4話「新米バニー?」
「失礼します……。」
薫が指定された部屋に入ると、そこは至って普通の面接室だった。
血みどろの不気味な雰囲気を想像していた分、拍子抜けしてしまう。
面接官らしき青年は、想像以上に美しかった。
光を集めるようなブロンドの髪、深紅の瞳――どこか非現実的で、
むしろ“人”なのか疑いたくなるほどだ。
(……さっきのやばい人じゃなかった。よかった……)
そう安堵したのも束の間、青年の視線が真っ直ぐ薫を射抜く。
「……大丈夫か? 顔色が悪いようだが…?」
「え、あ……だ、大丈夫です!」
声が裏返り、薫は慌てて否定する。
だが、心臓はさっきの余韻のせいか少し痛い。
──本当は大丈夫じゃない。でも、知らなかったことにしよう。
あれが何であれ、ここで余計なことを口走るのはマズい。
(……ていうか、こんな美形が面接官って何?
“容姿は問わず”って書いてあったけど…。
この調子ならきっと僕は落ちるはず…そうなって欲しい!)
「では、面接を始める」
青年は淡々と告げる。
薫も姿勢を正し、意を決して口を開こうとした――が。
「合格だ」
「……は?」
言葉が喉に詰まったまま、薫は一瞬息を呑む。
“合格”という言葉が、まるで理解できない謎のように胸に響いた。
「ん?…あぁ、名前を言い忘れてたな。俺はしゅうだ。」
「いやいやいや…言うべきことはそこじゃないでしょ!」
青年…いや、しゅうという面接官は、
ポカーンとした表情でこちらを見つめてくる。
薫の表情も、どうしていいかわからずに固まっていた。
胸の奥はまだざわつき、呼吸は少し浅くなる。
(そうだ、あれは"合格だ"ではなくて、互角だって言ったんだ。
僕の前に面接していた人と互角で張り合ってるってことだ!
うん、そうだ。そうに違いない。)
でも、頭ではそう思いつつも、全身は微妙に緊張を解けずに固まっている。
普通、まだ何も話していないのにいきなり合格って言うのはおかしい──と、
常識的に考えれば自然にそう結論付けるはずだ。
きっとあれは僕の聞き間違いなんだ──そう、自分に言い聞かせていた。
「あ、僕も名前言ってませんでしたね…僕は瀬戸薫です!」
「あぁ…。では、そこから源氏名というか活動名を──」
声が震えそうになるのを必死に抑えながらも、薫はゆっくりと答える。
その一言ごとに、胸のざわめきがまた一段と強くなるのを感じた。
「や、やだな〜…しゅうさん。僕まだ"互角"なんですよね?」
しゅうの目が、真っ直ぐ薫を見つめる。
まるで問いかけるように静かに、しかし確実に。
「……?"合格"だが」
その言葉を聞いた瞬間、薫の頭の中が一瞬白くなる。
──やっぱり…聞き間違えじゃなかったのかもしれない。