、これじゃあ守れない!私たちの命は彼らに握られてるんだ!いいかい、ミナ、ここじゃ颅骨ルーグーが法律なんだ!彼らや彼らのコミュニティを害したら支援を得られない!それどころか排除される!貴方だって死にたくないでしょう?!」


 死という言葉がミナを刺激した。少し低いカヴィアの肩を両手で掴んだミナは彼女に顔を近づけて呻く。フラッフィーマンションに出没する嘆き女(バンシー)の様な危機迫る怒りの表情で。


「死ぬ。いいわ、死ぬのもいい。でもね、カヴィア、考えて。VOODOOの出所の背後を暴けば、何万人もの人間が死から救われるの。私達二人の命と、何万人もの罪のない弱者の命、どちらが重いかしら。正義を成せる状況で正義を行わない、それは義務の放棄よね?!私は情報を手にした。だから私の義務を行ってる!知識を得てその知識に見合う行動をしてるの!」


 カヴィアは目を伏せた。それでも口元を狭く浅い息を繰り返して、頭を振りながら声を振り絞る。


「死ぬ事を簡単に考えないで……!ここでの死は人間として死ねないって意味になるんだ!」


 カッとなったミナが声を荒げた。


「私に覚悟が足りてないって言いたいの?!何が誇りよ、何が義務よ!行うべき時に行動を起こせない人間こそ本質が見えてない、覚悟がたりないのよ!知識を得て、思考すれば必ずその帰結に行き着くはずよ!誰だってそう!例外なんてない!」


 震えながら口を結んだカヴィアは小さくなって俯いた。喉の奥から漏れたのは涙交じりの嘆願だった。


「……どうしてそんなに怒るの………?私が何かした………?」


 ああ、腹立たしい!それを飲み込んだのは、ミナが勝利を実感したからだ。慈悲は何も正の感情から発する者ではない。マウンティング、自身の勝利を確定させる為にも用いられる。泣きそうなカヴィアから体を離したミナはやはり揺るがない尊大さでカヴィアに命じた。


「傭兵でしょう。大義の為に戦えるわよね。私も貴方に命を預けてる。どちらにしろやるしかないじゃない。この状況になったんだから」


 ミナは俯いて立ち尽くしたカヴィアに背を向ける。冷たい背中の後ろで一度涙を拭いたカヴィアが、鼻を啜って、力なく呟いた。


颅骨ルーグーに会える様調整をするよ……。この状況だから最悪殺される……。でも白骨幇バイグーバンは規律のギルドだ、陳情すればなんとかなるかもしれない……」


 消え入りそうなカヴィアの言葉を、「そう」とだけ呟いて断ち切った。この状況で泣き言を言うなんて、なんてか弱い情けない女。鼻から吐かれた興奮を冷ます吐息には、確かに心地のいい愉悦が含まれていた。カヴィアを置き去りに歩きながら、ミナの頬は上がって行く。これが私。静かになった站夢巷ジャンモンシアン、警戒の静けさに染まった廃駅のホームを、ミナは威風堂々と歩き出した。揺れる長い髪が興奮の足取りに揺れる。これが強さ、これこそがミナが考える女性が持つべき強さと誇りである。


 ◇◇◇


 夜になっても、カヴィアは部屋に戻ってこなかった。部屋の隅には彼女の私物である武器の類がきちんと整頓されて置かれてある。少し広がった空間に一抹の寂しさを覚えながら、それを綺麗に無視してミナは眠る。目が覚めたら、そこから見たこともない〝女性による英雄譚〟が始まるのだ。寂しさは高揚の予感に打ち消された。天窓からは美しい星の光が降り注いでいた。


 ノックの音で目が覚めた。扉の前でカヴィアの枯れた声がする。「入るよ、ミナ」体を起こして彼女を見る。疲れ切って静かになったカヴィアがそこにいた。初めて会った時の力強い明るさはなく、代わりに全身にまとわりつく様な静謐で暗い雰囲気を纏っている。両目が赤く腫れているのが目に入った。罪悪感が一瞬ミナに胸を掠めたが、無視をした。カヴィアの顔を見ずに言った。


「で、颅骨ルーグーには会えるの?」


 髪をかきあげて不機嫌を装う。カヴィアはミナの態度に小さく微笑んで、うん、とだけ発した。室内にカヴィアのブーツの音が響き、荷物の前で止まる。一抱えある荷物を抱え上げて、彼女は無言で退室した。荷物を全て持って出る、と言うことはきっともうここには居られないのだろう、とミナも察する。しかしミナにとってそれは始まりの朝だったのだ。毛布を跳ね上げベッドから起き、身支度を始めた。顔を洗う為に赴いた洗面台で、ミナは久々に自分の容姿を観察した。私は、こんなに険しい顔をしていたかしら?


 部屋を一歩出たら、駅校舎の天井をまっすぐに突っ切る通路の端に、カヴィアがいた。ギルド白骨幇の拠点の入り口で、カヴィアは髑髏の仮面を被った何者かと話している。髑髏の仮面を被った恐らく男性だろう彼は、銃を片手にもう片方の手をカヴィアの肩に添えて、彼女に話しかけていた。それを見たミナはまた不機嫌になった。強くもない、頭も悪い女であるのに、何故彼女はこんなにも沢山の人に愛されているのだろう。自分の様に賢く勇気のある女性こそ尊敬されるべきなのに。カヴィアにかけられる愛を奪う為に、ミナは足早にカヴィアの側へとかけよった。ミナを見上げたカヴィアの目にはまた涙が浮かんでいる。髑髏の仮面の人物はやはり男性だった。ミナにはわからない言語で、カヴィアに呼びかけている。


「现在就辞掉你的工作。这不是一个任务。你不是奴隶。(今すぐ仕事を放棄しろ。これは任務ではない。お前は奴隷ではない)」


 髑髏の仮面の男を見上げたカヴィアが力なく微笑む。


「谢谢你,喉結。但我必须保护她。因为这是我的工作。(ありがとう、喉骨。でも、彼女を守らなきゃ。私の仕事だから)」


「我现在就可以杀了他。(私がここで殺してもいい)」


 怒気を含んだ男は、そう言いながらミナに視線を向けた。けれど彼の大きな手、銃を握る手を押さえてカヴィアは弱々しく微笑む。


「没关系。谢谢。(いいんだ。ありがとう)」


 そう彼に言って、カヴィアはミナに向き直る。


「この先で、颅骨ルーグーが待ってる。一緒に行こう。話は聞いてくれるらしいから」


 憎々しげに此方を睨みつける髑髏の仮面の男を一瞥して、ミナはカヴィアの後に続いた。歩きながらミナは頭の中で颅骨ルーグーに言うべき言葉を組んでいる。正義とは普遍だ。明確な正義というものは存在し、人間はそれを行うべきだ。啓蒙し知識を拓けば必ず結論は正義へと帰結する。これは言葉による正義を成すための戦いだ。正義がかつて敗北したことはないのだから、必ず自分も勝つはずだ。それこそがこの世界の唯一の価値なのだ。


挿絵(By みてみん)

面白いと思ってくださったら評価お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ