行き着く先は
「ほぎゃああああああああ!!!」
薫は叫び声を上げ、今まで意識していなかった恐怖と不安が一気に押し寄せ、腰を抜かした。
足が勝手に震え、手のひらからじっとりと冷たい汗が滲む。
青年の視線が薫に向けられる。
ゆら、ゆらと、青年はゆっくりと近づいてくる。
コツン……コツン……と靴音が路地に響き、まるで死神が足音を立てて迫るようだ。
「ひっ……あ、あっ…」
声にならない声が喉の奥でかすれ、薫の心臓は今にも破裂しそうに跳ねる。
青年の影がどんどん大きくなり、逃げたいのに足は鉛のように動かない。
ついに青年の歩みが薫の目の前で止まると、薫は心の中で地元の母に感謝と詫びを伝えていた。
産んでくれたことへの感謝。
母を一人残して家を出てきたことの後悔。
そして、子どもの頃から数えきれないほど迷惑をかけたこと……。
「母さん……ごめ……」
視界がじわりと歪み、絶望の色に覆われていく中で、薫がそう呟こうとした時。
青年の両手が、薫の頬をふわりと挟んだ。
「……っ!」
あまりに予想外の行動に、薫の身体がビクンと跳ね上がる。
至近距離で初青年の顔がはっきりと映る。
──女の子のようで、どこか神秘的な容姿。
甘く、どこかお酒の匂いが漂う香り……。
「ねぇ、大丈夫? 二日酔い? それとも……」
「え……? いや、僕……お酒は飲めませんけど……」
恐怖と困惑が入り混じり、薫の返事は震えていた。
「じゃあ君って──いや、こんなことしてる場合じゃない!」
青年は薫に何か言いかけたが、焦ったように裏口の扉へと駆け込んだ。
嵐のように──いや、脱兎のごとく去っていったのは、まさにこのことだろう。
「一体、何だったんだろう……あれは明らかに血……いや、いやいや……」
薫は、胸が早鐘を打つのを感じながら、ただ呆然と座っていた。
しばらくして我に返ると、彼も裏口へと足を向けた。
さっきあんなに恐ろしい場面に遭遇したのに、
なぜ薫は面接を受けようと思ったのだろうか──?
──理由は簡単だ。彼はポジティブなのだ。
薫はきっと、さっきの出来事も「そういうコンセプトの一環」として処理し、
恐怖を自分の中でやわらげているのだろう……。
小話:薫のポジティブさは母親譲りで、ポジティブというより強メンタルなのかも知れません……