鍛冶屋
「」の続きです!
〜前話までのあらすじ〜
人々の転生を司る「転生管理人」で日本を担当しているのフィオラムは気分で人の転生先を決めるとんでもない女神だった!
そんな彼女の元に、自殺した神崎好友がやってくる。
その境遇に同情したフィオラムは好友に‘エミル・グスタフ’という名とチートスペックを与え、町の英雄として転生させた。
英雄に転生したエミルは町行く人々を切りつけようとしていた通り魔の凶刃をその一身で受け止め、通り魔を確保した……!
「体張ってまで私達を助けてくれて本当にありがとうございました!感謝してもしきれません!」と助けたカップルの2人が頭を下げてきた。
「いや、いいよ……それもこんな大通りの真ん中で……」と恥ずかしくなったエミルはそう言うが2人は頭を下げたままだ。
あのパーカー男は衛兵が来て連行されていった。刀はスキルで出した物だったらしく、煙の様になって消えてしまったと目撃者が言っていた。
犯人捕獲のために来た見知らぬ衛兵からは「流石です!エミル様!」と大声で言われた。
恥ずかしいったらありゃしない。
目の前の2人も「何かエミル様のお力になることがあれば何なりと!」と頭を下げたまま。
エミルとしてはここまで言われると無下に断るのも悪い気がしてくるのだ。
エミルは遠慮がちに口を開く。
「……じゃあ、剣とか作ってくれそうな鍛冶屋さんまで案内してくれる?」
すると青年の方がパッと顔を上げた。
「鍛冶屋ですか?」
鍛冶屋のことを再確認してくる。英雄が鍛冶屋に行ってる姿はそんなに格好が悪いだろうか。
「……うん。剣が壊れちゃってるらしいし」
「らしい……?」といつの間にか頭を上げていた少女の方が怪訝そうな顔をする。
エミルはヤベっと思い、慌てて訂正した。
「あっ、ごめん。言い間違い」
場が静かになった。
青年が取り繕うように言う。
「では、今から村一番の鍛冶屋にお連れします!」
そして3人は出発した。
町の大通りを歩いていると道ゆく人の心が聞こえてくる。
〈謙虚で素敵なお方ねぇ〉
〈2人を助けるために犯人に腹刺されたんだって。それで純白のマントがあの真紅になっちゃったらしい〉
〈ヤバっ!流石この町の英雄様だね〉
自分にしか聞こえない心の声がエミルには堪らなく苦痛だった。
やめてくれ。私はそんな物語みたいな英雄じゃない。臆病で小心者だ。
それに英雄ならどんな理由があれど心中なんかしない。
そんな人々の期待がエミルには重圧と化していた。
「着きましたよ」という青年の声でエミルはハッと我に帰った。
目の前に「鍛冶場 ヴィオレット」
「あ、ありがとう」
ぎこちない物になった。
「親父ー!ちょっと来てくれ!」と青年が鍛冶屋の内部に向かって声を張り上げた。
エミルの思考回路が一瞬フリーズした。
親父?
その2文字にエミルの頭の中が支配された。
すると中から50代ほどの髭面の男が出てきた。
「おう!どうした?」と髭面の男が気さくそうな声を出す。
すると青年が髭面の男に駆け寄り耳元でかくかくしかじかしている。
事情を察した髭面男は急にかしこまり
「まさか貴女がエミル様だったとは!申し遅れました。私この町で鍛冶屋を営んでおります、レミス・ヴィオレットです。こちらは息子のシショクです。息子を助けてくださりありがとうございました!ご用件をなんなりと!」
鍛冶屋と言った途端、青年—シショクが反応したのはそういうことか、と納得した。
「じゃあ、先の戦いで剣が壊れてしまったので、剣をお願いします」
「剣ですね。分かりました!二度と壊れない、最高の剣を仕上げますよ!明日までに完成させます!お疲れの様ですからゆっくりとお休みください」
「ありがとうございます!」とエミルはレミスに頭を下げた。
「では、明日の朝またお会いしましょう!」とレミスが手を振る。シショクとその彼女も手を振っていた。
エミルは近場に宿を見つけ、そこで明日の朝まで待機した。
本当は道中カフェを見つけたので寄ってみたかったが、入った途端に
「エミル様、エミル様」と言われるのが嫌だったからだ。
翌朝、エミルは宿の管理人に礼を言い鍛冶屋に向かった。
鍛冶屋の前に行くとレミスが立っているのが見える。
レミスはエミルに気がつき大きく手を振った。
エミルも振り返す。
「完成してますよ。エミル様」と言ってレミスは剣をエミルに手渡してきた。
礼を言いながらエミルはそれを受け取り、鞘を抜いた。
美しい銀色の刃に彼女の顔が反射していた。
「綺麗……」と思わず声を漏らした。
レミスは嬉しそうな顔をする。
「でしょう?耐久性抜群で切れ味も良い‘ヴィオレット特製合金’を使ってますから」
「ありがとうございます。えーっとお値段は?」
そう言いながらエミルが財布を取り出そうとすると
「要りませんよ。息子を助けてくれた事に対する礼だと思って受け取ってください」
レミスはそう言いながら笑った。
エミルは改めて頭を下げた。
その時、30代ほどの女性がエミルに駆け寄ってきた。
「どうか助けてください!エミル様!うちの子がモンスターに……」
この言い方だとこの女性は母親だろう。
「分かりました!案内してください!」とエミルは言いながらその女性と一緒に駆け出した。
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